解剖学

「足とは人間工学の最高傑作」byレオナルド•ダ•ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチはこう言った‼︎

足は人間工学上、最高傑作であり、そしてまた最高の芸術作品である―。

ヒトの全身は約210個の骨で構成され、そのうち片足には26個の骨が使われています。

全身の骨の約4分の1が小さな両足に集中した、精密機械のような構造をしているのです。

足部の骨格は26の骨と33の関節からなり、生体力学的に極めて優れた構造をしています。

元々、親指と他の4本指では役割が異なるのをご存知ですか。

親指だけが他の指と離れ、かつ向かい合っている配置を「母指対向性」といいます。

これは樹上生活に適応した霊長類特有のもので、枝を掴むために4本指を支えるのが親指の役目です。

ヒトの手は母指対向がより発達しましたが、平地を効率良く歩くための骨格へと進化を遂げた足は母指対向を失いました。

これは霊長類の中で、二足歩行のヒトのみに見られる特徴です。
実に神秘的で、精巧な構造を持つ足。

人によって千差万別で、同じ足型は存在しません。

人体の中でも秀逸、かつ複雑な構造を持つ足部については未だ不明な点が多いのが現状です。

ここでは足の機能や研究論文・書籍の紹介を連載して行きます。

 

代表的な足部機能についてのおさらいです。

 

推進力を伝達する強力なテコとしての機能

歩行において立脚後期からウィンドラス機構でMP関節を支点に強力なテコを形成し、地面をけり上げ推進力を得ています。

倒立二足歩行と足部のテコの原理があり、燃費の良い歩行を実現したことで、人間は一度に長距離を歩くことが出来ると、一説では言われています。

 

地面に対し足部を適切に接地させる精密な形態変化

我々が、岩場のような不整地を転ばずに歩けるのは足部が接地面に対し柔軟にその形を変え、路面状況に合わせた足部形態を取ることが可能であるから多少の不整地は物につかまらず歩くことが出来きます。

 

身体バランスを適切に保つための制御機能 ankle strategy

電車に乗っている時の事を思い浮かべてください。

多少の揺れならば手すりを持たずにバランスを保つことが可能です。

外乱に対し巧みに反応しいわゆるankle strategyがこの役割を担っています。

 

身体に加わる衝撃を吸収する機能

まず、踵の皮下組織が大きな衝撃吸収作用を発揮します。

さらにトラス機能が荷重負荷をサスペンションのように分散し、地面からの衝撃を吸収します。

もちろん足部以外の筋活動によるところもありますが、多くは足部機能によって衝撃は吸収されています。

 

この他にも足部の担う機能は多岐にわたりますが、足部は地面に接する唯一の部位であり、ヒトの動きを支える土台としての役割を有しています。

ご存知の通り、足部形態は運動連鎖によって全身に波及し、他部位の障害因子になることは少なくありません。

つまり足部を評価する臨床的意義は大きく、全身を診る上で足部機能は無視できません。

 

一旦ここで足部の構造を復習していきます。

 

距腿関節

距腿関節は脛骨側が凹、距骨側が凸のらせん関節であり、腓骨外果と脛骨内果が距骨滑車を挟み込むことで成り立っています。

ほぞ穴状になっているため、構造上の骨性安定性が高いのが特徴です。

小さな関節面で大きな荷重を受けているため、重心の偏移に伴って容易に足関節へ過剰なトルクを生じやすいと考えられます。

 

 

主に足部の底背屈を担う関節ですが、距骨の複雑な構造によりその動きは多様です。

距骨滑車は前縁が厚いため、背屈時には遠位脛腓骨間を開大させ、距骨がはまり込む格好になるため足関節は安定します。

一方で底屈時には関節に遊びをもたらします。

脛腓間の開大が要求されるため、腓骨の可動性も距腿関節の可動域に影響します。

 

 

付随する筋肉や靭帯の緊張も動きを制動するわけですが、捻挫などにより各靭帯が損傷すると関節包内では異常な運動が出現し関節運動軸の偏移に伴い関節可動域制限や局所的にかかるメカニカルストレスの増大することが予想されます。

 

単関節筋による作用は少なく、荷重関節で唯一90°に屈折し、ほとんどの筋は複雑な支帯や腱鞘を通り距腿関節を跨いで走行しているため炎症や浮腫による滑走障害を生じやすく、前述した関節可動域制限や局所的にかかるメカニカルストレスの増大の影響を受けやすいため、注意が必要です。

 

