痛みが長引いている患者さんを前にして、「これは中枢性感作かもしれない」と考えたことはないでしょうか。

この記事で扱うのは、その結びつけ方がデータで支持されるのかどうかです。結論から書くと、アキレス腱症182例を対象にした報告では、症状の持続期間と中枢性感作の指標に相関はありませんでした。

用語そのものにも整理が要ります。「中枢性感作」「痛覚変調性疼痛」「混合痛」は、近年になって関係が問い直されている言葉です。以下では、各資料が実際に示した範囲と、示していない範囲を分けて書きます。

中枢性感作とは何を指すのか

Woolfは、中枢性感作を次のように記述しています。侵害受容器からの入力が、中枢の侵害受容経路にある神経細胞の興奮性とシナプス伝達効率を、長時間だが可逆的に高める現象である、と。

「可逆的」と書かれている点は押さえておく価値があります。固定した状態ではなく、変化しうるものとして記述されています。

現れ方として挙げられているのは次のものです。

  • 痛覚過敏、とくに動的触覚アロディニア(触れる・なでる刺激で痛みが出る)
  • 二次性の点状・圧刺激による痛覚過敏(傷んだ場所の周囲にも広がる)
  • 後感覚(刺激をやめた後も感覚が続く)
  • 時間的加重の増強(同じ刺激の繰り返しで痛みが強まる)

これらは健常者にも、皮膚・筋・内臓への実験的な侵害刺激によって容易かつ急速に誘発できるとされています。特別な人にだけ起きる現象ではありません。

臨床では、線維筋痛症、変形性関節症、全身性の痛覚過敏を伴う筋骨格系疾患、頭痛、顎関節症、歯痛、神経障害性疼痛、内臓痛覚過敏、術後痛で、痛みの表現型への寄与を示すと解釈される変化が報告されています。

ここで、この資料が書かれた時点での限界に触れておきます。Woolfは2011年の時点で、患者において中枢性感作の存在を確立する診断基準を今後の課題として挙げています。客観的なバイオマーカーの発見も同様に、有益であるが未達のものとして述べられています。

これは2011年時点の記述です。その後の状況について、本記事が参照した資料は述べていません。

用語の整理——痛覚変調性疼痛との関係

Alcántara Monteroは、慢性痛の分類がどう変わってきたかを整理しています。この論文は意見論文(Opinion Article)であり、一次研究ではありません。以下は「この論文がそう述べている」という位置づけで読んでください。

長年、臨床は侵害受容性と神経障害性という二分法に依拠してきました。しかしこれでは、症状の重さと構造的所見が食い違う患者を説明できません。慢性痛は成人のほぼ5人に1人に及ぶとされ、この食い違いは日常的に遭遇するものです。

そこで2017年に「痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)」という記述子が導入されました。組織損傷や体性感覚系の損傷の明確な証拠を欠いたまま、侵害受容の変化から生じる痛みを定義したものです。2021年には臨床基準も示されました。痛みの持続期間、分布、機序の妥当性、誘発される過敏性、併存症に基づく構造化された方法です。

その基準には課題がある

同じ論文は、この基準の限界を明確に挙げています。

  • 誘発される過敏性は、痛覚変調性疼痛に固有のものではない
  • 領域性・多発性の分布は、炎症性や神経障害性の病態でも現れうる
  • 併存症は特異性を欠く

そのうえで、過剰診断の危険と、痛覚変調性疼痛が概念上の「何でも入る箱(catch-all)」へ流れ込む危険が、複数の著者から警告されていると述べています。

したがって痛覚変調性の特徴は、独立した診断単位としてではなく、中枢性感作が横断的な役割を果たす機序の連続体の一部として解釈する必要がある、というのがこの論文の主張です。この意見論文による提案です。

中枢性感作そのものは、中枢神経系における侵害受容処理の増幅として理解され、筋骨格系・リウマチ性・内臓の広範な病態にわたって現れるとされます。実験・臨床研究で一貫して現れる所見として、全身性の痛覚過敏、アロディニア、時間的加重の増強、条件づけ疼痛調節の障害が挙げられています。

また、混合痛が例外ではなく主要な臨床像であるという主張も含まれています。変形性膝関節症については、侵害受容性と痛覚変調性の混合を呈することが多く、中枢性感作が予後と治療反応を変えるとこの論文は述べています(根拠として引用されている一次研究は、本記事では確認していません)。

では「長引いている」ことは、中枢性感作の根拠になるか

ここが本題です。Potterらは、この問いを直接調べています。

背景にある懸念はこうです。アキレス腱症では症状の長期化が多く、それが痛みの処理を変えて中枢性感作の発生につながるのではないか。実際、標準治療である漸増的な負荷運動に約3分の1が反応しません。もし痛みの処理が変わっているなら、それが説明になるかもしれない、という筋書きです。

調べた方法

  • 対象:中央部アキレス腱症 182例(女性56.6%、平均47.3±12.7歳、両側例40.1%)
  • 横断研究。論文自身がエビデンスレベル4と記載しています
  • 中枢性感作の評価:CSI part A(25項目・各0〜4点・合計0〜100点、カットオフ40以上
  • 症状の重症度:VISA-A/痛みの強さ:PROMIS-29

CSIについて重要な前提があります。これはスクリーニング質問票であり、中枢性感作の診断には使えません。40点以上は「存在する可能性が高い」ことを示し、さらなる評価を促すものです。

