はじめに

関節を動かしながら筋を伸ばす「ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)」というストレッチの方法があります。では、この方法で、直後の関節の動く範囲や柔軟性は、実際に広がるのでしょうか。また、運動のパフォーマンスにはどう関わるのでしょうか。

この記事では、①動的ストレッチとバリスティックストレッチがどう定義されているか、②健常者で直後の柔軟性が変わるかを調べたメタ解析の結果、③運動のパフォーマンスへの影響を調べた2件のまとめ解析で何が言えるかという3つの点を、次の3件の研究報告の範囲で整理します。

  • 動的・バリスティックストレッチの直後の柔軟性を調べたメタ解析(Matsuoら、2025年)1)
  • ストレッチの後に力が下がるかを調べたメタ解析のうち、動的ストレッチの部分(Warnekeら、2024年)2)
  • 競技前の準備運動の方法を比べたネットワーク・メタ解析(Chenら、2026年)3)

先に範囲をはっきりさせます。この記事は、動的ストレッチのやり方を説明したり、行うことや行わないことを勧めたりするものではありません。3件のうち、1)と2)は原著の全文(PubMed Central掲載)を取得して、数値と条件を確認しました。3)は全文を取得できず、抄録に書かれている範囲でのみ記述しています。

結論から書きます。健常者を対象とした17論文のメタ解析では、動的ストレッチとバリスティックストレッチを行った直後に、柔軟性が「小さい」程度に増えていました1)。一方で、運動のパフォーマンスについては、動的ストレッチだけを取り出した別のメタ解析で、最大筋力などを含めた解析では有意な変化が示されず、成人のジャンプに限った解析でのみ小さな上昇がみられました2)。柔軟性への効果が、どのくらいの量や条件で、どのくらいの時間続くのかは、今回確認した資料からは分かりません。

動的ストレッチとバリスティックストレッチの定義

動的ストレッチとは

2025年のメタ解析は、動的ストレッチ(dynamic stretching:DS)を、動かす関節の範囲いっぱいにわたって、主に動かす側の筋(主動作筋)を収縮させながら行う、コントロールされた動きと定義しています1)。伸びる側の筋(拮抗筋)は、端の位置で保持されることなく伸ばされます1)。つまり、伸ばした位置で止めて保持する方法とは異なります。

バリスティックストレッチとは

同じ論文は、バリスティックストレッチ(ballistic stretching:BS)を、高い速度で、コントロールされていない、反動をつけた動きと定義しています1)。動かせる範囲の端で、弾むような動きをする点が特徴とされています1)。

この論文は、バリスティックストレッチが動的ストレッチの一種として扱われることも多いと述べたうえで、2つを分けて解析しています1)。この記事でも、2つの結果を分けて書きます。なお、これらの定義は、この論文が解析に用いた区別です。研究ごとに実際の動かし方が同じとは限りません。

直後の柔軟性は変わるか:17論文のメタ解析(2025年)

どのような研究を集めたか

2025年のメタ解析(Matsuoら)は、健常者が1回の動的ストレッチまたはバリスティックストレッチを行った直後の柔軟性を、ほかの運動を加えていない対照と比べた研究を集めた系統的レビューとメタ解析です1)。PubMed、Web of Science、Scopusを2024年9月9日まで検索し、無作為化比較試験17論文から35の効果量を解析しました1)。この解析は、データベースへの事前登録はされていません1)。

選ばれた条件は次のとおりです1)。

  • 無作為化比較試験であること。ストレッチの前後に、関節可動域(ROM)などの柔軟性を測っていること1)
  • 参加者が健常者であること1)
  • ストレッチを継続して行う長期の研究、運動などを組み合わせた介入、対照群のない研究、対照が別の治療(たとえば静的ストレッチ)である研究は除外1)

したがって、この解析が見ているのは「動的・バリスティックストレッチを行った群と、行わなかった群の差」です。静的ストレッチとの優劣は、この解析の範囲外です1)。柔軟性を複数回測っていた研究では、ストレッチ直後に最も近い時点の値が使われました1)。そのため、効果がどのくらい続くかは、この解析からは分かりません。

全体の結果:小さな増加がみられた

動的ストレッチとバリスティックストレッチをまとめた全体の効果量は、0.372(95%信頼区間 0.187〜0.557、p値は0.001未満)でした1)。研究間のばらつきを示すI²は27%でした1)。この論文は、効果量(標準化平均差:研究ごとに異なる測り方をそろえて表した差の大きさ)が0.2〜0.6を「小さい」と分類しており、この結果は小さな増加にあたります1)。

動的ストレッチとバリスティックストレッチを分けた解析では、次の結果でした1)。

  • 動的ストレッチ:効果量 0.419(95%信頼区間 0.147〜0.690、p=0.002)1)
  • バリスティックストレッチ:効果量 0.461(95%信頼区間 0.197〜0.726、p値は0.001未満)1)
  • 2つの方法の差は有意ではなかった(p=0.83)1)

解析に入った件数は、動的ストレッチが12、バリスティックストレッチが7でした(論文の表3の表記です)1)。

年齢・性別・筋・測り方で分けると

著者らは、年齢、性別、ストレッチした筋、柔軟性の測り方で分けた解析も行いました1)。どの分け方でも、グループ間の差は有意ではありませんでした(年齢 p=0.24、性別 p=0.76、筋 p=0.20、測り方 p=0.34)1)。ただし、グループごとの結果を見ると、注意が要る点があります1)。

