「主動作筋が働くと、拮抗筋はゆるむ」。相反抑制は、養成校で最初に習う脊髄反射のひとつです。ただしこれは教科書的に単純化した説明であり、実際にヒトで測ると、もう少し込み入った話になります。

先に、この記事で扱う範囲をはっきりさせます。ここで整理するのは「相反抑制をどう治療に使うか」ではありません。ヒトを対象に実際に測った研究が、何をどこまで示しているかです。

結論から書きます。「相反抑制は立位と歩行で違う」とは、この研究からは言えません。条件ごとに見れば有意に抑制がかかる場面とかからない場面がありますが、背景の筋活動などを考慮して課題どうしを比べると、差は有意ではありませんでした。

相反抑制は、ヒトでどう測られているのか

相反Ia抑制は、拮抗筋を協調させるための重要な脊髄分節性の神経経路とされています1)

条件刺激と試験刺激の組み合わせ

ヒトでの測定は、末梢神経への電気刺激を2つ組み合わせて行われます。下腿で行う場合、条件刺激を総腓骨神経へ、試験刺激を脛骨神経へ与え、ヒラメ筋H反射の振幅がどう変わるかを見ます4)。条件刺激と試験刺激の間隔(conditioning-test interval, CTI)は、研究によって設定が異なります4)

関節そのものの動きを診るときと違い、ここで見ているのは反射の大きさの変化です。関節の副運動を診る話は関節包内運動について〜副運動(関節の遊び&構成運動)〜で整理しています。

測り方そのものにも限界がある

H反射を一定の刺激強度で誘発する方法には限界が指摘されています。反射の大きさが違えば、動員されている運動ニューロンの集団も違うためです6)。これに対し、同じ運動ニューロン集団で興奮性の変化を追う閾値追跡法が用いられ、健常者17名と運動ニューロン疾患の患者11名での検討では、定強度法より速く、信頼性があると報告されています6)

立位と歩行 — 条件内の有意と、課題間の差は別

健常15名で測ると

健常者15名を対象に、経頭蓋磁気刺激(TMS)と深腓骨神経刺激を用いて、立位と、歩行の立脚中期・立脚後期でヒラメ筋H反射を評価した研究があります1)

条件ごとに見ると、ヒラメ筋H反射の抑制は立脚後期で −10.6 ± 2.4%(P<0.01)、立位で −9.0 ± 1.4%(P<0.001)と有意でした。一方、立脚中期は −4.2 ± 2.9% にとどまり、有意ではありませんでした(P=0.16)1)

🔴 ここで止めると読み違えます

「立位と立脚後期では有意、立脚中期では有意でない」。ここまでは正しい記述です。しかしこれは「課題によって相反抑制が違う」という意味ではありません。

同じ論文で、著者らは背景の筋電図活動とH反射の対照サイズを考慮した重回帰分析で、課題間の差を検定しています。その結果、回帰は有意ではなく(R²=0、P=0.69)、相反抑制は課題間で有意に変化しなかったと報告されています(課題の要因 P=0.32)1)

ある条件で有意差が出て、別の条件で出なかったことと、条件どうしに差があることは、別の主張です。前者だけを見て後者を言うことはできません。

では、課題で変わったものは何か

この研究で課題によって有意に変わったのは、TMSと深腓骨神経刺激を組み合わせたときの効果でした。重回帰分析は有意で(R²=0.27、P<0.001)、特に課題(P<0.05)とTMSによるH反射促通(P<0.01)が寄与しています。相反抑制の大きさ自体は、この結果に影響しませんでした(P=0.72)1)

また、相反抑制とTMSによるヒラメ筋H反射促通の間には、有意な負の相関が認められています(R²=0.50、P<0.001)1)

なお閾値下TMSは、立位と立脚中期ではH反射の短潜時促通を生じましたが、立脚後期では生じませんでした1)

著者らの結論

著者らは、皮質脊髄路入力とIa抑制性介在ニューロンが脊髄で課題依存的に相互作用すること、そして相反Ia抑制への皮質脊髄路の修飾は、歩行中よりも立位で強いことを示すものだとしています1)

歩行の見方そのものについては、分回し歩行(circumduction gait)とはで、周期のどこを見るかという観点を整理しています。

介入で変えられるのか

反復他動運動

反復他動運動(repetitive passive movement, RPM)は、運動速度が上がるほど脊髄相反抑制を高めるリハビリテーション手技として報告されています4)

健常成人20名と16名を対象とした研究では、足関節を80〜120°の範囲で、80°/sで618回、160°/sで309回、160°/sで618回動かす条件、および80〜100°と100〜120°の2つの範囲で160°/s・10分間動かす条件が設定されました4)。相反抑制はCTI 2msと20msで、課題前・直後・5分後・10分後・15分後・20分後に測定されています4)

著者らは、RPMの速度が速く、可動域が広いほどIa発火が増えると考えられ、これが相反抑制の抑制性介在ニューロンを活性化して相反抑制を高めた可能性がある、としています4)

パターン化した感覚神経刺激

健常者10名を対象に、総腓骨神経へ1秒ごとに100Hz・5連発の電気刺激を、前脛骨筋の運動閾値強度で与えた研究があります3)

