はじめに

「片麻痺の方の歩行を見ていて、足が外へ大きく回るのは分かる。でも、そこを直そうとして股関節の外転筋にアプローチしても、あまり変わらない」

若手の方からよく聞く相談です。分回し歩行という名前が「股関節が横に開く動き」を指しているので、股関節を治療対象にしたくなるのは自然な発想だと思います。

ただ、順番を取り違えている可能性があります。今回参照した資料は、分回しを代償として現れるものと記述しています。Bioengineering誌に掲載された片麻痺歩行の分類研究(2025年)は、遊脚期の足のクリアランスを確保するために、患者はしばしば hip hiking(骨盤の引き上げ)や circumduction(分回し)で代償する、と記述しています。つまり資料の記述では、分回しは目的(足を地面にぶつけずに前へ運ぶ)を達成するための手段の一つとして現れます。「分回しは常に代償であって原因ではない」と言い切れる資料ではありません。分回し自体が二次的な問題(エネルギー効率や非麻痺側の負担など)を生む可能性も、別に評価する必要があると私は考えています。この点は今回参照した資料に直接の記述がなく、未検証の推論です。

手段だけを取り上げれば、目的が達成できなくなることが考えられます。この点は資料に直接の記述がなく、臨床上の考え方です。

この記事では、理学療法士の視点から、分回しが生まれる仕組み、似て見える代償との見分け方、評価をどの順番で進めるか、装具に何を期待できて何を期待できないかを整理します。

なお、本記事が参照した歩行・装具に関する研究資料は、いずれも脳卒中・片麻痺の集団を対象としたものです本記事の整理を脳卒中片麻痺以外の背景へ当てはめられるかは検証していません。以下の記述は脳卒中片麻痺の文脈として読んでください。

分回し歩行は「代償として現れることがある」

まず、何が起きているのか

分回し歩行は、遊脚期(足が地面から離れて前へ振り出される時期)に、麻痺側の下肢を外側へ開きながら前方へ運ぶ歩き方を指します。前額面(前方または後方から見た面)では下肢が外側へ偏位し床面に描かれる足の軌跡を上方から見ると外へふくらんだ弧になります。

この運び方には股関節の外転が関与します。ここで注意したいのは、外転筋の活動は「分回しという運び方を選んだ結果として観察されているもの」である可能性があるという点です。(今回参照した資料は分回しという運び方を記述していますが、外転筋の活動そのものを測定した記述はありません。以下は未検証の臨床推論です。)外転筋そのものが一次的な問題なのか、それとも別の制限を埋め合わせているのかは、個々に評価して確かめる必要があります。最初から原因と決めつけることも、最初から除外することも、どちらも避けたいところです。

なぜ「回さないと前に出ない」のか

歩行の遊脚期では、足が床にぶつからないだけの隙間(クリアランス)を作る必要があります。以下は歩行の一般的な理解にもとづく整理であり、今回参照した資料に直接の記述はありません。主に次の要素が関わります。

  • 膝が曲がる(遊脚初期の膝屈曲)
  • 足関節が背屈する(つま先が上がる)
  • 骨盤・股関節が適切に動く

このうちどれかが使えなくなると、残った方法で隙間を作るしかありません。膝や足首を曲げる代わりに、股関節を外へ開いて下肢を横へ逃がす。足が通る経路は前額面で外側へふくらみ、結果として上から見ると弧を描きます。これが分回しです。

念のため補足すると、弧を描く経路は直線より距離としては長くなります。短い道を選んでいるのではありません。曲げられない関節を迂回して、床との隙間を確保しているだけです。

言い換えると、分回しが出ているとき、まっすぐ前に出す方法のどこかが使いにくくなっている可能性を考えることになります。この解釈は資料に直接の記述がなく、臨床上の考え方です。サインを消すことではなく、何が使いにくいかを特定することが評価の目的になる、と私は考えています。

分回しを生む経路(本記事の整理)

分回しに至る道筋は一つではありません。以下の3つは、参照した資料の記述をもとに私が整理したものであり、資料が「主要な3経路」と分類しているわけではありません。網羅的な分類ではなく、評価の入口として読んでください。

