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「病院でレントゲンを撮ったら股関節が少し変形していると言われた。手術が必要かもしれないと聞いたけれど、今は保存療法で様子を見ましょうとのこと。毎日の生活で何をすればいいのか分からない」

このような状況で相談に来られる方は多いです。「変形があるから動かさないほうがいい」「痛みが出たらすぐ休む」と思ってじっとしていた結果、筋力が落ちてかえって痛みが増した、という経過は珍しくありません。

変形性股関節症は関節軟骨が減少し、骨や周囲組織に変化が生じる状態です。ただし、変形の程度と痛みの強さは必ずしも一致しません。2025年のAPTA股関節OAガイドライン要約でも、症状の管理には運動療法と体重管理を中心とした保存的アプローチが推奨されているとされており、「変形があるから安静」という方針は現在の主流ではなくなりつつあります。

この記事では、理学療法士の視点から、変形性股関節症の痛みと付き合うための保存療法の考え方、自宅でできるセルフケアの順番、日常生活で注意したいポイント、受診を急いだ方がよいサインを整理します。


変形性股関節症とはどんな状態か

軟骨の変化だけで痛みが決まるわけではありません

変形性股関節症は、股関節の関節軟骨が摩耗し、骨の変形や骨棘(こつきょく)が生じる状態です。加齢、以前の股関節疾患(発育性股関節形成不全など)、長期的な過負荷、体重などが関与しやすいとされています。

ただし、レントゲンで変形が認められても痛みがない人がいる一方、わずかな変化で強い痛みを感じる人もいます。痛みの強さは、関節の状態だけではなく、周囲の筋肉の機能、体重、活動量、心理的な要素なども関わっていることが少なくありません。

「変形の程度が痛みのすべてを決める」というわけではないことが、保存療法で痛みを管理しやすい根拠の一つです。

症状が出やすいのはどんな動作か

変形性股関節症で訴えが多いのは、以下のような場面です。

  • 動き始めの痛み・こわばり:朝の起き上がり、座った後の立ち上がり時に強く感じやすい
  • 長時間の歩行・立ち仕事の後:股関節の周りに重さや張りが残りやすい
  • 特定の動作:低い椅子からの立ち上がり、階段昇降、床の立ちしゃがみで痛みが増しやすい
  • 痛みの場所:鼠径部(股関節の前面)だけとは限らず、外側(大転子周囲)や膝まで及ぶことも少なくない

痛みの場所や強さは個人差が大きく、「どこが痛いか」で状態が決まるわけではありません。


保存療法で中心になること

運動療法と体重管理が保存療法の中心とされています

2025年のAPTA股関節OAガイドライン要約では、筋力強化・有酸素運動・神経筋トレーニングを含む運動療法が推奨されているとされています。

理由は、筋力が低下すると関節への負荷分散がうまくいかなくなり、少ない動作でも関節に過剰なストレスがかかりやすくなるためです。「変形があるから動かさない」のではなく、「動き方と負荷をコントロールしながら動く」ことが、保存療法の基本的な考え方とされています。

やみくもに負荷を増やすのは避けた方がよいですが、まったく動かないことも推奨されていません。

体重管理も股関節への直接的なケアです

ガイドライン要約では、BMIが25〜30を超える場合に5〜7.5%の体重減少が推奨されています。目安として、体重60kgであれば3〜4.5kg前後の減量が一つの参考値です。

歩行時の股関節への負荷は体重の数倍程度になるともいわれます(研究によって異なります)。体重が増えれば、その分だけ関節への負担も大きくなりやすく、体重管理は保存療法の中で継続しやすい介入の一つとして位置づけられています。

杖は「弱い人が使うもの」ではありません

杖を使うと、歩行時の股関節への負荷を大きく軽減できます。使い方は、痛みのある側と反対の手で持つことが基本とされています。正しく使うことで、歩行距離を延ばしながら痛みを管理しやすくなることがあります。

「杖は歩けなくなってから使うもの」と思われている方も多いですが、むしろ軟骨の保護と運動量の確保を両立するために早めに活用する方が合理的な場面もあります。担当の理学療法士や医師に相談してみる価値があります。

温熱・水中歩行の活用

慢性期(炎症が落ち着いている時期)の股関節周囲の筋緊張や動きにくさには、温熱が役立つことがあります。ただし、痛みが強い急性期や腫れが強い時には、温めることでかえって炎症が悪化することがあるため、自己判断で行わず医療者に確認するのが安全です。

水中歩行は、浮力によって股関節への荷重を軽くしながら運動できるため、痛みが強い時期でも取り組みやすい運動として挙げられることが多いです。水深が深いほど浮力の効果が大きく、体への負担を調整しやすくなります。


保存療法の3本柱|変形性股関節症ガイドライン要約より
保存療法の3本柱|変形性股関節症ガイドライン要約より

自宅でできるセルフケアの順番

1. まず痛みが出ない動かし方を確認する

最初に大切なのは、「運動量を増やすこと」より「痛みが出ない範囲を見つけること」です。

仰向けで膝を立て、片方の股関節をゆっくり屈伸させます。痛みが出ない範囲で10〜15回、動き始めのこわばりを少しずつほぐすイメージで行います。このとき、「少しの不快感」と「痛み」は別物です。痛みが出たら止めてください。

