リード文

ベッド上で膝を他動的に伸ばすと0度まで到達する。しかし、自分で伸ばしてもらうと最後の数度が残る。

この状態を、単純に「膝伸展可動域制限」と記録すると臨床推論がずれます。他動運動では到達できるのに、自動運動で到達できない差は、関節可動域だけでは説明できません。

見るべきなのは、関節が伸びるかではなく、伸展機構が終末域まで膝を動かし、その位置を保持できるかです。

エクステンションラグとは何か

他動膝伸展と自動膝伸展の差を示した図
他動膝伸展と自動膝伸展の差を示した図。図は理解補助のための簡略図です。

エクステンションラグは、他動膝伸展可動域と自動膝伸展可動域の差として捉えます。

例えば、他動では0度、自動では膝屈曲10度までしか伸ばせない場合、約10度のラグがあります。一方、他動でも膝屈曲10度までしか伸びなければ、中心問題は関節可動域制限です。

最初に分けるべきなのは次の2つです。

  • 他動でも伸びない:関節包、後方組織、疼痛、腫脹、骨性要因などを検討する
  • 他動では伸びるが自動では伸びない:筋出力、筋活動、疼痛性抑制、伸展機構、膝蓋骨運動などを検討する

両者は併存します。固定後には、他動伸展制限に自動伸展ラグが重なることもあります。

終末伸展ほど大腿四頭筋へ要求されること

膝伸展の終末域では、大腿四頭筋が単に収縮するだけでは不十分です。

大腿四頭筋の力を膝蓋骨へ伝え、膝蓋骨と膝蓋腱を介して脛骨を伸展方向へ動かし、終末域で位置を保持する必要があります。わずかな痛みや水腫によって筋活動が抑制されると、途中までは伸ばせても最後の数度が残ることがあります。

このため、徒手筋力検査で膝伸展4と判定されても、終末域の自動伸展が保たれているとは限りません。徒手筋力検査の代表値と、角度ごとの筋出力や運動制御は同じ情報ではないからです。

原因を5つに分ける

1. 大腿四頭筋の筋出力不足

固定、免荷、疼痛回避、活動量低下の後では、大腿四頭筋の筋出力が低下します。特に終末域で伸展を完了し、重力に抗して保持する能力が不足するとラグが現れます。

ただし、「筋力低下」で止めると評価が粗くなります。どの角度で保持できないか、反復で悪化するか、重力を減らすと改善するかまで確認します。

2. 関節原性筋抑制

関節水腫、疼痛、関節内受容器からの入力変化は、大腿四頭筋の随意的な活動を妨げることがあります。これは筋萎縮だけでは説明できない神経筋学的な問題です。

患者が努力しているのに収縮が入りにくい場合、「力を入れる気がない」と解釈してはいけません。

3. 疼痛による防御

膝蓋骨下極、膝蓋腱、膝蓋下脂肪体、骨折部周囲に痛みがあると、終末伸展そのものを避けることがあります。

痛みが出る角度、痛む場所、等尺性収縮での反応、膝蓋骨や皮膚への軽い補助で変化するかを確認します。

4. 膝蓋骨運動と伸展機構の問題

膝蓋骨の可動性低下、周囲組織の癒着、瘢痕、膝蓋腱の伸張性変化は、伸展機構の力の伝達へ影響し得ます。

膝蓋骨が動きにくいからラグが起きたと即断せず、膝蓋骨の頭尾側・内外側滑走、圧痛、皮膚・瘢痕の可動性、自動伸展時の膝蓋骨運動を組み合わせて評価します。

5. 伸展機構の連続性に関わる問題

外傷後や術後では、大腿四頭筋腱、膝蓋骨、膝蓋腱の連続性と治癒状態を確認する必要があります。大きなラグ、突然の機能低下、明らかな陥凹、荷重不能などがあれば、運動療法だけで判断せず医師へ確認します。

評価は重力条件を変えて行う

自動伸展を一つの肢位だけで評価すると、原因を分けにくくなります。

  1. 背臥位で大腿四頭筋セッティング
  2. 膝下にタオルを入れた短い範囲の自動伸展
  3. 側臥位など重力を減らした自動伸展
  4. 端座位での膝伸展と終末位保持
  5. 下肢伸展挙上でのラグ
  6. 立位での終末伸展保持

重力を減らすと改善するなら筋出力不足の関与が上がります。疼痛を軽減する補助で改善するなら、疼痛性抑制や局所組織の関与が支持されます。非荷重では可能でも立位で崩れるなら、荷重量、恐怖、重心位置を追加して考えます。

介入は「最後まで伸ばす練習」だけではない

エクステンションラグへの介入は、反復して膝を伸ばすだけでは不十分です。

  • 水腫と疼痛の管理
  • 大腿四頭筋の収縮感覚の再獲得
  • 終末域での等尺性保持
  • 重力条件を調整した自動伸展
  • 膝蓋骨・瘢痕・周囲組織の評価に基づく介入
  • 立位での安全な荷重練習
  • 歩行や段差へつなぐ運動学習

骨折後や術後では、骨癒合、固定方法、荷重・可動域制限、医師の指示を優先します。

再評価で確認する項目

角度だけでなく、機能への波及を確認します。

  • 他動伸展角度
  • 自動伸展角度
  • ラグの角度
  • 終末位保持時間
  • 反復による低下
  • 疼痛部位と強度
  • 大腿四頭筋収縮時の膝蓋骨運動
  • 立位での膝折れ
  • 歩行立脚期の膝伸展

一回の介入でラグが数度改善しても、荷重下で膝折れが変わらなければ、支持機能の問題は残っています。

症例記録の書き方

他動膝伸展は0度まで可能である一方、自動膝伸展では屈曲8度の残存を認めた。関節可動域制限単独では説明できず、大腿四頭筋筋出力低下、関節水腫に伴う筋活動抑制、膝前面痛による防御を仮説とした。重力軽減位および疼痛軽減条件で自動伸展角度を比較し、関与を検証する。

観察事実と仮説を分けることが重要です。

まとめ

他動伸展0度でも、自動伸展が残ることはあります。

エクステンションラグを見たら、次の順で整理します。

  1. 他動と自動の差を測る
  2. 可動域制限と筋活動の問題を分ける
  3. 筋出力、関節原性筋抑制、疼痛、膝蓋骨、伸展機構を検討する
  4. 重力・疼痛・荷重条件を一つずつ変える
  5. 角度だけでなく荷重下支持へ戻って再評価する

次回は、ラグや膝折れの背景になり得る関節水腫と疼痛が、なぜ大腿四頭筋の活動を低下させるのかを扱います。

参考資料

  • Hislop HJ, Avers D, Brown M. Daniels and Worthingham’s Muscle Testing.
  • Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System.
  • Rice DA, McNair PJ. Quadriceps arthrogenic muscle inhibition: neural mechanisms and treatment perspectives. Semin Arthritis Rheum. 2010. PubMed
  • Hart JM, et al. Quadriceps activation following knee injuries: a systematic review. J Athl Train. 2010. DOI

本記事は理学療法士・理学療法学生向けの教育情報です。外傷後・術後の運動負荷は、診断、画像所見、治癒状態、固定方法、医師の指示に従って個別に判断してください。

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ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。