はじめに

「上りより下りの方がこわいです」「階段を下りるたびに膝が痛いので、もう使わない方がよいのでしょうか」。階段の下りは、日常生活の中でも負担感が出やすい場面です。ただし、下りで痛いことをそのまま「関節が一気に悪くなっている」と読むのは早すぎます。公開されている研究を見ると、下りのつらさには力学的な要求の高さだけでなく、痛みや動作へのこわさ、画像所見が組み合わさって関連しています。

この記事では、変形性膝関節症で階段を下りると痛い時に、研究報告から何が言えるかを整理します。画像所見だけで決めつけず、日常生活の工夫と機能づくりをどう考えるかに絞ってまとめます。膝全体の保存療法を先に整理したい方は、変形性膝関節症の保存療法|若手PTが知るべき痛みの正体と2本柱戦略もあわせて読むと流れがつかみやすいです。

階段の下りがつらくなりやすい理由

下りは平地より要求の高い課題です

Liikavainioらは、X線上で軽度から中等度の変形性膝関節症変化を持つ高齢者を対象に、平地歩行と階段歩行の負荷を比較しました。その結果、階段の下りでは制動期の最大床反力が1.52 body weightで、通常の平地歩行より32.5%高く、荷重速度も平地歩行より強いと報告されています。研究対象は「膝痛や明らかな機能低下がない人」でしたが、それでも下りは要求の高い課題でした。

この研究で確認されたのは、無症候の変形性膝関節症変化がある人でも、階段の下りが平地歩行より力学的に要求の高い課題だという点です。痛みの原因そのものを測定した研究ではありませんが、平地では問題が目立たなくても、下りで負担感が出やすい背景を考える材料にはなります。

自覚的な下りにくさは、痛みとこわさの影響を強く受けます

Stensdotterらは、変形性膝関節症のある人28名と対照31名を比較し、階段の下り動作、筋力、痛み、動作への恐怖心、X線所見が「下りにくさ」にどう関わるかを調べました。変形性膝関節症の群では、下肢全体の運動パターン、立脚時間、筋力に違いがありました。

ただし、自分で感じる「下りにくさ」と最も強く関連したのは動作への恐怖心で、最近の痛みとX線所見を組み合わせると自覚的な困難の大部分を説明しました。対照群との差があった筋力や動作の変数は、自覚的な下りにくさを説明しませんでした。これは横断研究であり、因果そのものを示したわけではありません。階段の下りがつらい時は、筋力だけでなく、痛み、こわさ、画像所見を分けて整理する必要があります。

階段痛は、上りと下りで同じではありません

Wanらの2025年のシステマティックレビューとメタ解析では、変形性膝関節症の183研究をまとめた結果、痛みは階段の上りで最も強く、次いで歩行、階段の下り、立ち上がりの順でした。ここで大事なのは、階段痛をひとまとめにしないことです。

「階段が痛い」と言っても、上りがつらい人もいれば、下りのこわさが強い人もいます。自分のつらさがどの場面で強いかを分けて見た方が、対処の方向も整理しやすくなります。

見直したい考え方

画像所見だけで、下りにくさは決まりません

階段の下りが痛いと、「軟骨がすり減っているから仕方ない」と受け取りやすくなります。しかし、Stensdotterらの研究では、自覚的な下りにくさは筋力や動作の差だけでは説明できず、恐怖心、最近の痛み、X線所見の組み合わせで整理されていました。画像所見が無関係という意味ではありませんが、画像だけで日常生活のつらさを読み切れるわけでもありません。

そのため、変形性膝関節症で階段を下りると痛い時は、「画像で悪いから動いてはいけない」と0か100で考えない方が整理しやすいです。現時点の痛み、こわさ、筋力、生活動作を分けて見た方が、次の一手を決めやすくなります。

ホームエクササイズは土台になります

O’Reillyらのランダム化比較試験では、40から80歳の膝痛のある191名が対象となり、6か月のホームエクササイズ群と無介入群が比較されました。ホームエクササイズ群では、WOMAC疼痛は22.5%低下し、対照群の6.2%低下より大きく、階段や歩行時のVAS疼痛、身体機能も改善しました。

また、Rattanachaiyanontらの試験では、変形性膝関節症の女性113名が、短波治療を追加する群と追加しない群に分かれましたが、両群とも大腿四頭筋エクササイズを行い、階段昇降時間を含む指標で改善がみられました。追加の短波治療は、運動プログラム単独より優れていませんでした。