経路①:膝が曲がらない(stiff knee gait)

遊脚期に膝の屈曲が減っている状態を stiff knee gait(SKG)と呼びます。Toxins誌の総説(Sheng Li、2023年)は、SKGを「遊脚期の膝屈曲が減少した状態」と定義しています。

同総説(慢性期脳卒中の痙性片麻痺を主題とした総説です)は、SKGが歩行障害のある脳卒中患者の約60%に影響すると述べています。この数値がどの時期・重症度の集団を指すかは、抜粋した記述だけでは確定できません。ここは読み違えやすいので補足すると、この60%は「分回しの割合」ではありません。あくまで歩行障害のある方のうちSKGを呈する割合です。ただ、SKGが決してまれではないことは示しています。

そして重要なのは、同総説がSKGの機序を一つに決めていないことです。原文は次のように述べています。

SKG can occur as a result of spasticity in other muscles, muscle weakness, and abnormal muscle coactivation of knee flexors and extensors or in any combination of these impairments.

(SKGは、他の筋の痙縮、筋力低下、膝屈筋と伸筋の異常な同時収縮、またはこれらの障害の任意の組み合わせの結果として生じ得る ─ Sheng Li, Toxins, 2023/筆者訳

ここで見落としたくないのは、痙縮だけでなく「筋力低下」が並んでいること、そして「任意の組み合わせ」で起こり得ると書かれていることです。「膝が曲がらない=痙縮」と短絡すると、外れることがあります。

同総説は、「個々の患者について主要な原因を判断するために、注意深く十分な臨床評価が推奨される」とも述べています。

同総説は、SKGのある脳卒中生存者が、遊脚期のクリアランスを確保するために同側の股関節分回し、または対側の伸び上がり(vaulting)で代償する、と記しています。分回しと膝の問題は、ここでつながります。

経路②:足が上がらない(背屈の低下・下垂足)

足関節の背屈が弱いと、遊脚期につま先が下がったままになり、足を引きずりやすくなります。AFO(短下肢装具)に関するシステマティックレビュー(Choo & Chang, Scientific Reports 11:15879, 2021)は、足関節の背屈低下と下肢の伸展筋の痙縮(extensor spasticity)による foot dragging が、それを代償するための下肢の分回しと鶏歩(steppage gait)を引き起こし得る(may cause)と述べています。

同レビューは分回しと鶏歩を並べて挙げています。つまり、分回しと鶏歩は「同じ困りごとに対する別の答え」として現れ得ます。どちらが選ばれるかがその人の使える資源によって変わる、という点は資料に直接の記述はなく、臨床上の見方です。

鶏歩そのものの見分け方は、別記事で詳しく整理しています。

経路③:伸展共同運動パターン

前述のBioengineering誌の研究(2025年)は、片麻痺で典型的にみられる下肢の関節パターンを、股関節の伸展・内旋、膝関節の伸展、足関節の底屈・内反と記述しています。上肢には屈曲、下肢には伸展のパターンが出やすい、という古典的な整理と一致します。

下肢全体が伸びる方向にまとまってしまうと、膝も足首も「曲げる」方向に使いにくくなることが考えられます。この場合、分回しは経路①と②の両方を同時に抱えた結果として現れる、という見方ができます。この統合的な解釈は資料に直接の記述がなく、臨床上の考え方です。

似て見える代償を分ける

分回しと混同されやすい代償がいくつかあります。名前を正しく分けられないと、評価も介入もぼやけます。

代償何をしているか見るポイント
分回し(circumduction)麻痺側下肢を外へ開いて運ぶ① 前額面での外側への偏位(前方または後方から観察)
② 床面に描く足の軌跡が外へふくらむか(上方から観察)
骨盤の引き上げ(hip hiking)骨盤を挙上して下肢全体を持ち上げる骨盤の左右の高さ
伸び上がり(vaulting)非麻痺側で背伸びして隙間を作る立脚側の足関節底屈。頭部の上下動
鶏歩(steppage gait)股・膝を大きく曲げて足を持ち上げる遊脚期の股関節・膝関節の屈曲角度