ポイントは、翌日の朝に症状が増えていないことを確認することです。「やった翌日に痛みが著しく増えていない」が、セルフケアを続けてよいかの大まかな目安になります。

2. お尻の筋肉を使う練習を加える

変形性股関節症では、お尻の筋肉(中殿筋・大殿筋)が弱くなりやすいです。この筋肉が機能しないと、歩行中の骨盤の安定が保ちにくくなり、股関節への負荷が増しやすくなることがあります。

やりやすい種目の一つが、横向きに寝て上の脚を軽く持ち上げる動作(サイドライイングヒップアブダクション)です。

  • 横向きに寝て、体幹はまっすぐに保つ
  • 上の脚を30〜40度ほど持ち上げ、2〜3秒保持
  • 10〜15回を左右行う

高く上げすぎると腰で代償しやすくなるため、「少し上げる」程度で十分です。痛みが出る場合は中止し、理学療法士に相談してください。

3. 歩くことも有効な運動です

変形性股関節症に対して、歩行は有効な有酸素運動の一つとされています。「少し頑張る距離」より「毎日続けられる距離・時間」を選ぶことが重要です。

翌日以降に痛みが著しく増えているようであれば、距離・時間を短くして継続する方が長期的に続けやすくなることが多いです。最初は10〜15分の平坦な歩行から始め、慣れてきたら少しずつ延ばしていくのが無理の少ない方法です。


📖 あわせて読みたい:変形性膝関節症の痛みを和らげる運動療法:PTが教える自宅でできる効果的な方法
同じ変形性関節症でも、膝の運動療法の考え方が参考になります。

日常生活で見直したい動作・習慣

和式動作を無理に続ける

床座り・正座・あぐら・和式トイレ・布団からの立ちしゃがみなどは、股関節への負荷が大きい動作です。洋式の生活環境(椅子・洋式トイレ・ベッド)に変えることで、日常の股関節への負担が軽減しやすくなることがあります。

「洋式に変えると体が軟らかくなくなる」という心配をされる方もいますが、変形性股関節症の保存療法の観点からは、過度な屈曲・内旋・外旋を避けることの方が重要です。

低い椅子に深く座り続ける

低い椅子への深い着座は、股関節の屈曲角度が大きくなり、鼠径部への負担が増しやすいです。座面をやや高くする、厚みのあるクッションを使うなど、座ったときに股関節がおよそ直角になる高さを意識することが参考になります。

長時間同じ姿勢で座り続けることも、動き始めのこわばりを強めやすいため、30〜60分ごとに立って少し動くことをお勧めします。

痛みが出たら何日も動かないでいる

「股関節が痛かったから、3日間横になっていた」という方が時々います。急性増悪時は一時的な安静が必要な場面もありますが、何日も動かずにいると筋力が急速に落ちやすいです。

筋力が低下すると、関節の安定性が減り、次に動いた時にかえって痛みが出やすくなるという悪循環に入りやすくなることがあります。痛みが落ち着いてきたら、無理のない範囲でできるだけ早く動き始めることが、長期的な痛みの管理につながりやすいです。


受診を急いだ方がよいサイン

変形性股関節症は慢性疾患ですが、以下の場合は早めに整形外科を受診されることをお勧めします。

  • 安静にしていても痛みが強い・夜間も痛みで眠れない:安静時・夜間痛は変形性関節症だけでない可能性があります
  • 発熱を伴う股関節の痛みの増悪・熱感(股関節は深部にあるため外観上の腫れが目立たないこともあります):感染性関節炎との鑑別が必要なことがあります
  • 股関節が突然動かなくなった、または急激に可動域が狭くなった
  • 転倒や外傷があってから急に痛みが増した
  • 体重減少・全身倦怠感など、股関節以外の全身症状を伴う

特に「夜間の安静時痛」と「全身症状を伴う股関節痛」は、変形性関節症ではない疾患が原因のことがあります。自己判断せず、医療機関に確認してもらうことが安全です。

受診を急ぐサイン|変形性股関節症
受診を急ぐサイン|変形性股関節症

まとめ

変形性股関節症は、変形があっても動き方や筋肉の使い方を工夫することで、痛みを管理しながら日常生活を続けている方は少なくありません。

  • 「変形があるから動かさない」ではなく「適切な運動を継続する」ことがガイドライン要約では推奨されているとされています
  • 体重管理・筋力強化・水中歩行・杖の活用は保存療法で重視される取り組みです
  • 和式動作の見直し・座高の調整・過度な安静を避けることが日常生活での重要ポイント
  • 夜間の安静時痛・急激な可動域低下・全身症状を伴う場合は早めに受診

自分に合った運動の強度や量が分からない、「どこまで動いていいのか不安」という場合は、理学療法士に相談することで、症状に合わせた具体的な運動プログラムを提案してもらうことができます。


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参考情報

  • Roos EM, et al. Hip Pain and Mobility Deficits—Hip Osteoarthritis: Revision 2025: Clinical Practice Guidelines Linked to the International Classification of Functioning, Disability and Health from the Academy of Orthopaedic Physical Therapy and American Academy of Sports Physical Therapy of the APTA. *Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy*. 2025;55(11).
  • 公益社団法人 日本理学療法士協会. 理学療法ハンドブック シリーズ17「変形性股関節症 痛みと上手に付き合うために 股関節に優しい生活を!」(https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/handbook17_whole_compressed.pdf)
  • 公益財団法人股関節研究振興財団. 変形性股関節症の保存療法(https://www.kokansetu.or.jp/personal/hpjclumn.php?no=96)

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。