ここから言えるのは、階段だけを我慢して何とかするより、すでに医療者から指導されているホームエクササイズを続ける方が土台になりやすいということです。運動内容そのものは個別調整が必要ですが、変形性膝関節症で階段を下りる時の困りごとを考えるうえでも、大腿四頭筋を含む基礎的な運動は外しにくいといえます。自宅での運動の考え方は、変形性膝関節症の痛みを和らげる運動療法:PTが教える自宅でできる効果的な方法にもつながります。

痛みだけでなく、できそうだと思えるかも重要です

Brissonらは、変形性膝関節症の女性37名を2年間追跡し、痛み、大腿四頭筋の筋力とパワー、自己効力感が移動能力の変化をどう予測するかを調べました。自己効力感が低い人ほど、歩行や階段上行の成績が落ちやすく、自己効力感が低い場合は筋力とパワーの低さも不利に働きました。

この研究は歩行・階段上行・階段下行の3つを測定した観察研究です。ただし抄録で有意な予測結果が示されたのは、歩行と階段上行についてであり、階段の下りについては抄録から読み取れません。そのため、自己効力感が階段の下りにどう関わるか、あるいはどの調整方法が有効かまでは、この資料だけでは言えません。ここで確実に言えるのは、痛みだけでなく「できそうだ」という見通しも、長期の移動能力と切り離しにくいという点までです。

自宅で続ける時の整理

研究から確実に言える範囲を守ることが大切です

今回集めた資料から整理できるのは、階段の下りが力学的に要求の高い課題であること、自覚的な下りにくさには恐怖心や痛み、画像所見が関連すること、ホームエクササイズが痛みと機能の見直しに役立つことです。反対に、「どの工夫が最も安全か」「どこまで増やしてよいか」といった細かな生活指導までは、この資料だけでは決めきれません。

そのため、この記事も「これをすれば必ず下りやすくなる」とまでは書きません。研究が示した範囲を超えて、生活の工夫や運動の増やし方を断定しないことが大切です。

既に指導されているホームエクササイズは整理の軸になります

研究が示しているのは、ホームエクササイズが痛みと機能の改善に役立つという点です。変形性膝関節症で階段を下りると痛い時も、階段だけの問題として切り離すより、すでに医療者から指導されているホームエクササイズを整理の軸に置いた方が、研究の範囲に沿った考え方になります。

自己判断で運動を広げすぎないことも重要です

本記事で挙げた研究は、変形性膝関節症で階段を下りる困りごとを整理する材料にはなりますが、個別の診断や治療方針を決めるものではありません。本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。

まとめ

  • 階段の下りは、平地歩行より負荷が高い場面として報告されています
  • 自分で感じる下りにくさは、筋力だけでなく痛み、動作への恐怖心、画像所見をあわせて整理する必要があります
  • 階段痛は上りと下りで同じではなく、活動ごとに分けて考えた方が整理しやすいです
  • ホームエクササイズは、痛みと機能の見直しの土台になります
  • 生活上の細かな工夫や運動量の調整は、今回の資料だけでは断定できません

出典

  1. Liikavainio T, Isolehto J, Helminen HJ, et al. Loading and gait symmetry during level and stair walking in asymptomatic subjects with knee osteoarthritis: importance of quadriceps femoris in reducing impact force during heel strike? Knee. 2007;14(3):231-238. PMID: 17451958
  2. Stensdotter AK, Vårbakken K, Roeleveld K. Factors associated with self-rated difficulty to descend stairs in persons with knee osteoarthritis. PM R. 2023;15(1):9-19. PMID: 34432951
  3. Wan Y, McGuigan P, Bilzon J, Wade L. Knee loading and joint pain during daily activities in people with knee osteoarthritis: A systematic review and meta-analysis. Clin Biomech (Bristol). 2025;122:106433. PMID: 39823698
  4. O’Reilly SC, Muir KR, Doherty M. Effectiveness of home exercise on pain and disability from osteoarthritis of the knee: a randomised controlled trial. Ann Rheum Dis. 1999;58(1):15-19. PMID: 10343535
  5. Rattanachaiyanont M, Kuptniratsaikul V. No additional benefit of shortwave diathermy over exercise program for knee osteoarthritis in peri-/post-menopausal women: an equivalence trial. Osteoarthritis Cartilage. 2008;16(7):823-828. PMID: 18178111
  6. Brisson NM, Gatti AA, Stratford PW, Maly MR. Self-efficacy, pain, and quadriceps capacity at baseline predict changes in mobility performance over 2 years in women with knee osteoarthritis. Clin Rheumatol. 2018;37(2):495-504. PMID: 29127543

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Goyasu | 理学療法士

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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