リハビリテーション

「骨粗鬆症に対する運動療法のエビデンス」文献抄読

今回は慶友整形外科病院の岩本先生が書かれたものをまとめさせていただきました。

 

はじめに

骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義されている。

閉経後女性に多発する。骨粗鬆症の主要骨折(三大骨折)として、椎体・前腕骨遠位端・大腿骨近位部骨折が挙げられる。

椎体骨折:50歳以降生涯にわたって増加する。加齢とともに脊椎後弯が進行する。

前腕骨遠位端骨折:50歳以降に増加する。

大腿骨近位部骨折:70歳以降に増加する。

椎体骨折以外は転倒により発生することが多い。

骨粗鬆症に関連する骨折を抑制する上で、栄養指導・薬物治療・運動療法は三位一体である。

運動療法はその一つの柱として重要である。

目的は、骨密度維持増加、筋力強化、転倒防止などにより骨折抑制に寄与すること。

閉経後女性および高齢者に対する運動療法のエビデンスを述べる。

 

閉経後女性および高齢者に対しする運動療法のエビデンス

骨密度維持・増加

閉経後女性に対する運動の骨密度維持・増加効果(対照に比べて)が報告される。

有酸素荷重運動により腰椎骨密度は1.79%ウォーキングにより腰椎骨密度1.31%および大腿骨近位部骨密度0.92%、下肢筋力訓練により大腿骨頚部骨密度は1.03%複合運動(荷重運動・筋力訓練)により腰椎骨密度は3.22%増加する。

複合運動(エアロビクス・ジャンプ運動・筋力訓練)の16年間にわたる腰椎および大腿骨近位部骨密度の増加効果(対照に比べて)と骨折抑制効果が報告されている。

閉経後女性において、骨密度維持・増加には荷重や筋力が重要であり、適切な運動は、長期にわたって腰椎および大腿骨近位部(臨床的に重要な部位)の骨密度維持・増加に有用である。

 

 

背筋強化

閉経後女性において、脊柱後弯の進行を抑制するためには、背筋強化訓練も重要である。

背筋の最大筋力の30%の負荷を背負って行う背筋強化訓練(10回/日,週5日)を2年間のみ指導し(無作為化対照試験)、10年時に再評価を行った。対照群に比べ運動群では、背筋筋力と腰椎骨密度は有意に高く、椎体骨折発生率は有意に低かった。”Sinakiら“

椎体骨折数/調査椎体数:4.3%vs.1.6%、リスク低下率:63.8%

 

転倒防止

前腕遠位端・大腿骨近位部骨折の多くは転倒により発生するので、これらの非椎体骨折を抑制するためには、運動機能を高めて転倒を防止することも重要である。

高齢者において運動は転倒の発生率・リスク・オッズ比を減少させる。

※オッズ比:ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。

転倒リスクは、運動指導(主としてバランス・筋力訓練)により減少すること(リスク低下率:グループエクササイズ22%、ホームエクササイズ34%)、太極拳(バランス改善効果)により37%減少することを報告した。”Karlssonら”

種々の運動により減少すること(リスク低下率:グループエクササイズ15%、ホームエクササイズ22%)、太極拳により29%減少すること、そして骨折リスクは、運動指導により66%減少することを報告した。”Gillespieら”

最近の報告では、太極拳は、短期的には(1年以内)転倒防止に有用であることが明らかにされている(発生率比:0.57、95%信頼区間:0.46~0.70)。運動により骨折リスク減少しないとの報告もあるが(オッズ比:0.61、95%信頼区間:0.23~1.64)。

高齢者において運動は、外傷を起こす転倒37%、医学的治療を要する転倒30%、重症外傷を起こす転倒43%、骨折を起こす転倒61%のリスクを減少させることも報告されている。

転倒防止には、筋力訓練・バランス訓練が有用であるが、その効果は転倒の既往のある高齢者で高いとされている。

これらのことから、筋力訓練・バランス訓練を中心とした運動指導は、高齢者(特に転倒の既往のある高リスクの高齢者)において転倒防止に有用であり、骨折抑制にも寄与する可能性がある。

 

骨量減少・骨粗鬆症患者に対するエビデンスに基づいた運動療法の実践

エビデンスの適用

骨粗鬆症患者に対して実践可能な運動指導として、骨密度を維持・増加させるためのウォーキング・荷重運動・筋力訓練・椎体骨折を抑制するための背筋強化訓練、転倒を防止するための筋力訓練・バランス訓練の効果が参考となる。

骨粗鬆症患者に対する運動処方は、効果のみならず、安全性も考慮に入れる必要がある。

骨密度維持・増加

閉経後の骨量減少・骨粗鬆症女性(平均年齢65歳)において、監視下でのジャンプ運動と筋力訓練(1RMの85%の負荷で5セット/日)(30分/日、2日/週、8か月)は、対象群(低強度運動:ホームエクササイズ)に比べて、重篤な副作用を起こすことなく、運動機能改善と、腰椎・大腿骨頚部の骨密度増加に有用であることが報告されている。

ウォーキングは安全で自己管理のできる運動である。閉経後の骨量減少・骨粗鬆症女性(平均年齢65歳)において、ウォーキング(8000歩/日、4日/週、1年)は腰椎骨密度を1.71%増加させることが報告されている(対象群では1.92%減少)。

ウォーキング(30分/日)と筋力訓練(2日/週、1RMの40%の負荷で8~10回/日から開始)は骨密度維持に有用とされている。

しかし、閉経後女性(平均年齢68歳)において、速歩(brisk walking:40分、週3回、2年間)は転倒リスク増加させることも報告されているので、転倒リスクの高い高齢者に対しては、ウォーキングはゆっくりとし、その目的は日光浴によるビタミンD補充とするのが得策である。

 

背筋強化

背筋強化訓練は、椎体骨折が1つ以下の閉経後比較的早期の女性においては良い適応である。
なお腹筋強化訓練は、骨粗鬆症女性において椎体骨折のリスクを高める可能性があるため注意を要する。”Sinakiら“

 

転倒防止

週に2~3日以上の筋力訓練・バランス訓練が有用とされている。

閉経後骨粗鬆症女性において(平均年齢63歳)、プロプリオセプション(固有受容器感覚)訓練大腿四頭筋訓練(1RMの50~80%の負荷)(2日/週、18週)は転倒リスクを減少させることや(相対リスク:0.263、95%信頼区間:0.10~0.68)

75歳以上の高齢女性(開眼片脚立時間≦15秒)において、バランス訓練(片脚起立訓練:片脚につき1分、3回/日、6か月)は、片脚起立時間を増加させ、転倒発生率を減少させることが報告されている(運動群14.2%vs.対照群20.7%:リスク低下率31.4%)

 

おわりに

まとめ
  • 骨粗鬆症に関連する骨折の抑制には、栄養指導・薬物治療・に加えて、運動療法は重要である(三位一体)。
  • 閉経後女性においてウォーキング・荷重運動・筋力訓練は骨密度を維持・増加させること、背筋強化訓練は椎体骨折を抑制すること、高齢者において筋力訓練やバランス訓練は転倒防止に有用であることが明らかにされている。
  • 骨量減少・骨粗鬆症患者に対する運動処方は、これらのエビデンスに基づいて検討されるが、年齢、活動性、転倒リスク、骨粗鬆症重症度(椎体骨折数)などを考慮にいれて、選択する必要である。