前述のBioengineering誌の研究は、hip hiking と circumduction を並列の代償手段として記述しています。どちらか一方に決めつけず、両方が混ざっている可能性も見ておきたいところです。(両者が併存する頻度を示す資料は今回参照していません。)

特に見落としやすいのが vaulting です。これは麻痺側ではなく非麻痺側で起きる代償なので、麻痺側ばかり見ていると気づけません。麻痺側の分回しを減らそうとして、非麻痺側の負担が増えていないかは併せて確認したいところです。(負担の増減を検証した資料は今回参照しておらず、未検証の推論です。)

評価の順番(本記事独自の整理)

分回しを見つけたときの進め方を、順番として整理します。

この節はすべて、私が臨床上の考え方として整理したものです。

参照した資料に、この評価順を支持する記述はありません。確立された手順ではなく、

検証されていない一つの組み立て方として読んでください。

① 「どこでクリアランスが取れていないか」を先に見る

分回しは、資料の記述では代償として現れるものです。まず、膝の屈曲・足関節の背屈・骨盤の動きのうち、どれが使いにくいかを分けたいところです。ここを飛ばした場合に介入がどれだけ外れるかを示す資料はありません。

② 臥位・座位で「動くのか、動かせないのか」を確認する

歩行という課題の中では、痙縮・筋力低下・関節可動域制限・運動制御の問題が混ざって見えます。歩行から離れた姿勢で、

  • 他動での可動域はあるか(関節の問題を示唆しないか)
  • 自動で動かせるか(筋力・制御の問題を示唆しないか)
  • 速く動かすと抵抗が増すか(痙縮の関与を示唆しないか)

を分けて確認すると、機序を絞り込みやすくなります。ただし、これらの所見から機序を一意に決められるわけではありません。あくまで絞り込みの手がかりです。

③ 立脚期の問題が遊脚期に出ていないかを見る

見えている問題が遊脚期でも、原因が立脚期にある場合を想定しておきたいところです。その頻度を示す資料は今回参照していません。麻痺側立脚後期に股関節が十分に伸展しないと、次の遊脚で振り出す勢いが得にくい、という考え方があります。この点は今回参照した資料に直接の記述がないため、臨床上の見立てとして扱ってください。それでも、遊脚だけを見て終わらない姿勢は持っておきたいところです。

④ 非麻痺側と体幹を見る

前述のとおり vaulting は非麻痺側で起きます。また、体幹の安定性が保てないと片脚立位の時間を確保しにくく、遊脚に必要な時間が取りにくい、という見方があります。この点は今回参照した資料に直接の記述がないため、臨床上の考え方として扱ってください。

⑤ 「今の分回しは何を守っているか」を考える

代償は、その人が今使える資源の中で選ばれた運び方だと考えられます。転倒せずに歩けているなら、その代償が安全性を支えている可能性があります。この解釈は今回参照した資料に直接の記述がなく、臨床上の考え方です。ただし、取り上げる前に代わりの手段が用意できているかを確認するという手順は、転倒リスクを考えれば妥当だと思います。

装具に何を期待できて、何を期待できないか

背屈の低下が主な要因である場合、AFO(短下肢装具)は選択肢になります。

前掲のシステマティックレビューは、足関節背屈の低下と下肢の伸展筋の痙縮による foot dragging が、それを代償するための下肢の分回しや鶏歩を「引き起こし得る(may cause)」と述べています。断定ではなく可能性として書かれている点は、そのまま受け取っておきたいところです。

同レビューは、AFOの使用が歩行機能とバランス(歩行速度、ケイデンス、ステップ長、ストライド長、TUG、FAC)を高め得ると述べています。機序については、足関節の背屈を支持し、底屈と内反を制限することによって歩行機能を改善し、歩行の異常を修正すると説明されています。

ただし、同レビューは対象とした研究の範囲を明記しています。解析に含まれたのは、即時(装具装着直後)または短期(装具装着後1週間〜6か月)の有効性を確認した論文です。つまり、6か月を超える長期の効果は、このレビューの対象外です。

