はじめに

「腓骨神経麻痺の患者さんが鶏歩になっているので、足首の背屈筋を強化しています」

臨床でも実習でも、よく聞く組み立てです。筋が働かないから歩き方が崩れる。だから筋を鍛える。筋道は通っています。

ただ、米国NCBIの臨床レビュー StatPearls は、下垂足・鶏歩の病変部位について「上位運動ニューロンから末梢神経まで、神経軸全体にまたがる」とし、原因は多因子であると述べています。末梢神経障害では糖尿病が最も多い原因として挙げられ、上位運動ニューロン病変でも下垂足を呈し得ます。つまり「鶏歩=腓骨神経麻痺」と一対一で結ぶことはできません。原因が違えば、鍛えるべき場所も、そもそも鍛えてよいかどうかも変わります。

この記事では、鶏歩がどういう現象なのかを整理したうえで、なぜ足を高く上げるのか総腓骨神経の問題とL5神経根の問題をどこで見分けるのか、そして評価をどの順番で進めるのかをまとめます。緊急度の判断は本記事の範囲外です(後述)。歩き方の名前を覚えることではなく、その歩き方から次に何を確かめるかを決めることが目的です。


鶏歩は「異常歩行」であり、同時に「代償」でもあります

鶏歩(steppage gait)は、StatPearls の定義では「歩行中に、足関節を背屈させる筋の筋力低下によって足を持ち上げられない状態」とされています。

まず前提として、鶏歩は正常な歩行パターンではありません。異常歩行です。 そのうえで押さえておきたいのが、その異常な見た目そのものは、つま先を床から離すための代償として機能しているという点です。

足関節が背屈できないまま普通に振り出せば、つま先が床に引っかかります。引っかかれば転倒につながります。それを避けるために、股関節と膝を大きく曲げて足全体を高い位置から運ぶ。結果として、膝が高く上がる特徴的な見た目になります。

つまり鶏歩は、「足関節が背屈できない」という一次的な問題を、股関節と膝が肩代わりしている状態です。歩き方を直そうとして高く上げる動きだけを止めさせると、つま先の引っかかりが戻ることになりかねません。代償を減らす前に、代償している理由を確かめる必要があります。

接地の場面は、2つの所見を分けて記録します

振り出しだけでなく、接地の場面にも特徴が出ます。ここは混同されやすいので、観察したことを分けて記録するようにします。

観察する所見内容
踵接地が成立しているか踵から接地できているか、足底全体または前足部から接地しているか
接地後に足底が落ちるか接地の後に足底がペタンと落ちる(フットスラップ)

StatPearls は、背屈できないために「踵接地の時点で背屈できず、足が床に平らなまま残る」状態と、「つま先が引きずられ、足を振り抜けないことがある」ことを記載しています。

⚠️ この2つがどの筋活動の不足に対応するか(求心性か遠心性か)、どちらが重症かについては、本記事が用いた資料では扱われていません。
断定せず、見えた所見をそのまま分けて記録するところまでに留めます。

鶏歩を見たときに、見落としやすいこと

総腓骨神経の障害だと決めて評価を止める

腓骨頭周囲での総腓骨神経の圧迫は、下垂足の原因としてよく挙げられます。しかし前述のとおり、原因は腰部の神経根症、神経叢障害、末梢神経障害(糖尿病など)、外傷、術後、中枢性の病変まで広がります。見た目が同じでも機序が違えば介入は変わります。

背屈筋の筋力だけを診る

前脛骨筋のMMTだけで完結させると、より近位に原因がある場合を見落としやすくなります。後述しますが、部位の絞り込みで鍵になるのは背屈筋ではなく、背屈以外の筋です。

感覚の分布を診ない

しびれの分布は病変の位置を推測する材料になります。どこがどう痺れるかを患者さんの言葉のまま記録しておくと、後から読み返したときに役立ちます。

生活の中の圧迫要因を聞かない

腓骨頭のあたりは、総腓骨神経が皮膚のすぐ下を通る場所です。資料には、習慣的な脚組み、長時間の膝立ち、長時間のしゃがみ込み、手術中の不適切な体位、ギプスの不適切な装着、体重減少、長期の不動が寄与要因として挙げられています。いずれも問診で拾えるものです。


評価を進める順番

1. 歩行を「振り出し」と「接地」に分けて見る

膝の上がり方(振り出しの代償)と、接地の様子(踵接地の成否/フットスラップ)を分けて記録します。裸足と靴、平地と段差でも変わりますので、条件を揃えて観察します。

2. 背屈だけでなく、内反・外反も確かめる

内反の所見は部位の絞り込みに使える手がかりの一つです。次章にまとめます。

3. 感覚の分布を確認する

下腿外側から足背にかけての感覚を左右で比べます。第1趾と第2趾の間の背側は深腓骨神経の固有支配領域とされる部位で、確認の目安になります。

4. 圧迫の履歴と誘発を確認する

発症前後の姿勢・臥床・装具・外傷や手術の履歴を聞き取ります。資料には、腓骨頭でTinel徴候が陽性となり得ることが記載されています。

5. 中枢性を疑う所見がないかを確認する

筋緊張の亢進、腱反射の亢進、病的反射など、上位運動ニューロンの関与を示唆する所見があれば、末梢の絞り込みだけを続けず、医師へ情報を返す必要があります。

⚠️ 両側性は中枢性の指標ではありません。資料は、末梢神経障害(糖尿病など)でも両側性の下垂足が生じ得ると記載しています。両側であることは鑑別を広げる所見であって、中枢性を示すものではありません。