この刺激により、相反Ia抑制は有意に増加し、TMSで条件づけたH反射の短潜時抑制相の振幅は低下しました。一方でHmax/Mmaxは変化しませんでした3)。著者らは、パターン感覚神経刺激がIa抑制性介在ニューロンの活動を修飾しうること、そしてこれはIa抑制性介在ニューロン終末のシナプス修飾によるものと考えられる、と述べています3)

上位からの入力が限られていても変わる

慢性脊髄損傷のある16名を対象に、歩行トレーニングの前後で、座位と歩行中の相反Ia抑制および非相反Ib抑制を評価した研究があります2)

座位では、訓練後に全例で相反促通が相反抑制へ置き換わりました。Ib促通がIb抑制へ置き換わったのは14名中13名でした2)

ただし歩行中の変化は一様ではありません。AIS Cでは立脚初期に低下し遊脚中期に増加、AIS Dでは立脚中期と遊脚中期に低下しています2)。著者らは、歩行トレーニングが安静時と歩行中の両方でIa・Ib抑制性介在ニューロンのヒラメ筋運動ニューロンへのシナプス後作用を変えること、そして上位中枢からの入力が限られる、あるいは無い場合にもそうした変化が起きることを支持する結果だとしています2)

片脚だけの話ではない可能性

動物では、一方の肢から生じる求心路が、対側の二シナプス性相反Ia抑制を担う介在ニューロンへ収束することが支持されています5)。ヒトでも同様かどうかを調べるため、健常者13名を対象に、同側後脛骨神経刺激が対側ヒラメ筋運動ニューロンプールの相反Ia抑制へ及ぼす影響が検討されています5)

この記事で確認できる範囲と、その限界

  • 取り上げた健常者の研究は、15名・20名・16名・10名・13名・17名と、いずれも少人数です
  • 反復他動運動の研究で追跡されているのは、課題前から20分後までです4)
  • 脊髄損傷の研究は16名で、歩行中の変化はAIS分類によって方向が異なります2)
  • 両側性の収束については、ヒトで「検討した」ところまでを紹介しています5)
  • 数値と統計は、出典1)のみ原著全文から引用しています。他の5件については、本記事では抄録の範囲でのみ照合しており、原著全文までは確認していません

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。

まとめ

  • 相反Ia抑制は、拮抗筋の協調のための脊髄分節性の経路とされる1)
  • ヒトでは、条件刺激と試験刺激を組み合わせてH反射の振幅変化から評価される4)
  • 条件ごとに見ると、抑制は立位と立脚後期で有意、立脚中期では有意でなかった1)
  • ただし背景の筋活動などを考慮して課題間を比べると、差は有意でなかった(回帰モデル全体 P=0.69、課題の要因 P=0.32)1)
  • 課題によって有意に変わったのは、TMSと末梢刺激を組み合わせたときの効果である1)
  • 皮質脊髄路による修飾は、歩行中より立位で強いとされる1)
  • 反復他動運動やパターン感覚神経刺激で、相反抑制が増加したという報告がある3)4)
  • 脊髄損傷後の歩行トレーニングでも変化が報告されているが、歩行中の変化の方向は一様ではない2)

出典

  1. Hanna-Boutros B, Sangari S, Giboin LS, El Mendili MM, Lackmy-Vallée A, Marchand-Pauvert V, Knikou M. Corticospinal and reciprocal inhibition actions on human soleus motoneuron activity during standing and walking. Physiol Rep. 2015;3(2). PMID: 25825912
  2. Knikou M, Smith AC, Mummidisetty CK. Locomotor training improves reciprocal and nonreciprocal inhibitory control of soleus motoneurons in human spinal cord injury. J Neurophysiol. 2015;113(7):2447-60. PMID: 25609110
  3. Kubota S, Hirano M, Morishita T, Uehara K, Funase K. Patterned sensory nerve stimulation enhances the reactivity of spinal Ia inhibitory interneurons. Neuroreport. 2015;26(5):249-53. PMID: 25719751
  4. Hirabayashi R, Edama M, Kojima S, Miyaguchi S, Onishi H. Enhancement of spinal reciprocal inhibition depends on the movement speed and range of repetitive passive movement. Eur J Neurosci. 2020;52(8):3929-3943. PMID: 32511811
  5. Mrachacz-Kersting N, Geertsen SS, Stevenson AJ, Nielsen JB. Convergence of ipsi- and contralateral muscle afferents on common interneurons mediating reciprocal inhibition of ankle plantarflexors in humans. Exp Brain Res. 2017;235(5):1555-1564. PMID: 28258435
  6. Howells J, Sangari S, Matamala JM, Kiernan MC, Marchand-Pauvert V, Burke D. Interrogating interneurone function using threshold tracking of the H reflex in healthy subjects and patients with motor neurone disease. Clin Neurophysiol. 2020;131(8):1986-1996. PMID: 32336595

📚 この記事に関連する書籍

記事のテーマと、そこから広がる隣接領域について、関連する書籍を挙げています。記事の執筆に用いた資料ではありません。

※Amazonアソシエイトプログラムに参加しています。リンクから購入された場合、当サイトに紹介料が入ります。

Goyasu | 理学療法士

この記事は、理学療法士が運営するサイトで、AIを活用して作成しています。公開前に、出典との対応と表現について独立した自動監査を行っています。

ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
スポンサーリンク(A8.net)お名前.comで独自ドメインを確認する →