したがって、現時点で言えるのは次の範囲です。

  • AFOによって歩行パラメータが改善し得ることは、即時〜6か月の範囲で示されている
  • 6か月を超える長期の効果は、このレビューの対象外である
  • 背屈以外が主要因である場合(膝の問題が主体など)、AFOだけでは分回しが残ることが考えられる(この点は今回の資料に直接の記述はなく、機序からの推論です)

「装具をつければ分回しが治る」とは言えません。何を代償しているかを特定したうえで選ぶ道具、という位置づけが実際に近いと思います。

避けたいと考えていること(本記事独自の整理)

この節も、資料に直接の支持がある内容ではありません。「やってはいけない」と断定できる

エビデンスを本記事は持っていません。私が臨床で避けるようにしている考え方として読んでください。

分回しそのものを消しにいく

「外へ回さないように歩いてください」という指示だけを出すのは、代替手段を用意せずに手段を奪うことになります。足が床に引っかかりやすくなることが考えられます。分回しを抑制した場合の転倒リスクを検証した資料は今回参照しておらず、これは機序からの推論です。それでも、クリアランスを確保する別の手段を先に用意しておく順序は、安全側の判断だと考えます。

股関節外転筋を原因と決めつける/逆に除外する

外転筋の活動が一次的な問題なのか、別の制限を埋め合わせた結果なのかは、観察だけでは決められません。

どちらの立場も、評価で確かめる前に決めてしまえば見落としになります。

この因果関係は今回参照した資料では検証できていないため、評価すべき仮説として扱ってください。

遊脚期だけを見る

原因が立脚期にある場合を想定しておきたいところです。頻度を示す資料は今回参照していません。振り出しの勢いが得られない理由が麻痺側立脚後期の股関節伸展不足にあるなら、そちらを見る必要がある、というのが臨床上の考え方です。

一度決めた機序を見直さない

Toxins誌の総説は、個々の患者について主要な原因を判断するために、注意深く十分な臨床評価が推奨されると述べています。これは資料が明示している点です。介入して変わらなかったときに見立てを疑い直す、という進め方自体は私の考え方です。

本記事の位置づけ

本記事は、脳卒中片麻痺でみられる分回し歩行について、参照した研究資料の記述と、そこから私が整理した見方をまとめたものです。

受診の要否や時期、緊急度を判断するための情報は含んでいません。本記事は一般的な情報提供であり、個別の医学的助言に代わるものではありません。

まとめ

  • 今回参照した資料では、分回しは遊脚期のクリアランスを確保する代償として記述されています。常に代償であって原因ではない、と断定できる資料ではありません
  • 本記事では経路を膝が曲がらない(stiff knee gait)/足が上がらない(背屈低下)/伸展共同運動パターンの3つに整理しました。これは資料に基づく私の整理であり、網羅的な分類ではありません
  • stiff knee gait の機序は一つではなく、個々に主要機序を同定する評価が必要です(Toxins、2023年)
  • hip hiking・vaulting・鶏歩と名前を分けて評価します。vaulting は非麻痺側で起きます
  • 評価は「どこでクリアランスが取れていないか」から始め、立脚期と非麻痺側・体幹まで広げます(この評価順は臨床上の考え方で、資料に直接の記述はありません)
  • AFOは歩行パラメータを改善し得ますが、検証されているのは即時〜6か月の範囲です(Choo & Chang, Scientific Reports, 2021年)
  • 代償を取り上げる前に代わりの手段が用意できているかを確認する、という手順は資料に根拠がなく、私の考え方です
  • 本記事は受診の要否・時期・緊急度を判断する情報を含みません

分回しは、その人が今使える資源の中で選ばれた運び方なのかもしれません。そう考えると、答えを消すより先に、なぜその運び方になっているのかを見にいく順番が立ちます。(これは資料に直接の記述がなく、私の考え方です。)

参考情報

※ 本記事の医学的記述は上記資料の記載に基づいています。資料に直接の記述がない臨床上の見方は、本文中でその旨を明示しています。

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参考書籍

分回し歩行を掘り下げるうえで参考になる書籍を2冊挙げます。

※本ページはAmazonアソシエイトプログラムに参加しています。書籍の内容や効果を保証するものではありません。

ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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