リハビリテーション

変形性膝関節症の保存療法|若手PTが知るべき痛みの正体と2本柱戦略

変形性膝関節症の保存療法|若手PTが知るべき痛みの正体と2本柱戦略

> 整形外科に就いた頃、膝OAの患者に「大腿四頭筋を鍛えましょう」と言い続けていた。痛みの原因を特定せずに処方していたあの頃の自分に、今の知識を渡したい。

担当した膝OA患者が改善しない。電気治療・湿布・大腿四頭筋訓練でルーティンを組んでいるのに、なぜ効果が出ないのか——若手PTがぶつかる典型的な壁だ。根本的な問いは「なぜ痛いのか」を理解していないことにある。本稿では、書籍『変形性膝関節症の保存療法』をベースに、①痛みの正体、②おきまりの保存療法の位置づけ、③2本柱の治療戦略、④エビデンスを使った治療選択の思考プロセスを順に整理する。

膝OAの「痛みの正体」を問い直す

軟骨には神経がない

「軟骨がすり減っているから痛い」——患者も医師もこのフレームで膝OAを語ることが多い。しかしこれは不正確だ。

関節軟骨は表層・中間層・深層・石灰化軟骨層の4層構造を持つが、石灰化軟骨層より浅い層には侵害受容器が存在しない。つまり、軟骨が減少しても、軟骨下骨が露出するまでは「軟骨そのものが痛みを出す」ことはない。KL(Kellgren-Lawrence)分類Grade IIで明らかな軟骨変性・骨棘形成があっても無症状の人がいる一方、Grade Iで強い疼痛を訴える患者がいる。X線上の所見と疼痛は必ずしも一致しないのだ。

では、何が痛いのか。

膝OAで痛みを発する7つの組織

書籍の整理によれば、膝OAにおいて疼痛を発しうる組織は以下の7つである。

1. 膝蓋下脂肪体

2. 滑膜および関節包

3. 筋腱付着部

4. 軟骨下骨

5. 半月板(外周1/3のみ神経支配あり)

6. 筋実質

7. 神経原性疼痛

このうち、臨床で特に頻度が高いのが①膝蓋下脂肪体、②内側関節裂隙周囲(滑膜・関節包・半月板)、③鵞足および半膜様筋(筋腱付着部)の3点だ。これが圧痛好発部位として触診の優先ターゲットになる。

膝蓋下脂肪体は、膝蓋腱の後面(深層)に接して位置し、膝蓋骨下極と脛骨粗面前上方の間を充填している。屈曲が進むにつれて膝蓋腱が後方へ緊張・接近するため、脂肪体は関節前方腔へ押し込まれるように変形し、この部位のインピンジメントが疼痛の原因となりうる。インピンジメントや炎症が生じやすく、豊富な神経支配(伏在神経膝蓋下枝)を持つため鋭敏な痛み源となる。

痛みの「正体特定」こそが治療の出発点

「なぜ痛いのか?」を問うには2段階の思考が必要だ。

1. どの組織が痛みを発しているのか(膝蓋下脂肪体?鵞足?半月板?)

2. その組織に加わるメカニカルストレスは何か(圧迫?牽引?捻じり?)

この2段階を省いてリハを処方することは、「どこかわからないが膝が痛いのでとりあえず大腿四頭筋を強化する」という介入になりかねない。

おきまりの保存療法の位置づけ

6つの保存療法とPTの役割

膝OAに対するおきまりの保存療法は以下の6つに整理される。

| 分類 | 具体例 |

|——|——–|

| 薬物療法 | 飲み薬(NSAIDs等)、塗り薬、注射(ヒアルロン酸・ステロイド) |

| 物理療法 | 湿布(外用剤)、ホットパック、電気治療 |

| 運動療法 | 大腿四頭筋強化、関節可動域訓練 |

これらは「おきまり」であるがゆえに、処方理由なしに適用されがちだ。薬物療法・物理療法は対症的に疼痛を抑えるが、痛みの原因となっているメカニカルストレスには作用しない。

整形外科医が把握していないことがある

書籍には率直な記述がある。「整形外科医が、理学療法士は膝OAの保存療法に対して何ができて、どういう効果を出せるかを知らない場合が多い」。これは批判ではなく現実の認識だ。

だからこそPTが「なぜこの介入を行うか」を自分の言葉で説明できる必要がある。処方箋に「理学療法」とあるだけで患者に向かうのではなく、治療の根拠を持ってアプローチすることがPTとしての職責だ。