本記事の評価手順は主に末梢を想定したものであり、中枢性の鑑別を網羅するものではありません。

6. 精査の必要性を判断する

StatPearls は、外傷が疑われる場合の骨折の除外に単純X線、病変部位と重症度の同定に筋電図(EMG)と神経伝導検査(NCV)、神経叢障害が疑われる場合にMRIを挙げています。すべての下垂足に一律のX線撮影を勧めるものではありません。理学療法士が単独で確定するものではありませんので、必要と判断したら医師へ返すところまでが評価です。


総腓骨神経の障害か、L5神経根の障害か

部位の絞り込みに使える手がかりの一つが、後脛骨筋(tibialis posterior)です。

これは単独の判別子ではありません。外反の筋力、より近位の筋力、感覚分布、反射、そして電気生理学的検査と合わせて用いるものです。

前脛骨筋は深腓骨神経(総腓骨神経の枝)に支配されます。

総腓骨神経は単一の神経根に由来するものではありません。資料の記載は次のとおりで、資料間でも幅があります

資料記載
Anatomy, Calf Deep Peroneal Nerve(StatPearls)総腓骨神経は L4–S2。坐骨神経(L4–S3)の分岐として生じる
Electrodiagnostic Evaluation of Peroneal Neuropathy(StatPearls)総腓骨神経は L4–S1 から支配を受け、L2 からの軽度の寄与がある

重要なのは、L5由来の線維がこの総腓骨神経の経路を通っているという点です。

そのため、背屈筋の筋力低下だけでは、障害がL5神経根にあるのか、総腓骨神経の経路にあるのかを決められません。

そこで後脛骨筋を診ます。後脛骨筋は脛骨神経の支配で、足部の内反に働きます。

総腓骨神経の障害L5神経根症・腰仙骨神経叢の障害
前脛骨筋(背屈)低下しやすい低下しやすい
後脛骨筋(内反)保たれやすい低下しやすい

StatPearls は、L5神経根症・腰神経叢障害・腰仙骨神経幹の病変はいずれも後脛骨筋の筋力低下を生じるが、腓骨神経障害では後脛骨筋は障害を免れると記載しています。背屈が弱く、かつ内反も弱ければ、より近位を考える理由になります。

また、坐骨神経の外側幹の病変では大腿二頭筋短頭の筋力低下がみられるとされ、これも部位推定の手がかりの一つとして挙げられています。

⚠️ これらは確定診断ではありません。
筋力低下の出方は、病変の高さ・重症度・複数病変の併存・疼痛による出力低下・検査の精度・併存疾患によって変わります。所見が教科書どおりに揃わないことは珍しくありません。
実際、神経内ガングリオン嚢腫による腓骨神経障害とL5神経根症が併存していた症例報告も報告されています。「どちらか一方」と決めてかかると外れることがあります。
後脛骨筋の所見は単独で使うものではなく、感覚分布・反射・他の筋の所見と合わせ、最終的には電気生理学的検査や画像による評価に委ねられます。


医師へつなぐ判断について

本記事は、緊急度を判定する基準を示しません。

下垂足やしびれの緊急度は、症状の組み合わせと経過によって変わり、

その判定には対象読者に適用できる診療ガイドラインが必要です。本記事はその根拠を持ちません。

緊急度の判断は、施設の手順と医師の指示に従ってください。本記事はその判断材料を提供しません。

原因の手がかりとして聞き取ること(緊急度の判断ではありません)

資料には、総腓骨神経の圧迫に寄与し得る要因として次が挙げられています。

  • 習慣的な脚組み、長時間の膝立ち、長時間のしゃがみ込み
  • 手術中の不適切な体位、ギプスの不適切な装着、長期の不動
  • 体重減少
  • 外傷、骨折、下肢へのきついギプス
  • 糖尿病などの末梢神経障害の背景

⚠️ これは「危険なサイン」ではありません。末梢神経の圧迫が起こる機序として資料に挙げられているもので、
原因を推測する材料として聞き取ります。



参考文献

出典の性質: StatPearls は臨床レビュー(三次資料)であり一次研究ではありません。
本記事の記述は確定した事実ではなく、確からしい記述(PROBABLE)として扱ってください。
なお下記2資料は総腓骨神経の神経根レベルについて異なる記載をしており、本記事はどちらが正しいかを決めていません。


まとめ

  • 鶏歩は異常歩行であり、つま先を床から離すための代償としても働いています。代償を減らす前に理由を確かめます
  • 接地の場面は、踵接地が成立しているか接地後に足底が落ちるかを、所見として分けて記録します
  • 原因は多因子で、神経軸全体にまたがり得ます。総腓骨神経の障害と決めつけません
  • 部位の絞り込みでは、背屈筋だけでなく後脛骨筋(内反)の所見が手がかりの一つになります。単独では使わず、感覚・反射・近位の筋力・電気生理学的検査と合わせます。確定診断ではありません
  • 本記事は緊急度の基準を示しません。判断に迷うとき、とくに排尿・排便や会陰部の感覚に変化があるときは、訓練を継続せず医師へ相談してください

歩き方の名前は、覚えるためではなく、次に何を確かめるかを決めるためにあります。

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参考書籍

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ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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