レントゲンで変形が確認できた。だからこの痛みは関節から来ている——。この推論を、どこまで確かなものとして扱えるでしょうか。

先に、扱う範囲をはっきりさせます。この記事は「変形が痛みに関与していない」と言うものではありません。扱うのは、「侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明できる」と判断してよいかという点です。侵害受容性の機序が存在することと、それだけで痛みのすべてが説明できることは、別のことです。

結論から書くと、変形性膝関節症で分類体系を実際に適用した研究は、その「完全に説明できるか」を判定する明確な基準は存在しないと明記しています。

以下では、2つの研究が実際に示した範囲と、示していない範囲を分けて書きます。

「完全に説明できる」と判定する基準は存在しない

Vervullensらは、変形性膝関節症で人工膝関節置換術を待機中の197例を対象に、IASPが示した痛覚変調性疼痛の分類体系を実際に当てはめました。

この研究の性格を先に押さえておきます。これは前向き縦断研究のベースラインデータを用いた二次解析です。対象は全員が人工膝関節置換術の待機中であり、神経障害性疼痛様の症状がある患者は除外されています。著者ら自身が、一般的な変形性膝関節症の集団を代表するものではないこと、そして提案した基準にはさらなる検証が必要であることを述べています。

その分類体系には「侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明できるとは言えないこと」という段階が含まれます。ここで著者らは、次のように書いています。

現時点で、侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明できるかどうかを判断するための分類体系や、明確に定義された基準は存在しない。

そのうえで、画像・詳細な問診・身体所見は判断に使えるとしつつ、併存する痛覚変調性疼痛(混合性の機序)の存在を除外することはできないと述べています。そして、その解釈は検査者の主観的な臨床判断に依存するとしています。

この研究では、画像で変形性膝関節症が確認されているだけでは、侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明すると判断するには不十分と考え、段階2を満たした参加者を全員そのまま次の段階へ送っています。

つまり、「画像所見がある」ことは、侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明すると確定する根拠にはなっていません。研究の手続きの中で、そのように扱われています。画像所見が痛みと無関係だという意味ではありません。

分類体系を当てはめると、どうなったか

Vervullensらの結果は次のとおりです。痛みの部位の数え方について、2つの方法が併記されています。

  • 段階1(3か月以上の慢性痛):197例中195例(99%)が該当
  • 段階2(限局的でなく領域性・多発性・広範):方法1(膝+他3か所)で73例(37.4%)、方法2(膝+他2か所)で120例(61.5%)
  • 段階3・4:後述の理由により、段階2を満たした全員がそのまま通過
  • 段階5(誘発される痛覚過敏):方法1で73例中50例(68.5%)、方法2で120例中82例(68.3%)
  • 段階6:この研究では「併存症の存在」の部分だけを用いています(過敏の既往は前段階で詳細な定量的感覚検査を行ったため)。基準は選択したCSIの項目のうち、2項目以上で各3点以上(0〜4点で、3は「よくある」、4は「いつもある」)。方法1で50例中30例(60.0%)、方法2で82例中46例(54.1%)が該当

段階4が自動通過になった理由は、選択基準にあります。この研究は神経障害性疼痛様の症状がある患者を除外しているため、そもそも神経障害性疼痛が該当する参加者がいませんでした。

最終的に「痛覚変調性疼痛の可能性が高い」と分類されたのは、30例(15.22%)から46例(23.35%)でした。数え方によって幅があります。

この群には次の特徴がありました。女性が多く、年齢が低く、痛みの部位が多く、圧痛閾値が低く、CSIスコアが高く、不安と抑うつのスコアが高い。

そしてこの群は、人工膝関節置換術から1年後の痛みが強いという結果でした(方法1で P=0.005)。

ただしこの1年後の測定には、41例(20.8%)の欠測があります。時間が取れなかった、連絡がつかなかった等の理由によるものです。

広い痛みでも侵害受容性はある

Schmidtらは、同じ分類体系が慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛を区別できるかを検証しました。対象は線維筋痛症41例、複合性局所疼痛症候群11例、変形性関節症21例、末梢神経損傷8例です。

ここに重要な結果があります。

広範な痛みは変形性関節症の21例中12例で見られましたが、そのうち11例は侵害受容性の機序で説明できると判定されました。関節症そのものや、併存する別の侵害受容性の痛みによって説明がついたということです。

同様に、領域性の痛みは末梢神経損傷の8例中4例で見られましたが、そのうち3例は神経障害性と判定されています。

この段階での感度は100%、特異度は93%でした。

つまり「痛みが広い」という所見だけでは、侵害受容性疼痛を否定できません。複数の部位に、それぞれ侵害受容性の原因がある場合があるからです。

後の段階では区別できなくなった

一方で、後の段階は両群を区別しませんでした。項目ごとに分けて書きます。

  • 定量的感覚検査による痛覚過敏:慢性一次性疼痛 52例中36例(69%)、慢性二次性疼痛 29例中20例(69%
  • 過敏の既往(自覚的な訴え):約83%対83%(52例中43例=82.7%、29例中24例=82.8%)
  • 併存症の存在両群とも100%(52例中52例、29例中29例)が基準を満たした

