リード文

徒手筋力検査で膝伸展筋力が4だった。だから大腿四頭筋には十分な筋力があるはず。それなのに、立位や踵上げ、階段で膝折れが起きる。

新人理学療法士がここで混乱する理由は、徒手筋力検査で測っている能力と、荷重下で必要な能力を同じものとして扱っているからです。

結論から言えば、徒手筋力検査で膝を伸ばせることと、体重を受けながら膝関節を安定させられることは同じではありません。

徒手筋力検査4は「荷重下で安全に支えられる」という意味ではない

MMTと荷重下機能の違いを比較した図
MMTと荷重下機能の違いを比較した図。図は理解補助のための簡略図です。

徒手筋力検査は、決められた肢位で関節運動を行い、検者の抵抗に抗する能力を段階づける評価です。膝伸展の徒手筋力検査では、主として大腿四頭筋が膝伸展モーメントを発揮できるかを確認します。

一方、荷重下の支持では次の要素が同時に必要です。

  • 体重と床反力に対抗する筋出力
  • 関節角度に応じた筋出力の調節
  • 大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿筋群の協調
  • 股関節、膝関節、足関節の運動連鎖
  • 疼痛に伴う筋活動低下への対応
  • 再受傷への恐怖や荷重回避への対応
  • 予測できない重心移動に対する姿勢制御

徒手筋力検査4という一つの値だけでは、これらを評価できません。また、徒手抵抗の強さには検者差があり、同じ4でも実際の最大筋力には幅があります。

なぜ非荷重では伸ばせても、荷重下では膝折れするのか

荷重下では床反力の作用線と膝関節中心の位置関係によって、外部膝屈曲モーメントが生じます。身体がそのまま沈み込まないためには、大腿四頭筋が膝伸展モーメントを発揮して対抗しなければなりません。

さらに、膝関節を完全伸展位付近で保持する課題と、軽度屈曲位で保持する課題では、安定性を作る方法が異なります。終末伸展位では関節面、靭帯、半月板、回旋運動を含む安定化機構の影響が大きくなります。軽度屈曲位では筋による動的制御の比重が増えます。

したがって、軽度屈曲位では踵上げが可能でも、伸展位付近で膝折れすることはあり得ます。この場合は「大腿四頭筋が弱い」で終わらず、終末伸展位での支持性、疼痛、恐怖、回旋制御を追加評価します。

新人が行いやすい誤った推論

誤り1:MMT4だから筋力は問題ない

徒手筋力検査4は、荷重下支持能力が正常であることを保証しません。

誤り2:膝折れがあるから大腿四頭筋筋力低下

膝折れは大腿四頭筋筋力低下だけでなく、疼痛に伴う関節原性筋抑制、恐怖、感覚入力低下、終末伸展位の不安定性、股関節や足関節からの代償でも生じます。

誤り3:筋力訓練をすれば解決する

破綻している条件を確認せずに負荷を増やすと、疼痛や代償動作を強める可能性があります。

追加評価は「条件を一つずつ変える」

以下の順で確認すると、原因を整理しやすくなります。

  1. 両脚立位から患側への荷重移動
  2. 軽度膝屈曲位での荷重保持
  3. 終末伸展位付近での荷重保持
  4. 上肢支持あり・なしでの比較
  5. 疼痛、恐怖、支持感のなさを分けて聴取
  6. 膝と足尖の方向を修正した前後の比較
  7. 膝蓋骨周囲を補助した前後の比較

重要なのは、同時に複数の条件を変えないことです。何を変えたときに症状が変化したのか分からなくなるためです。

介入後は何を再評価するか

介入前に膝折れが出た動作を、同じ条件で再評価します。

  • 膝折れの有無と回数
  • 保持できた時間
  • 疼痛の部位と強度
  • 患側への荷重量
  • 恐怖感と支持感
  • 代償動作

筋力値だけが上がっても、主訴となる動作が変わらなければ臨床的な改善とは言い切れません。

新人への問い

症例検討では、次の順に質問すると考えを引き出しやすくなります。

  1. 徒手筋力検査では、どの肢位・どの収縮条件を評価していますか
  2. 患者が膝折れしたとき、膝関節へどの方向の外力が加わっていましたか
  3. 軽度屈曲位と伸展位で支持性が違うなら、筋力以外に何が変化していますか
  4. 痛み、恐怖、支持感のなさを患者はどう表現しましたか
  5. どの条件を変えれば、仮説を一つずつ検証できますか

答えが止まった場合は、「徒手筋力検査の条件」と「実際に膝折れした条件」を並べさせます。両者の違いが、追加評価すべき項目です。

指導者が補足したいポイント

徒手筋力検査は無意味なのではなく、評価できる範囲が限られています。大腿四頭筋が随意的に膝伸展運動を起こせるか、明らかな左右差があるかを確認するには有用です。

一方、荷重下では筋力だけでなく、床反力、重心移動、感覚入力、疼痛、関節角度、他関節との協調が加わります。したがって、徒手筋力検査と動作評価の結果が一致しないこと自体が、臨床推論を進める情報になります。

レジュメの記載例

徒手筋力検査では膝伸展筋力が保たれていたが、荷重下の終末伸展位で膝折れを認めた。軽度屈曲位では支持可能であったため、最大筋力低下のみでは説明が困難と考えた。終末伸展位での支持性、疼痛に伴う筋活動低下、恐怖による荷重回避を仮説とし、関節角度と支持条件を変えて追加評価する。

この文章では、所見、解釈、残る仮説、次の評価が分かれています。「筋力低下を認めたため筋力訓練を行う」よりも、推論過程を共有できます。

まとめ

徒手筋力検査は重要ですが、荷重下機能の代わりにはなりません。

新人理学療法士に必要なのは、「MMT4なのにおかしい」と考えることではなく、「徒手筋力検査では評価できていない何があるか」と問い直すことです。

筋力があるかではなく、どの角度、どの荷重、どの収縮様式で支持が破綻するかを見る。

これが膝折れを読み解く出発点です。

次回は、膝折れを筋力低下、疼痛、終末伸展支持、恐怖、運動連鎖の5仮説へ分けて整理します。

参考資料

  • Hislop HJ, Avers D, Brown M. Daniels and Worthingham’s Muscle Testing.
  • Neumann DA. Kinesiology of the Musculoskeletal System.
  • Willy RW, et al. Patellofemoral Pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2019. PubMed

本記事は理学療法士・理学療法学生向けの教育情報です。個別症例の診断や運動負荷は、画像所見、治療経過、医師の指示を含めて判断してください。

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ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。