はじめに

腕を肩の高さより上へ挙げるときに、肩の前面や外側に引っかかるような痛みが出る。そう伝えると、診察でNeer徴候、Hawkins-Kennedy徴候、有痛弧(painful arc)徴候といった徒手検査を行われることがあります。これらは、肩峰下インピンジメント症候群や腱板腱の病変(部分断裂・全層断裂)、あるいは肩峰下滑液包炎を調べる場面で使われている検査です3)4)

先に、この記事の範囲をはっきりさせます。治療法を比べる記事ではありません。ここで整理するのは、これらの徒手検査が、腱板腱の病変をどの程度正確に見分けられるかについて、公開された研究が何を報告しているかです。検査で痛みがなぜ誘発されるかという機序(発生の仕組み)そのものは、ここで参照した研究の対象ではないため扱いません。

結論から書きます。急性の肩外傷後52例(棘上筋腱の全層断裂29例・腱の連続性が保たれた対照23例)を対象にした研究では、有痛弧テストは感度0.97・特異度0.05、Hawkins徴候は感度0.83・特異度0.23と、いずれも感度は高いものの特異度が非常に低い値でした1)。一方、外旋ラグサインとdrop-armテストは感度0.37〜0.39・特異度0.86〜0.91と逆の性質を示しています1)。2012年に公表された系統的レビュー・メタアナリシスでは、有痛弧の統合感度・特異度は53%・76%と、この研究とは異なる傾向も報告されています2)。以下、それぞれの研究の対象・方法とあわせて見ていきます。

なお、感度は「病変がある肩を陽性と判定する割合」、特異度は「病変が無い肩を陰性と判定する割合」です。数値が高いほど、その方向の判定を誤りにくいことを示します。

挙上時の徒手検査と、急性全層断裂での診断精度

横断研究のひとつでは、Neer徴候、Hawkins-Kennedyテスト、外転時の有痛弧に加え、empty can・full canテスト、抵抗下での外転・外旋の筋力テストが、肩峰下インピンジメント症候群の評価に用いられる徒手検査として挙げられています3)。別の研究では、Neer徴候・Hawkins-Kennedyテスト・有痛弧に、棘上筋筋力テスト・Speedテスト・水平内転(cross-body adduction)テスト・drop-armサイン・棘下筋筋力テストを加えた8種類が、腱板疾患の重症度(滑液包炎・部分断裂・全層断裂)を見分けるための徒手検査として評価されています4)。これらの検査は、いずれも肩峰下インピンジメント症候群や腱板腱の病変を疑う場面で単独または組み合わせて行われるものであり、それ自体で確定診断とするものではないと報告されています2)

中心となる研究は、受傷から間もない棘上筋腱の全層断裂を、徒手検査でどこまで見分けられるかを調べた前向き研究です1)。104名の患者のうち、断裂群29名(年齢中央値56歳、39〜75歳)と対照群23名(年齢中央値38歳、19〜73歳)の計52名を対象に、受傷後中央値13日(3〜49日)の時点で徒手検査と超音波検査を実施しました1)。断裂群は超音波と関節鏡の両方で全層断裂が確認された患者、対照群は超音波で腱の連続性が保たれていることが確認された患者です1)。この研究は、あらかじめ定められた診断基準を連続症例に適用して検証する診断研究(エビデンスレベルI)として位置づけられています1)

結果は次のとおりでした1)

  • Hawkins徴候:感度0.83、特異度0.23
  • 有痛弧テスト:感度0.97、特異度0.05
  • 外旋ラグサイン(ERLS):感度0.39、特異度0.91
  • drop-armテスト(DAT):感度0.37、特異度0.86

Hawkins徴候と有痛弧テストは感度が高く、逆に外旋ラグサインとdrop-armテストは特異度が高いという、対照的な性質を示しています1)。ただしHawkins徴候の感度0.83は、断裂がある肩の約17%を見逃す値でもあり、感度が高いことと見逃しが無いことは同じではありません1)。著者らは、陽性のラグサイン(ERLSまたはDAT)は全層断裂を示唆するが、陰性であっても断裂を否定できないと結論しています1)。また、肩峰下にリドカインを注射すると、ラグサイン系の検査は感度が下がり、Jobeテスト・ERLS・DATの特異度と尤度比は改善したと報告されています1)。全層断裂群では、自動挙上の角度も対照群より有意に小さかったとされています1)

著者らの結論は、受傷から数週間以内の急性期には、徒手検査だけで判断してはならないというものです1)。この研究の対象は、受傷後間もない棘上筋腱の全層断裂とその対照であり、慢性の肩峰下インピンジメント症候群や部分断裂での精度を示したものではありません1)。また、断裂群の年齢中央値は56歳、対照群の年齢中央値は38歳と、両群で年齢構成が異なっています1)

