フレイル予防の運動習慣|理学療法士が教える自宅でできる3つのポイント

はじめに
「最近、疲れやすくなった」「外に出るのがおっくうになってきた」「前より歩くのが遅くなった気がする」。
こうした変化は、年齢のせいと片付けたくなる一方で、フレイルの早期サインとして見直したい変化でもあります。
この記事では、フレイルとは何か、どのような変化に気づくとよいか、自宅で始めやすい運動習慣をどう組み立てるかを、厚生労働省の情報や日本の研究をもとに整理します。
原因・背景
フレイルは「健康」と「要介護」の中間にある状態
東京都健康長寿医療センターは、フレイルを「健康」と「要介護」の中間の状態であり、食事や運動、病気の治療によって健康に戻ることが可能な状態と説明しています。厚生労働省の広報でも、フレイルには「可逆性」があり、予防に取り組むことで進行を緩やかにし、健康な状態に戻ることができると紹介されています。
また、フレイルは身体面だけで完結しません。身体的フレイルに加えて、気力や認知面に関わる心理的要素、人とのつながりに関わる社会的要素も含めて考える必要があります。
サルコペニアは身体的フレイルと関係が深い
サルコペニアは、アジアの診断コンセンサスである AWGS 2019 で、筋肉量の低下に加えて、筋力低下または身体機能低下を伴う状態として整理されています。そのため、身体的フレイルを考えるときも、筋肉量だけでなく筋力や身体機能まで含めて見ていく視点が重要です。
東京都健康長寿医療センターは、身体的フレイルでみられやすい変化として、体重減少、疲労感、身体活動量の低下、握力低下、歩行速度低下の5つを挙げています。日常では「以前より歩くのが遅い」「外に出る回数が減った」といった形で気づくこともあります。「年齢相応」と決めつけずに見直したいポイントです。
見極め方・注意点
指輪っかテストは「気づきのきっかけ」として使う
自宅でできる簡易的な確認方法として、指輪っかテストがあります。原著では、利き足でない側の一番太いふくらはぎを、両手の親指と人差し指で作った輪で囲んで比較する自己チェック法として紹介されています。
行い方はシンプルです。
- 利き足でない側の、最も太いふくらはぎを探す
- 両手の親指と人差し指で輪を作り、その太さと比べる
このテストは診断ではありません。結果に迷う場合や、最近の体力低下とあわせて気になる場合は、かかりつけ医や地域の介護予防事業、理学療法士への相談につなげてください。
原著では結果を「bigger」(ふくらはぎが指輪っかより太い)、「just fits」(ちょうど合う)、「smaller」(ふくらはぎが指輪っかより細い)の3群に分けて検討しており、「just fits」と「smaller」は「bigger」に比べてサルコペニアとの関連が強く、「smaller」では要介護認定や死亡リスクの上昇も報告されています。ただし、これは地域在住高齢者の研究でみられた関連であり、このテストだけでサルコペニアを診断することはできません。
救急受診が必要な症状と、早めに相談したい症状を分ける
厚生労働省に掲載されている脳卒中啓発資料では、BE FAST として、急なめまい・ふらつき、片目が見えない、顔半分がゆがむ、片腕の脱力、言葉が出ないなどがあれば、迷わず救急車を呼んで病院を受診する必要があるとされています。こうした症状が1つでも急に出た場合は、様子を見ずに119番で救急車を呼んでください。
一方で、この記事で扱うフレイル予防は、急性発症の救急症状ではなく、徐々に目立ってくる体力や活動量の低下を早めに見つけて対応する考え方です。たとえば、
- 意図しない体重減少が続く
- 以前より疲れやすく、外出や家事が減ってきた
- つまずきや転倒が増えてきた
- 持病があり、運動を始めてよいか判断に迷う
といった場合は、救急ではなくても、かかりつけ医や専門職へ早めに相談したほうが安全です。
具体的な対処・運動
1. まずは歩く量を少しだけ増やす
日本の地域在住高齢者を追った研究では、1日5000歩以上歩いていた人、または3METsを超える活動を1日7.5分以上行っていた人で、フレイル発症リスクが低かったと報告されています。METs(メッツ)は活動の強さの目安で、数字が大きいほど強度が高くなります。これは「5000歩ぴったりで安全」という意味ではなく、一定以上の活動量を確保することがフレイル予防と関連していた、という読み方が適切です。
さらに厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」高齢者版では、3METs以上の身体活動を週15METs・時以上、具体的には歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日40分以上、1日約6000歩以上を目安に勧めています。ここでいう METs・時 は、活動の強さ(METs)に時間を掛けた活動量の目安です。ただし、同ガイドは「推奨値に満たなくても、少しでも身体活動を行うこと」を明記しています。
ですから、最初の目標は高くしすぎないことが大切です。普段ほとんど歩いていない方なら、いきなり6000歩を目指すより、
- 買い物のついでに5分だけ遠回りする
- いつもより数分だけ歩く時間を増やす
- 家の中でも座りっぱなしの時間を減らす
といったところからで十分です。歩くと腰や股関節がつらい方は、脊柱管狭窄症で歩きにくい時のリハビリや変形性股関節症の痛みと付き合い方もあわせて参考にしてください。
