前回はサルコペニアを主体の文献でしたが今回はリハビリと栄養が主体となります。
はじめに
リハビリテーション(以後下記:リハ)を要する障害者やフレイル高齢者には、低栄養やサルコペニアを認めることが多い。そのため、運動器の健康を守るには、リハ栄養の考え方が重要である。
リハ栄養とは、国際生活機能分類による全人的評価を栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、診断、ゴール設定を行った上で、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し、機能・活動・参加、Quality of life(QOL)を最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である。
低栄養の原因は、飢餓・侵襲・悪液質に分類される。
また、大腿骨近位部骨折では、サルコペニアの摂食嚥下障害を合併しやすい。
入院後の「とりあえず安静・禁食・水電解質輸液」による医原性サルコペニアが問題である。
医原性サルコペニアの予防には、発症後早期の適切な評価と早期リハ(早期経口摂取・早期離床)と早期からの適切な栄養管理が大切である。
リハビリテーションと低栄養
リハを要する障害者やフレイル高齢者には、低栄養を認めることが多い。
高齢者は、身体的要因(消化器疾患,悪性腫瘍,慢性臓器不全などの併存疾患や口腔・摂食嚥下機能低下など)・精神的要因(認知症,抑うつ状態)・薬剤的要因(ポリファーマシー,薬剤副作用)・社会的要因(少ない外出機会や対人交流,独居,介護力不足,経済的問題など)のために低栄養となりやすい。
リハ病棟・施設に入院・入所している高齢者の約5割に低栄養やサルコペニアを認める。
低栄養は、四肢体幹、嚥下関連筋、呼吸筋の筋肉量減少や筋力低下を生じて、寝たきり、摂食嚥下障害、呼吸障害の一因となる。
リハビリテーション栄養とは
リハ栄養とは国際生活機能分類(ICF)による全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、診断、ゴール設定を行った上で、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・栄養素摂取・フレイルを改善し、機能・活動・参加、QOLを最大限に高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」である。

リハ栄養で最も重要なアウトカムは、体重や血清アルブミン値など検査値の改善ではなく、機能・活動・参加、QOLの改善である。
そのため、近年ではリハと栄養を一緒に考えることが当然となりつつある。
リハビリテーション栄養ケアプロセス
質の高いリハ栄養の実践には、リハ栄養アセスメント・診断推論、リハ栄養診断、リハ栄養ゴール設定、リハ栄養介入、リハ栄養モニタリングの5段階で構成されるリハ栄養ケアプロセスの実践が有用である。


このマネジメントサイクルを回し続けることが、リハを要する障害者やフレイル高齢者の運動器の健康と栄養に有用と考える。
リハ栄養診断:低栄養の原因
低栄養の原因は、飢餓・侵襲・悪液質に分類される。
飢餓:エネルギー摂取量がエネルギー消費量より不足する状態が続くことで生じる。
侵襲:生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激であり、手術・外傷・骨折・急性感染症・熱傷などの急性の炎症で生じる。運動器疾患による入院患者では、侵襲を認めることが多い。侵襲では一時的に代謝が低下する傷害期、代謝が亢進して骨格筋の分解が増加する異化期、骨格筋や脂肪を合成できる同化期に分類できる。※高度の侵襲による異化期では、1日に1㎏の筋肉が分解されることがある。CRP5㎎/dl異常を異化期、CRP3㎎/dl以下を同化期と判断する目安がある。
悪液質:「併存疾患に関連する複雑な代謝症候群で,筋肉の喪失が特徴である。脂肪は喪失することもしないこともある。顕著な臨床的特徴は成人の体重減少(水分管理除く),小児の成長障害(内分泌疾患除く)である。食思不振,炎症,インスリン抵抗性,筋タンパク崩壊の増加がよく関連している。飢餓,加齢に伴う筋肉喪失,うつ病,吸収障害,甲状腺機能亢進症とは異なる」。悪液質=終末期でないことに留意する。ガン、慢性心or腎or呼吸or肝不全、慢性感染症、関節リウマチなど膠原病が、悪液質の原因疾患である。

リハ栄養ゴール設定
リハ栄養介入の前に、リハと栄養のゴールを設定しなければ、適切な介入計画を立てることができない。ゴールはSMARTに設定することが重要である。
Specific(具体的)
Measurable(測定可能)
Achievable(達成可能)
Relevant(切実・重要)
Time-bound(期限が明確)
身体活動を考慮した栄養管理
メッツ(metabolic equivalent)とは、運動や身体活動の強度の単位であり、安静時(横になって静かにテレビを観る、睡眠)と比較して、何倍のエネルギーを消費するかで活動強度を示す。運動によるエネルギー消費量の計算式は1.05×体重(㎏)×メッツ×時間(h)である。

サルコペニアの摂食嚥下障害
サルコペニアの摂食嚥下障害とは、全身および嚥下関連筋の筋肉量減少、筋力低下による摂食嚥下障害である。
誤嚥性肺炎や大腿骨近位部骨折術後の入院患者に生じやすい。
入院前は摂食嚥下機能のフレイル(orサルコペニア)である老嚥程度で3食常食を普通に経口摂取していた方が、入院後短期間で重度の摂食嚥下障害となりやすい。
サルコペニアの摂食嚥下障害の診断には、フローチャートを用いる。
臨床現場で嚥下関連筋の筋肉量を評価するのは容易ではないため、筋肉量を評価しなくてもprobable diagnosis(可能性が高い)、 possible diagnosis(可能性がある)と判断できるのが特徴である嚥下関連筋の筋力低下は、舌圧が20mPa以上か未満かで評価する。

サルコペニアの摂食嚥下障害の予防や治療でも、リハ栄養の考え方が有用である。医原性サルコペニアを作らないために、発症後早期の適切な評価と早期リハ(早期経口摂取、早期離床)と早期からの適切な栄養管理を徹底的に行うことが大切である。
おわりに
運動器の健康を守るためには、運動やリハと栄養の併用が大切である。管理栄養士や栄養サポートチームと連携しながら、適切なリハ栄養管理を臨床現場で実践することが重要である。