距骨下関節

距骨下関節は複数の関節面を有す回旋軸を中心とした平面関節であり、荷重下では回旋軸運動以外での可動性が少ないのが特徴です。距腿関節と距骨下関節は靱帯を共用しており複合体として機能していて、 回旋運動以外の動きを伴う際にはその安定性は靱帯に依存しています。

 

距骨下関節は,機能的に足部と下腿の連結部であり、この動きを理解することは下肢の運動連鎖を理解するうえでも重要な要素です。踵骨が内外側方向に傾斜する動きと,距骨と下腿が回旋・内外側方向へ傾斜する動きが生じます。

踵骨の外反に伴い距骨が内下方へ、内反に伴い外上方へ動く訳ですが、この運動は,距骨下関節の回内が下腿の内旋、回外が下腿の外旋を表す動きともいえ,距腿関節と距骨下関節が常に連動して動く二重関節機構を有している事が言えます。

 

 

 

更に距骨下関節の肢位によってショパール関節を構成する関節面の位置関係も変化し、関節面軸の変化はショパール関節の可動性と固定性に影響を与えます。

 

踵骨関節面と距骨関節面が

交差すれば可動性が減少 = 距骨下関節回外 = 足部剛性↑↑
平行ならば可動性が増加 = 距骨下関節回内  = 足部可動性↑↑

 

 

歩行に絡めて考えると、立脚終期で距骨下関節は回外します。これは足部の剛性を高め前足部で地面を蹴る準備を、

 

一方で立脚の初期では足部は回内します。これは足部を柔軟に変化させ、衝撃吸収と荷重応答の準備を行うために不可欠な機能です。

 

可動範囲は小さな関節ですが、足部から上行性運動連鎖の起点関節として、更には足部機能の良し悪しを左右する距骨下関節は非常に重要な役割を担っています。

 

ショパール関節

ショパール関節は「横足根関節」とも呼ばれ、「距舟関節」と「踵立方関節」から構成され、長軸と斜軸の二種類の運動軸を有しています。二軸を有することで、3平面での運動を可能にしています。
距骨下関節の肢位に影響を受け、足部の柔軟性や剛性に関与します。

 

距骨下関節が回外位=ショパール関節も回外位(内がえし)(足部の剛性アップ)
距骨下関節が回内位=ショパール関節も回内位(外がえし)(足部の柔軟性アップ)

これは、距舟関節軸と踵立方関節軸の位置関係によって変化します。
距骨下関節回外位では、それぞれの関節軸は交差した位置関係になるため足部の剛性は高まります。

反対に、距骨下関節回内位では、それぞれの関節軸は平行な位置関係になるため足部の柔軟性は高まります。

 

 

距骨下関節とショパール関節はセットで機能し、足部の剛性と柔軟性のコントロールを担っている。

以上がショパール関節の基礎知識でした。

 

 

動作の中でショパール関節が担う、重要な機能は【内側縦アーチの適度な下降の補助】です。
正常な荷重位での足関節背屈動作(下腿前傾)には適度な内側縦アーチの下降が必須であり、アーチの下降が制限されることで衝撃吸収作用が機能せず、足部周囲へのストレスを増大させる原因となり得ます。

 

 

荷重時の背屈運動と内側縦アーチの下降は通常、距骨下関節は回内位にありますが、回内が制限された状態では、足部の回内(外がえし)は主にショパール関節回内の過可動による代償に依存する事になります。

 

足関節背屈可動性が少ない症例では歩行時に足部を外転させ背屈可動域を確保する代償に臨床の現場でよく遭遇しますが、これらは立脚中期にかけて、過度にショパール関節を回内させるため、静的な支持機構である底側踵舟靭帯(バネ靭帯)に過度な伸張ストレスを加えます。

 

距骨の可動性をショパール関節で補う事になり、これは内側縦アーチの扁平化を助長させる一因となる事が多く、様々な足のトラブルを引き起こします。

距骨下関節とショパール関節はセットで機能するため相互作用を考慮した介入が必要です。

 

リスフラン関節 (足根中足関節)

リスフラン関節は足根中足関節とも呼ばれ、3つの楔状骨と立方骨、5つの中足骨により構成されます。

内側楔状骨と第1中足骨によって構成される第1足根中足関節には他の部位とは独立した関節包があります。

それぞれ背側、骨間、底側から延びる強固な靭帯によって固定されており、元々可動性が少ない関節ですが、中でも第1中足足根関節では比較的可動性が大きく、第2中足骨関節は、周囲を他の骨によって囲まれているため、足根中足関節の中で最も可動性が小さくなっています。図参照。

 

 

足根中足関節の安定性は、横アーチの保持に貢献しており、前足部の機能に重要な役割を担っています。

 