2. 週2〜3回は下肢の筋トレを入れる
厚生労働省ガイド2023では、高齢者に対して筋力トレーニングを週2〜3日、多要素運動を週3日以上行うことが推奨されています。フレイル予防では、「歩く量を増やすこと」に加えて、下肢筋力やバランスにも目を向けたいところです。
自宅で始めやすい運動として、私は次の3つを提案します。
- 椅子からの立ち座り
- 机や椅子の背もたれに手を添えたつま先立ち
- キッチン台につかまりながらの片脚立ち、または足を前後にずらした立位保持
これらは外部資料の具体的メニューをそのまま引用したものではなく、理学療法士として臨床でよく使う基本的な運動です。回数は一律に決めつけず、まずは少ない回数や短い時間から始め、翌日に痛みや強い疲労が残らない範囲で増やしてください。厚生労働省ガイド2023でも、特に身体機能が低下している高齢者では安全に配慮し、転倒等に注意することが示されています。そのうえで、理学療法士としての一般的な安全提案として、転倒に不安がある方は机やキッチン台、椅子の背もたれなど安定した支持物を使い、痛み、めまい、息苦しさ、強いふらつきが出た時点で中止して相談することをおすすめします。腰痛がある方は、腰痛がある時の運動療法の考え方も参考になります。
3. 続ける仕組みとして「外出」と「社会参加」を使う
厚生労働省は、フレイル予防の柱として、栄養、身体活動、社会参加を挙げています。また、東京都健康長寿医療センターも、フレイル予防には栄養、運動、社会参加、病気の治療の4つが大切だとしています。
散歩だけでは続けにくい場合は、
- 体操教室に参加する
- 近所へ買い物に出る日を増やす
- 友人や家族と歩く予定を作る
- 通いの場や地域サロンを使う
といった形で、外出や人との関わりを運動のきっかけにする方法もあります。
まとめ
- フレイルは「健康」と「要介護」の中間にある、戻りうる状態です
- 体重減少、疲れやすさ、活動量低下、歩行の遅さなどは早めに見直したいサインです
- 指輪っかテストは診断ではなく、サルコペニアリスクに気づくきっかけとして使えます
- 運動は、歩く量を少し増やすこと、週2〜3回の筋トレ、多要素運動と社会参加を組み合わせることが現実的です
- 急なめまい・片目が見えない・顔半分がゆがむ・片腕の脱力・言葉が出ないときは、フレイルではなく脳卒中を含む救急疾患を考え、迷わず119番で救急車を呼んでください
参考情報
- 東京都健康長寿医療センター「フレイル予防センター」 https://www.tmig.or.jp/corp/cross/frailty/ (2026-07-31時点確認)
- 厚生労働省 広報誌「厚生労働」2021年11月号 特集1「そのカギを握るのはフレイル予防だ」 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202111_00001.html (2026-07-31時点確認)
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32033882/ (2026-07-31時点確認)
- Tanaka T, Takahashi K, Akishita M, Tsuji T, Iijima K. “Yubi-wakka” (finger-ring) test: A practical self-screening method for sarcopenia, and a predictor of disability and mortality among Japanese community-dwelling older adults. Geriatr Gerontol Int. 2018;18(2):224-232. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28898523/ (2026-07-31時点確認)
- Yuki A, Otsuka R, Tange C, et al. Daily Physical Activity Predicts Frailty Development Among Community-Dwelling Older Japanese Adults. J Am Med Dir Assoc. 2019;20(8):1032-1036. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30792108/ (2026-07-31時点確認)
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 高齢者版」 https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf (2026-07-31時点確認)
- 厚生労働省掲載資料「BE FAST ~その症状、脳梗塞!?~」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001115895.pdf (2026-07-31時点確認)
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針を決めるものではありません。体調や持病に不安がある場合は、医療機関や理学療法士等の専門職へご相談ください。
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