リハビリテーション

「体幹コンディショニングの最前線~体幹モーターコントロール~」腰痛攻略編 文献抄読

最近は釣りにハマっているのと、新たなWEBビジネスを始めるために、様々な準備に追われています。しかし、今年決めた月一更新は、できるだけ守っていけるように、遅れても投稿していきますので、どうかよろしくおねがします。

要約

腰椎骨盤安定性やモーターコントロールの概念について概説する。

ローカル筋システムとグローバル筋システムの分類と、腰椎・骨盤の安定性には微調整プログラムが必要であり、腰椎・骨盤領域の特定の深部筋を収縮させ脊椎・関節の機械的支援を高める。

またその活動はElastic zoneではなくNeutral zoneで行わせることが理想であり、他動・自動・神経によるコントロールという3つのシステムが相互に依存することにより、腰椎・骨盤が安定化する。

さらに、ローカル筋とグローバル筋の順序を追って正確に賦活化させ協同させることで、腰痛を軽減させる。

 

はじめに

腰痛改善には、関節を適切な動きによって保護し、疼痛に発展する機能障害の原因を解明しなくてはならない。ここ数年日本でも、腰椎と骨盤の安定性を改善するための体幹のモーターコントロールエクササイズを注目されるようになってきた。

研究や実践を基礎とし、この領域の概要を示す。

ローカル筋システムが腰椎だけでなく、骨盤をコントロールしていること、さらに、ローカル筋システムとグローバル筋システムを機能的に統合するモーターコントロールエクササイズは、腰痛改善へと導くだろう。

 

モーターコントロールとは

日常生活において、人間が正常に動くためには中枢神経系(central nervous system:CNS)による個々の筋と関節が調和のとれた機能的運動として組織されなければならない。

これは、歩行、飲食、コミュニケーションといった基本的な生活動作に必要なスキルである。

エクササイズやスポーツを行うならばなおさらこの基本動作に機能不全が起きてはならないこととなる。

無意識のうちに正しいどすあが遂行されるためには、機能不全が起きてもいなくても、意識的な動作の訓練が必要と言える。

モーターコントロールとはまさにこの運動を制御することを指し、

「運動の根幹的メカニズムを統制もしくは指揮する能力」

と定義されている。

運動制御に問題を抱えた患者の運動障害を改善するために、モーターコントロールについてよく理解する必要がある。

 

腰椎・骨盤の安定性

スポーツを楽しむ人は、心血管系健康障害を予防するために運動を行っている。いわゆる「健康に関心のある」人が多い。

またアスリートにおいては、スポーツによって人を感動させたい。

自分に挑戦したいと「夢を実現するための努力を惜しまない」人が多い。

しかし皮肉なことに、こうした人に腰痛が多いのも事実である。

運動による機能障害の発生を軽減し、運動を健康のために楽しむためにも、腰椎・骨盤領域の特定の深部筋を収縮させ脊椎・関節の機械的支持を高めたい。

これまで脊柱安定性は静的に捉えられることが多かったが、動的な安定性の獲得が必要である。

スポーツでは、ボールを打つ・投げる・蹴る。ジャンプし着地するといった動きの中で安定性が求められる。

つまり、安定性は動的プロセスの中に存在することとなる。

特に脊柱は圧迫力に対して不安定なため、細かく分節的に動く特性を十分生かし、負荷の分散的な吸収により部分的ストレスを軽減する。

この「分節安定化トレーニング」は組織損傷後にみられる組織の炎症性疼痛を軽減することを目的とする。

安定性を維持するには、運動を調整する微調整システムによる運動中のコントロールがポイントとなる。

微調整システムとは、ローカル筋システムとグローバル筋システムを指す。

ローカル筋は腰部・脊椎と骨盤の関節を支持し、保護する。

対してグローバル筋は個々の分節を連結し、効率的な抗重力支持システムを構築する。

 

Neutral zoneとelastic zone

Panjabiは、

脊柱の剛性が最小となるneutral zoneと言われる中間位周辺で、脊柱コントロールの必要性が増加するとした。

Elastic zoneと言われる最終可動域に近づくにつれて、他動要素による支持が増加する。

また、椎骨は相互に依存するため、全身平衡のコントロール、腰椎・骨盤の方向性、椎間のコントロールにおいて、腰椎・骨盤安定性が考慮されなければならない。

Athlete Pilates APTMのスイミングを例に挙げてる

最大伸展した場合、椎間関節へは圧縮力が加わり、関節の骨性支持によって安定性を得る。

つまり、椎間関節における骨性支持の繰り返しは、腰椎分離症や脊柱管狭窄症の発症リスクを高めるので、可動域はelastic zoneではなく(必ずしも問題となるわけではないが、最大伸展ばかりを行うのは危険である)neutral zoneでのエクササイズを意識する。