動作においては、歩行立脚後期での足底外側荷重から内側荷重への転換や、母趾球から母趾頭への安定性に関与し、スポーツ動作におけるカッティングや地面の蹴りだしに非常に重要な部位です。

 

リスフラン関節は後足部と中足部のバランサーとして作用する事が主な役割です。

例えば、足底が床面に固定された状態で、後足部が過回外すると、中足部のショパール関節は追随するように、回外方向へ作用します。このままでは前足部が床面から浮いてしまいますので足底部が地面との接触を維持するためにリスフラン関節は回内方向(主に第1中足骨背屈・内転・内旋)に作用します。逆に後足部が過回内位の場合は逆にリスフラン関節は回外方向に作用し、バランスを取っています。

 

このようにリスフラン関節は後足部のマルアライメントを代償する事で回旋ストレスを受け、後足部の機能不全から横アーチの低下や足指機能不全に陥るケースが多く前足部に不安定性がある状態での反復ストレスやカッティングがリスフラン靭帯損傷を引き起こす主な原因です。

 

 

リスフラン靭帯損傷が疑われるケースでは後足部からの異常が障害の原因になっていることが多いため、局所だけではなく、足部全体の治療マネジメントが必要であると考えています。

 

足趾と内在筋について

足趾はリスフラン関節、中足趾節関節(MTP)、趾節間関節(IP=近位PIP、遠位DIP)によって構成されています。MTP関節の動的安定性は足部内在筋によって、IP関節の動的安定性は長趾伸筋や長趾屈筋によって担保されています。

足趾は偏移した重心を支持、および中心に押し戻す機能を持ち、姿勢保持や動作時の安定性と運動性の確保に重要な役割を担っています。足趾の機能は軽視されがちですが、特に足趾把持機能は足部内在筋との関わりが強く個人的に注意をして評価している部位です。

 

 

足趾機能の向上は足趾把持により、転倒予防や動的バランス能力と正の相関がある事は周知されていますが、村上らは歩行時、内在筋は立脚期全般に活動していることから、床面を蹴り出す直接的駆動力としては機能せず、内在筋は足部縦アーチを支持することで足部にかかる圧を吸収し、床面に対して足部を安定化させる働きがあることが考えられると報告しています。

 

またAngin らによると扁平足症例は正常な足部アライメントを呈する者に比べ、足部内在筋の筋横断面積が減少しており、一方で足部外在筋の筋横断面積は増加していることを報告しています。さらに扁平足症例の歩行立脚期において後脛骨筋の筋活動の増加や足関節内部底屈および回外モーメントの増加も報告されており、岡村らは扁平足症例では荷重動作中、後脛骨筋などの足関節内返し作用を持つ足部外在筋が代償的に筋活動を増加させ内在筋の機能不全が外在筋の過活動を誘発し、シンスプリントなどの過用症候群の一因になりうると考察しています。

 

足趾機能・内在筋が活きる条件として、適度なアーチ構造の保持が重要になりますが、特に横アーチが足趾機能良し悪しを決定づけるポイントとして重要です。

横アーチの機能低下を引き起こす原因として、ウィンドラス機構の破綻や外側アーチの過剰な低下、横アーチを構成する靭帯構造の破綻と筋の機能低下など多面に及びます。
これまでのコラムで足部関節は単一の部位として機能するのではなく隣接する関節の影響を受け、互いに協調を取りながら機能している事を紹介してきました。外反母趾などに代表される変形や痛みを伴う足趾機能不全についてはもちろんですが、浮趾などの無症候性の物も例外ではなく局所だけではない、広い視点をもった治療マネジメントが必要だと考えています。

 

 

足趾・内在筋が機能する事で(ここでは特にMPT関節での足指屈曲)良姿勢保持、歩行効率の改善、高齢者における転倒予防、スポーツ時のパフォーマンスアップ・障害予防、浮腫みなどの改善による痩身効果や巻き爪トラブルの改善などそのメリットは多岐にわたり、健康寿命の延伸や小児期の足育、アスリートのコンディショニングの一環として、足趾・内在筋機能の向上は重要な意味があると考えています。

 

参考文献

  • 松尾善美 2017 臨床実践足部足関節の理学療法 文光堂
  • 福本貴彦 2016 足関節のバイオメカニクス Jpn J Rehabil Med Vol. 53 No. 10
  • Donald A.Neumann(2005)筋骨格系のキネシオロジー
  • 片寄正樹(2018)足部足関節理学療法マネジメント
  • 村上茂雄:足部内在筋と外在筋の機能(2008)
  • 岡村和典:足部内在筋は歩行中の足関節モーメントを変化させる機能を有する(2017)