結果

  • 182例中9例(4.9%)のみがカットオフを超えた。この9例は全員女性だった
  • 症状の持続期間とCSIスコアに相関はなかった(r=0.037、95%CI[-0.109, 0.181]、p=0.622)
  • VISA-A(重症度)とCSIには弱い負の相関(r=-0.293、[-0.420, -0.154]、p<0.001)。重症度が悪いほどCSIが高い
  • 痛みの強さとCSIには弱い正の相関(r=0.195、[0.051, 0.331]、p=0.008)

著者らの結論は、症状が長期化しても、中枢性感作に伴う症状の発生が増える可能性は低いというものです。そして中央部アキレス腱症の痛みは、中枢性の機序より末梢性の機序との関連が強い可能性があるとしています。

この知見は、定量的感覚検査を用いたPlinsingaらの「アキレス腱症は主に末梢性の疼痛状態である」という結論と一致すると述べられています。

読み方の注意

相関は「無かった」ものと「弱くあった」ものが混在しています。整理すると次のとおりです。

  • 期間とは相関しなかった(r=0.037)
  • 重症度・痛みの強さとは弱く相関した(r=-0.293/r=0.195)

つまり、この集団で支持されなかったのは「長引いている=中枢性感作」という結びつけであり、中枢性感作という現象そのものが否定されたわけではありません。横断研究であり、時間経過を追ったものではありません。他の疾患や、CSI以外の評価方法についても、この研究からは何も言えません。

また対象は中央部の腱症に限られています。付着部症は除外されています。付着部症については、この研究からは何も言えません。

3つの資料から確認できる範囲

  • 中枢性感作は、中枢の侵害受容処理の増幅として記述される現象であり、可逆的とされている。Woolfは2011年の時点で、存在を確定する診断基準とバイオマーカーを今後の課題として挙げている
  • 痛覚変調性疼痛の臨床基準には特異性の課題があり、過剰診断と「何でも入る箱」化の危険が警告されている(意見論文における指摘)
  • 中央部アキレス腱症182例では、CSIが基準を超えたのは4.9%にとどまり、症状の持続期間とは相関しなかった

本記事は、具体的な治療方法を扱いません。ここで挙げた3つの資料には、運動療法の具体的な進め方についての記載がありません。

ただし正確に書いておきます。Alcántara Monteroの意見論文は「中枢性感作を主要な治療標的として位置づけ直す」ことを提案しています。これは治療の方向性についての提案であり、具体的な手技や運動の処方ではありません。同論文はまた、混合痛の管理には構造化された機序に基づく多面的な戦略が必要であるとする国際的な推奨に言及しています。

ただし、Alcántara Monteroが指摘するもうひとつの点は、臨床の姿勢に関わります。機序の枠組みを持たない臨床家は、構造的な説明に立ち返りやすく、画像検査・紹介・末梢に焦点を当てた治療を増やす傾向があるという指摘です。

患者さんへどう伝えるか

「長引いているから、脳の問題になっている」という説明は、資料の範囲を超えます。研究で示されている範囲を、そのまま伝える形が考えられます。

「痛みが長く続いていること自体が、体の中で痛みの感じ方が変わってしまった証拠になるわけではありません。アキレス腱の痛みを持つ182人を調べた研究では、痛みが続いた期間と、そうした変化を示す質問票の点数との間に関係はありませんでした。この質問票自体も、可能性を拾うためのもので、診断できるものではありません。」

まとめ

  • 中枢性感作は、中枢神経系での侵害受容処理の増幅として記述される。動的触覚アロディニア、二次性痛覚過敏、後感覚、時間的加重の増強として現れるとされる
  • Woolfは2011年時点で、存在を確定する診断基準とバイオマーカーを今後の課題として挙げている(その後の状況は本記事の資料の範囲外)
  • 痛覚変調性疼痛(2017年導入・2021年臨床基準)について、特異性の課題過剰診断の危険が意見論文で指摘されている
  • 中央部アキレス腱症182例で、CSIが基準を超えたのは4.9%症状の持続期間とCSIに相関はなかった(r=0.037、p=0.622)
  • 重症度・痛みの強さとは弱く相関した。この集団で支持されなかったのは「長引いている=中枢性感作」という結びつけである
  • この研究の対象は中央部の腱症のみで、付着部症は除外されている
  • 3つの資料に運動療法の具体的な進め方の記載はない。ただし意見論文は中枢性感作を主要な治療標的として位置づけ直すことを提案している(方向性の提案であり、手技の処方ではない)

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は医療機関にご相談ください。

関連記事

参考文献

  • Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011;152(3 Suppl):S2-S15. PMID: 20961685
  • Alcántara Montero A. Nociplastic pain, central sensitization, and mixed pain: a critical reflection from clinical practice and evidence. Front Med (Lausanne). 2026;13:1815975. PMID: 41994424
  • Potter MN, Smitheman HP, Butera K, Pohlig RT, Silbernagel KG. Symptom Duration is not Related to Central Sensitization Inventory in Midportion Achilles Tendinopathy. Int J Sports Phys Ther. 2025;20(5):696-705. PMID: 40322520

Goyasu | 理学療法士

この記事は、理学療法士が運営するサイトで、AIを活用して作成しています。公開前に、出典との対応と表現について独立した自動監査を行っています。

ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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