さらに、外力や内力により身体の平衡を維持する際、重心を新たな支持面上に移動するため体幹運動が起きる。

この時に全身の姿勢のアライメントが崩れないようにコントロールする。

次のステップは、脊柱と骨盤の方向性のコントロールである。

脊柱のカーブは骨盤の動きと連動する。

脊柱が屈曲すれば自然と骨盤は後傾し、脊柱が伸展すれば骨盤は前傾するといった。

連動した動きがスムーズであり、代償動作が起こらないようにコントロールしなければならない。

そして最も細かく意識し動かすのは脊椎の分節コントロールである。

特に腰痛との関連が深く、腰痛患者で障害されているのはこの分節コントロール能力である。

つまり最小の椎骨のコントロールができなければ、骨盤のコントロールは不能となり、全身アライメントが崩れることとなる。

 

3つのサブシステム

腰椎骨盤安定性には、他動・自動・神経コントロールという3つのサブシステムが関与している。

他動サブシステムは脊柱の骨・関節・靭帯が脊柱の運動と安定性のコントロールに関与する。

自動サブシステムは筋による力発生能力に関係し、脊柱分節を固定する機械的能力を提供する。

神経コントロールサブシステムでは、適切なタイミング、適切な活動量、適切な順序で筋を収縮させ、適切に戻す役目がある。

この3つのサブシステムが相互に依存することにより、腰椎・骨盤が安定化する。

反対にこのいずれかのシステムが機能異常を起こした場合、他のシステムがその機能を代償することはできない。

そして脊柱分節のコントロール不足となり、過剰な分節運動が神経組織の圧迫や伸張を引き起こし、靭帯や疼痛感受性組織に異常な変化をもたらし、腰痛が発生する可能性が高い。

腰痛改善のためには安定性を供給する個々の要素をコントロールする筋を分類するシステムがある。

 

ローカル筋システムとグローバル筋システム

脊柱を横断する多くの筋が、腰椎・骨盤安定性の調整に関与するが、筋の機能と構造の特徴を考慮すると、ローカル筋システムとグローバル筋システムに分類することができる。

ローカル筋は、起始・停止部が腰椎に直接付着しており深部に位置する。

役割は、脊柱分節の剛性及び椎間関係、さらに姿勢をコントロールすることである。

腰椎・骨盤安定性には不可欠である。

代表的なローカル筋として、腰部多裂筋深部線維や、胸腰筋膜を介して腰椎に付着する腹横筋、内腹斜筋後部線維などが挙げられる。

グローバル筋は椎骨に直接付着せず、多分節を横断し、胸郭と骨盤を直接つなぐ表在に位置し、胸郭から骨盤に負荷を伝達する。

代表的な筋として、脊椎起立筋、腹直筋、外腹斜筋などが挙げられる。

役割は脊柱の方向性をコントロールすることである。

脊椎運動時のトルク(力学において、ある固定された回転軸を中心に働く、回転軸の周囲の力のモーメント)を発生し運動方向をコントロールし、体幹に関わる外的負荷とのバランスをとりながら、大きな力を出力する。

このように腰椎・骨盤安定性には不可欠であるが、椎間運動を微調節することは難しい。

つまり、先立ってローカル筋システムが活動し、脊椎分節の安定性を高め、グローバル筋システムにより、胸郭と骨盤の間に挙動を行わせることで脊柱の剛性を高めるという協調作業が起こることにより、最適な機能が発揮される。

これこそがモーターコントロールである。

しかし、ローカル筋の活動を伴わないグローバル筋の活動が起こると、最も動きやすい下位腰椎に挙動が集中し、椎間関節や椎間板に物理的負荷が加わり、障害の発生につながる可能性が高い。

これはローカル筋システムが適切に機能しないために、椎間運動が十分にコントロールされていないと考えられる。

個々の脊椎分節の支持・コントロールにおいて、ローカル筋システムが重要であり、どのような機能的活動においてもローカル筋が絶えず収縮する必要があると言える。

この機能が働かないならば、長い期間にわたり徐々に起こる組織破壊による腰痛となり、これをself-injury(自己損傷)と呼ぶ。この腰痛は、脊柱が十分にself-stabilized(自己安定化)されていないと言えるであろう。

 

分節安定性トレーニング

ローカル筋システムとグローバル筋システムが統合するためには、分節安定性トレーニング(segmental stabilization training:SST)が必要である。