慢性例・重症度別の検討でも精度は割れる

急性期以外の研究でも、精度は検査ごと・研究ごとに大きく割れています。

横断研究のひとつは、4か月を超える慢性の肩の痛みがあり超音波検査への紹介があった59名のうち、条件を満たした34名を対象に、超音波所見を基準として複数の徒手検査の診断精度を調べました3)。総合的中率(overall accuracy)は、どの程度のインピンジメント症候群に対してもHawkins-Kennedyテストが最も高く71.0%、全層断裂に対しては有痛弧テストが最も高く62.1%でした3)。著者らは、これらの徒手検査の予測値は一定せず、診断への利用には限界があると結論しています3)

2005年の研究では、腱板疾患の重症度別(滑液包炎・部分断裂・全層断裂)に8つの徒手検査を評価し、前進ステップワイズ・ロジスティック回帰分析で最良の組み合わせを検討しています4)。Hawkins-Kennedy徴候・有痛弧徴候・棘下筋筋力テストを組み合わせると、重症度を問わずインピンジメント症候群に対する検査後確率(post-test probability)が95%に達し、有痛弧徴候・drop-armサイン・棘下筋筋力テストの組み合わせでは全層断裂に対する検査後確率が91%に達したと報告されています4)。この検査後確率は、検査前確率を仮定したうえでの統計的な値であり、感度・特異度そのものではありません4)。なお、この研究の対象人数や研究デザインの詳細は、確認できた抄録には記載がありません4)

2012年に公表された系統的レビュー・メタアナリシスは、2006年11月から2012年2月までに追加された32件の研究を、2008年までの先行レビューに統合したものです2)。QUADAS 2(診断精度研究の質を評価する尺度)を用いて各研究を吟味し、統合された感度・特異度は、Neerテストが72%・60%、Hawkins-Kennedyテストが79%・59%、有痛弧テストが53%・76%でした2)。この統合値は、複数の診断研究をまとめた二次的な報告であり、個々の診断研究の値とは性質が異なります2)。著者らは、単一の徒手検査だけで確定的な診断を下すことは推奨できないとし、複数の検査を組み合わせても精度の向上はわずかであり、病歴聴取を含めた総合的な診察が重要だと結論しています2)

この記事で確認できるのは、上記の4件の研究報告(急性期の診断研究1件、慢性期・重症度別の診断研究2件、系統的レビュー・メタアナリシス1件)が報告した数値の範囲です。慢性の肩峰下インピンジメント症候群における有痛弧テストの正確な感度・特異度、どの検査を選ぶべきか、2005年の研究の対象人数や研究デザインの詳細、治療の選び方については、今回確認した資料からは分かりません。また、4件とも抄録に基づく記述であり、原著全文は確認できていないため、抄録には示されない調整解析や除外基準がある可能性があります。

まとめ

  • 急性の肩外傷後52例(全層断裂29例・対照23例)の研究では、有痛弧テストは感度0.97・特異度0.05、Hawkins徴候は感度0.83・特異度0.23と、感度は高いが特異度が低かった。外旋ラグサインとdrop-armテストは感度0.37〜0.39・特異度0.86〜0.91と逆の傾向を示した1)
  • 慢性の肩痛34例の横断研究では、Hawkins-Kennedyテストの総合的中率が71.0%と最も高く、有痛弧テストは全層断裂の判別で62.1%だった3)
  • 重症度別の検討では、複数の徒手検査を組み合わせることで検査後確率が91〜95%に達したと報告されているが、これは感度・特異度そのものではない4)
  • 2012年の系統的レビュー・メタアナリシスでは、Neer・Hawkins-Kennedy・有痛弧の統合感度・特異度がそれぞれ異なり、単一の検査だけで確定診断とすることは推奨されていない2)
  • 今回確認した4件(診断研究3件・系統的レビュー/メタアナリシス1件)はいずれも抄録に基づく記述であり、対象・重症度・研究の時期によって数値が大きく異なる

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。

腱板断裂そのものの見分け方については「肩関節周囲炎・腱板断裂の診断」で、上腕二頭筋長頭腱の病変については「上腕二頭筋長頭腱の病変は触診と超音波で見抜けるか」で、それぞれ別に整理しています。

出典

  1. Bak K, Sørensen AK, Jørgensen U, Nygaard M, Krarup AL, Thune C, Sloth C, Pedersen ST. The value of clinical tests in acute full-thickness tears of the supraspinatus tendon: does a subacromial lidocaine injection help in the clinical diagnosis? A prospective study. Arthroscopy. 2010;26(6):734-742. PMID: 20511030
  2. Hegedus EJ, Goode AP, Cook CE, Michener L, Myer CA, Myer DM, Wright AA. Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests. Br J Sports Med. 2012;46(14):964-978. PMID: 22773322
  3. Kelly SM, Brittle N, Allen GM. The value of physical tests for subacromial impingement syndrome: a study of diagnostic accuracy. Clin Rehabil. 2010;24(2):149-158. PMID: 20103576
  4. Park HB, Yokota A, Gill HS, El Rassi G, McFarland EG. Diagnostic accuracy of clinical tests for the different degrees of subacromial impingement syndrome. J Bone Joint Surg Am. 2005;87(7):1446-1455. PMID: 15995110

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Goyasu | 理学療法士

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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