2本柱の治療戦略

これが本稿の核心だ。膝OAに対する理学療法は、「対症療法的理学療法」と「原因療法的理学療法」の2本柱で構成されると理解すると、臨床の思考が整理される。

1本目の柱:対症療法的理学療法

「診断名(変形性膝関節症)ではなく、痛みを発している組織に対してアプローチする」という考え方だ。

  • ターゲット:痛みを発している組織そのもの
  • 手段:徒手療法(軟部組織モビライゼーション・関節モビライゼーション)、物理療法(局所への超音波・電気刺激)、テーピング等
  • 例:膝蓋下脂肪体の炎症 → 脂肪体へのモビライゼーションおよびテーピングで脂肪体への圧迫を軽減する

この柱は「どの組織が痛いのかを評価から特定する」という前提が不可欠だ。特定できなければ、対症療法は的外れになる。

2本目の柱:原因療法的理学療法

「病態のもととなるメカニカルストレスを軽減させる」という考え方だ。

  • ターゲット:痛みを発する原因となったメカニカルストレス(足部・股関節・体幹アライメントを含む)
  • 手段:筋力強化、アライメント修正、動作指導、装具・インソール
  • 例:内側関節裂隙への過剰な内反モーメント → 股関節外転筋訓練・インソール・歩容修正で内反モーメントを低減する

大腿四頭筋強化はここに分類される。ただし「なぜ大腿四頭筋なのか」という根拠が必要だ。大腿四頭筋の筋力低下が膝関節への衝撃吸収不全を引き起こしメカニカルストレスを増大させているから、という文脈で処方されるべきだ。

2本柱は補完関係にある

対症療法だけでは原因(メカニカルストレス)が残存するため再発しやすい。原因療法だけでは急性期の疼痛増悪に対応できない。両者をフェーズに応じて組み合わせることが現実的な治療戦略だ。

臨床での思考フロー

1. 圧痛好発部位を触診し「どの組織か」を絞り込む(対症療法の標的決定)

2. 動作分析とアライメント評価で「なぜその組織にストレスが集中しているか」を特定(原因療法の標的決定)

3. 急性期〜炎症期:対症療法優先で疼痛管理

4. 慢性期・回復期:原因療法にシフトしてメカニカルストレスを根本的に修正

エビデンスで治療を選ぶ思考プロセス

推奨グレードの読み方

理学療法介入の推奨グレードは以下の通り分類されている(日本理学療法士協会ガイドライン準拠)。

| 推奨グレード | 内容 |

|————|——|

| A | 行うように勧められる強い科学的根拠がある |

| B | 行うように勧められる科学的根拠がある |

| C1 | 行うように勧められる科学的根拠がない |

| C2 | 行わないように勧められる科学的根拠がない |

| D | 行わないように勧められる科学的根拠がある |

エビデンスレベルは1(システマティックレビュー/RCTのメタアナリシス)から6(専門家意見・患者データに基づかない)まで6段階ある。推奨グレードAはエビデンスレベル1〜2を根拠とすることが多い。

効果的な理学療法を選ぶ調査手順

「どの介入を選ぶか」で迷ったときの実践的な調査フローは以下だ。

1. 担当症例から「この介入は有効か」という問いを立てる

2. エビデンスレベル1(SR・メタアナリシス)から調査する

3. 高い効果を示した症例報告との整合性を確認する

4. ガイドラインの推奨グレードと照合する

5. 最終的に評価・治療法を選択する

「なんとなく効いた気がする」で処方し続けることと、「SRでRCTのメタアナリシスを確認した上で処方する」ことでは、説明責任の重みが変わる。

まとめ:診断名ではなく組織を見る

膝OAの保存療法で若手PTが最初に手放すべき思考は「膝OAだから大腿四頭筋を強化する」というパターン処方だ。

今日の整理:

  • 軟骨には神経がない。痛みを発する7組織を理解し、圧痛好発部位から「どの組織が痛いのか」を特定すること
  • 対症療法的PT(痛む組織へ直接介入)と原因療法的PT(メカニカルストレスの根本除去)の2本柱で考えること
  • 介入の根拠をエビデンスレベル・推奨グレードで確認し、「なぜこの介入なのか」を説明できること

膝OAは「診断名」ではなく「組織の問題」だ。その組織がなぜ痛みを発しているかを突き止めることが、PT介入の出発点になる。

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