グローバル筋と共同作業させ、CNSを再教育するためのモーターコントロールプログラムである。

まず分節化のプロセスを理解する必要がある。

各段階で、機能的姿勢及び運動を要素に分解することである。

低下している機能的姿勢と運動を分解してトレーニングを行い、次に機能を統合することである。このように徐々にモーターコントロール能力を向上するのが望ましい。

具体的には、第1段階として、局所的な分節コントロールである腹横筋、腰部多裂筋深部線維、横隔膜、骨盤底筋群を単独で収縮させる。

腰椎と骨盤の動きを起こすグローバル筋の収縮とは独立して、腰椎骨盤領域のコントロールを行う。

そして、閉運動連鎖コントロールと開運動連鎖コントロールへと続く。

開運動連鎖(open kinetic chain:OKC)は手や足を床面から離した非荷重位での運動

閉運動連鎖(closed kinetic chain:CKC)は手や足を床面につけた荷重位での運動

具体的には、歩行中の遊脚相はOKCであり、立脚相はCKCである。

また、ボールを蹴る足の動作はOKCであり、支持足の動作はCKCである。

上肢では、手を振る動作はOKCであり、腕立て伏せはCKCである。

ヨガやピラティスはSSTモデルでの腰痛予防とリハビリテーションに非常に適したエクササイズである。

 

段階1:局所的な分節コントロール

SSTは第1段階にローカル筋の賦活による局所的な分節コントロールが必要である。

これは無負荷の状況下で、抗重力体重支持機能を加えずにローカル筋の独立したコントロールを促通する。

具体的には、背臥位になり、腹壁が弛緩している状態から、腹壁を軽く引き込む。

力を入れすぎると、腹斜筋群が同時に収縮し、筋厚が増加してしまい、腹横筋の単独収縮ではなくなるため注意する。

有効なのは骨盤底筋群の収縮を用いることである。なかでも恥骨尾骨筋(pubococcygeus muscle)の収縮が腹横筋の収縮と同時に起こるため、会陰部を軽く引き上げるように意識するとよい。

このモーターコントロールにより正常な脊椎のカーブを形成する能力が高まり、関節を保護することができる。さらに呼吸を十分意識し、横隔膜の活動を正常に行うことでより効果を期待できる。

 

段階2:CKCによるモーターコントロールエクササイズ

第1段階で賦活化されたローカル筋が機能する体幹と、骨盤帯、肩甲帯、四肢の体重支持機能を個々に高める。

特に、腰椎及び骨盤のローカル筋及び体重支持筋の活動と、体重支持のための静的な腰椎・骨盤の姿勢を維持する能力を高めることを強調する。

CKCエクササイズの例として、Core Power Yoga CPYのチェアポーズを挙げる。

屈曲姿勢での体幹支持(CKC)エクササイズによって、体重支持筋をトレーニングする。

ポイントは患者を裸足とし、足底の固有受容器から感覚入力が最大となるようにする。

椅子に腰掛けるように、股関節・膝関節をそれぞれ90°に屈曲したスクワット姿勢で、さらに上昇を屈曲する。

肩関節屈曲と胸椎伸展により、180°程度を目安としたい。

肩関節の可動性が低く、代償動作で脊柱が屈曲されてしまう場合は、上肢はゼロポジションに戻す。

このチェアのポーズでは軽く腹部を引き入れ腹横筋を、腰椎の緩やかな伸展により多裂筋を活動させる。

骨盤を前傾しすぎてグローバル筋の過活動が起きないように注意する。

両側体重支持からランジのような一側体重支持姿勢へと発展させると良い。

 

段階3:OKCによるモーターコントロールエクササイズ

日常生活やスポーツ動作にはOKCが多く含まれる。

例えばポールを蹴る場合、股関節屈曲により行い、代償動作として腰椎が屈曲してはならない。

こうした代償動作が起きないためにも、まずは体幹が安定した状況下でのOKCエクササイズを行う。

さらに脊柱のしなやかな動きとスピードを加え、グローバル筋による大きな力の発揮を促す。

ここでは、ローカル筋は脊椎分離をコントロールし、特に腹横筋を活動させ、分節運動コントロールを維持し続けなければならない。

このようにしてローカル筋、体重支持筋、非体重支持筋を統合させることが重要である。

OKCエクササイズとしてはCore Power Yoga CPYのT字ポーズを挙げる。

片脚で平衡性を保ちながら、腹部を引き入れ重力に対抗して腹横筋を活動させ、脊柱のニュートラルポジションまたは若干の伸展位で多裂筋を賦活し、体幹の筋力と持久力を発揮する。

反対脚も同様に行い、左右差が現れないかを観察する。

 

体幹コンディショニングの最前線

体幹のコンディショニングを調整するためには、前途の段階を経て実施することが望ましい。

特に腰痛を改善するためには腰部と骨盤領域のローカル筋をまずは単独で活動させ、グローバル筋のみの活動とならないようにする。

最終的にはローカル筋とグローバル筋が協同して活動することがモーターコントロールといえよう。

スポーツを楽しむためにもこうした計画的かつ緻密に計算されたトレーニングの実施を試み、謎の腰痛を攻略したい。