文献抄読

「ニ関節筋」理学療法関連用語~正しく理解しよう~

ニ関節筋とは

起始と停止が2つの関節をまたぐ筋を指す。

単一関節に関係する単関節筋と対比されることが多いが、多くの関節に作用する多関節筋という語の一部とも考えられる。

下肢では

大腿直筋、半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭、腓腹筋など

上肢では

上腕二頭筋長頭、上腕三頭筋長頭など

ニ関節筋は2つの関節をまたいでいるため、一方の関節運動は他方の関節の影響を受ける。

端座位で膝関節最終伸展を行う際に骨盤後傾が起こりやすいのは、ハムストリングスの短縮のためである。

しかし、骨盤後傾は大腿直筋の起始部を停止部から遠ざける効果もある。

投球動作やキック動作のように、四肢末端が強いトルクを出す際には、主動作筋の筋長を最大限にしていることが観察できる。

キック動作のフォロースルーでも、骨盤後傾と体幹回旋によって、下前腸骨棘は脛骨粗面に容易に近づかない。そのためキック動作では、下肢末梢の瞬間中心は股関節よりも中枢の体幹に位置するようになる。

このように、二関節筋は関節中心から遠い浅層に位置するため、レバーアームが長いことも大きなモーメント発揮に有利であると考えられる。

二関節筋は2つの関節の運動をつかさどる

運動のパターン化を来す場合もある。

変形性膝関節症における大腿筋膜張筋~腸脛靭帯の強い緊張、ジャンパー膝における大腿直筋の強い活動は、拮抗筋機能低下だけではなく、筋の付着部付近の単関節筋活動の機能低下とも結びついている。

骨盤付着の二関節筋はすべて体幹姿勢の影響を受ける。

例えば

ジャンパー膝では、股関節屈曲モーメントが大きくなる骨盤後傾姿勢をとりやすく、同時に膝関節伸展モーメントを増大させてしまう。

つまり、ある二関節筋が作用すれば、最小限の姿勢保持や動作が可能であるため、他の筋群の活動は必要とされない姿勢になり、負荷が一箇所に集中するようなる。

したがって、ジャンパー膝の原因療法としては、股関節伸展モーメントを動作中に増大するような運動療法が考えられる。

変形性膝関節症でも、股関節外転モーメントの増大は骨盤の反対側への傾斜、中殿筋筋力低下と共に生じ、二関節筋への負荷が過剰であるために生ずるとも言える。

以上のように、筋炎や腱炎、肉離れなどは二関節筋特有と言っても過言でなく、さらに二関節筋の過剰な運動参加は関節不安定化に移行しやすいなど、機能障害と結びつきやすい。

関節疾患における単関節筋機能向上の運動療法が、肩関節や体幹に代表されるローカルマッスルへのアプローチに移行したのは機能障害との関連からであり、臨床に導入された根拠ともなっている。

バリエーションと深い関係

一方、運動にバリエーションを求めるダンスや、相手の動きを読み合う武道では、隣接する関節を独立して動かす能力を向上させる。

確かに、一方の関節が動く時に他方が動きやすいのは、パターン化やバリエーションと深い関係がありそうである。

しかしながら、二関節筋の活動には不明な点が数多い。

立ち上がり動作を考えてみても、なぜ大腿直筋とハムストリングスが同時に作用しているのかの明確な回答がない。

これらに対して、熊本はこれまでの概念とは異なる二関節筋特有の協調制御モデルを考案している。

これは、上腕や大腿の拮抗二関節筋が、肩~肘および股~膝関節単関節筋と協調して出力方向制御を行っていることを示す概念である。

上下肢先端の出力制御を3対6筋から説明できることを示し、数学モデルの開発から協調制御ソフトウエア開発、ロボット開発など様々な活動を行っている。

そして、単関節筋が発生学的に抗重力作用を有することを指摘しており、長期臥床者における単関節筋萎縮を示唆している。

特に出力制御や剛性制御は、例えば単関節筋トレーニングや姿勢制御を考えるうえで理学療法の臨床応用にも期待が持て、今後注目する必要がある。