併存症の基準は、全例が満たしています。区別する力を持っていません。

その結果、特異度は93%のまま高い一方、感度は60%へ大きく低下しています。

2つの研究で確認できたこと

  • 「侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明できる」と判定する分類体系や明確な基準は、現時点で存在しない(Vervullensらの記述)
  • 画像・問診・身体所見は判断に使えるが、併存する痛覚変調性疼痛を除外できない。解釈は検査者の主観的な臨床判断に依存する
  • 変形性膝関節症でTKA待機中の197例では、15.22%〜23.35%が「痛覚変調性疼痛の可能性が高い」に分類された
  • その群は術後1年の痛みが強かった
  • ただし「痛みが広い」ことだけでは侵害受容性疼痛を否定できない。変形性関節症で広範な痛みを示した12例のうち11例は侵害受容性で説明できた
  • 誘発される痛覚過敏(69%対69%)、過敏の既往(約83%対83%)は両群を区別しなかった併存症の基準は両群とも100%が満たした

どちらの研究も、治療方針を示したものではありません。侵害受容性疼痛に対する運動療法の進め方について、ここで挙げた資料には記載がありません。

用語の位置づけ

この分類の背景について、Alcántara Monteroの整理が参考になります。この論文は意見論文(Opinion Article)であり、一次研究ではありません。以下は「この論文がそう述べている」という位置づけです。

長年、臨床は侵害受容性と神経障害性という二分法に依拠してきました。しかしこれでは、症状の重さと構造的所見が食い違う患者を説明できません。そこで2017年に「痛覚変調性疼痛」という記述子が導入され、2021年に臨床基準が示されました。

同論文は、混合痛が例外ではなく主要な臨床像であると主張しています。また、機序の枠組みを持たない臨床家は構造的な説明に立ち返りやすく、画像検査・紹介・末梢に焦点を当てた治療を増やす傾向があると述べています。

なお、Schmidtらは別の観点からの批判にも触れています。侵害受容の信号処理の変化は、あらゆる種類の損傷における正常な生理学的帰結であるため、概念が広くなりすぎて役に立たないという指摘です。

患者さんへどう伝えるか

断定を避け、研究で示されている範囲を伝える形が考えられます。

「レントゲンで関節の変化は確認できています。ただ、その変化だけで痛みのすべてを説明できるかというと、研究の世界でもそれを判断する決まった基準はまだありません。膝の手術を待っている197人を調べた研究では、15%から23%の方が、『痛覚変調性疼痛の可能性が高い』という分類に入りました。これは分類上の判断であって、その方の痛みに関節の変化がどれだけ関わっているかを確かめたものではありません。どちらか一方に決めつけず、経過を見ながら一緒に考えていきます。」

まとめ

  • 「侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明できる」と判定する分類体系や明確な基準は、現時点で存在しない
  • 画像所見があることは、侵害受容性疼痛が痛みを完全に説明すると確定する根拠にはならない。研究の手続き上もそう扱われている。画像所見が痛みと無関係という意味ではない
  • 変形性膝関節症でTKA待機中の197例のうち、15.22%〜23.35%が「痛覚変調性疼痛の可能性が高い」に分類され、術後1年の痛みが強かった(ただし1年後の測定には41例=20.8%の欠測がある)
  • この割合はベースラインデータの二次解析によるもので、一般的な変形性膝関節症の集団を代表しない。著者らもさらなる検証が必要としている
  • 逆に「痛みが広い」ことだけでも侵害受容性疼痛を否定できない。変形性関節症で広範な痛みを示した12例中11例は侵害受容性で説明できた
  • 分類体系の後半は両群を区別しなかった。定量的感覚検査 69%対69%、過敏の既往 約83%対83%、併存症は両群とも100%。その結果、感度は60%へ低下した
  • どちらの研究も治療方針を示していない

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は医療機関にご相談ください。

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参考文献

  • Vervullens S, Meert L, Meeus M, et al. Application of the IASP Grading System to Identify Underlying Pain Mechanisms in Patients With Knee Osteoarthritis: A Prospective Cohort Study. Clin J Pain. 2024;40(10):563-577. PMID: 39016267
  • Schmidt H, Drusko A, Renz MP, et al. Application of the grading system for “nociplastic pain” in chronic primary and chronic secondary pain conditions: a field study. Pain. 2025;166(1):196-211. PMID: 39190340
  • Alcántara Montero A. Nociplastic pain, central sensitization, and mixed pain: a critical reflection from clinical practice and evidence. Front Med (Lausanne). 2026;13:1815975. PMID: 41994424

Goyasu | 理学療法士

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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