  • 年齢:若年(16件)は効果量 0.415(95%信頼区間 0.207〜0.623)でした。中年・高齢(3件)は 0.131(95%信頼区間 −0.295〜0.557、p=0.547)で、単独では有意ではありませんでした1)。著者らは、中年以上を対象とした論文が3件しかなかったことを限界として挙げています1)
  • 筋:ハムストリングス(6件)は 0.569(95%信頼区間 0.156〜0.981)、足関節を底屈させる筋(4件)は 0.510(95%信頼区間 −0.020〜1.040、p=0.059)、複数の筋(7件)は 0.190(95%信頼区間 −0.031〜0.412、p=0.092)でした1)
  • 測り方:単一関節の可動域(9件)は 0.326、下肢伸展挙上テスト(4件)は 0.698、長座体前屈テスト(7件)は 0.221 でした1)

グループ間の差が有意でなかったことは、グループ間で効果が同じだと確かめたことを意味しません。件数の少ないグループでは、信頼区間が広くなっています1)。性別の解析は、男性のみの研究(9件)と男女混合の研究(7件)の比較で、女性のみの群は作られていません1)。

結果の確からしさ:報告の偏りの示唆と感度解析

この論文には、結果の確からしさに関わる記載が複数あります1)。

  • 研究の質の評価(PEDro尺度)は、17論文の平均が 6.53±0.72点(範囲 6〜8点)で、著者らは低いバイアスのリスクと評価しています1)
  • 著者らは、ファンネルプロットの目視とエッガー検定から、報告の偏り(reporting bias)を示す有意な結果(p=0.013)が得られたと報告しています。考察ではこれを「出版バイアス(publication bias)」と表現し、効果量の大きい2論文が出版バイアスのリスクにつながりうると述べています。ただし、この検定が示すのは研究の分布の非対称性であり、その原因が出版バイアスかどうかまでは、この検定だけでは確定できません1)
  • 効果量が特に大きかった2論文(1.52と1.35)を除いて解析し直すと、全体の効果量は 0.251(95%信頼区間 0.089〜0.413、p=0.002、I²=0%)と小さくなり、エッガー検定は有意ではなくなりました(p=0.152)1)
  • データが得られず解析から外れた6論文のうち、4論文はストレッチ後の柔軟性が有意に増え、2論文は対照と差がない、または低下する傾向でした。著者らは、これらの欠けたデータが主要な結果に大きな影響を与えていないかもしれないと述べています1)

以上から、直後の柔軟性が増えるという方向の結果は、除外後の解析でも保たれました。ただし、除外後の効果量はさらに小さくなっています1)。

運動のパフォーマンスへの影響:2件のまとめ解析で分かること

動的ストレッチだけを取り出した解析(2024年)

2024年のメタ解析(WarnekeとLohmann)は、もともと、ストレッチの後に最大筋力が下がるか(stretch-induced force deficit)を調べたものです2)。対照条件のある、事前と事後を比べた試験83研究(参加者2012名)を解析しました2)。この記事で扱う動的ストレッチの結果は、ストレッチを行わない対照と比べた解析のものです2)。この中に、動的ストレッチだけの小グループ解析があります2)。

  • 最大筋力と、速度に関わるパフォーマンスを合わせた解析で、動的ストレッチ(19研究、46の効果量)の効果量は 0.20(95%信頼区間 −0.05〜0.45、p=0.11)で、有意ではなかった2)
  • 最大筋力だけの解析(9研究、26の効果量)は 0.09(95%信頼区間 −0.25〜0.44、p=0.55)で、有意ではなかった2)
  • 成人に限ったジャンプのパフォーマンスの解析(5研究、6の効果量)では、小さな上昇がみられた(効果量 0.28、p=0.02)2)

著者らは、動的ストレッチの小グループ解析のうち、有意な変化を示したのはこの成人のジャンプの解析だけだと書いています(ほかのサブグループ・感度分析は p=0.18〜0.95)2)。つまり、動的ストレッチの後に運動のパフォーマンスが上がったと言える結果は、この解析では限られた条件の解析だけでした。

この論文の主題である静的ストレッチについては、最大筋力が小さく低下し(効果量 −0.21、p=0.003)、1回あたり60秒以上のストレッチでは大きな低下(効果量 −0.84、p=0.004)がみられたと報告しています2)。一方で、ストレッチ全般では、ジャンプ・スプリント・投てきなどの競技パフォーマンスは下がっていませんでした2)。著者らは、ジャンプやスプリントの前の準備運動から静的ストレッチを外す従来の推奨は、この結果では支持されないと述べています2)。同時に、運動の前にストレッチを行うことを勧める根拠も、現在の根拠では示せないとしています2)。この記事は、運動前のストレッチを行うか行わないかを勧めるものではありません。

競技前の準備方法を比べたネットワーク・メタ解析(2026年)

2026年の系統的レビューとネットワーク・メタ解析(ChenとHu)は、高いレベルの競技者を対象に、競技前に行うさまざまな準備方法が、その場の競技パフォーマンスをどう変えるかを比べたものです3)。無作為化比較試験とクロスオーバー試験から、89の報告(90のデータセット、競技者1,609名)を解析しています3)。このうち動的ストレッチに関わる結果は、抄録に次のように書かれています3)。

  • 速度・方向転換のパフォーマンスで、通常のウォームアップと比べて最も大きな効果を示したのは、フォームローリングだった(標準化平均差 0.66、95%信頼区間 0.10〜1.21)3)
  • 順位づけでは、フォームローリングに続いて、動的ストレッチと、PAPE(post-activation performance enhancement:強い収縮の後に力の発揮が一時的に高まること)が挙げられた3)

抄録には、動的ストレッチそのものの効果量は書かれていません。著者らは、準備方法の効果は結果の種類ごとに異なり、全体に共通する効果があるわけではないと結論しています3)。また、比較の確実性は高いものから非常に低いものまであり、順位づけは根拠の確実性や量と合わせて解釈すべきだと述べています3)。

分かっていないこと

実施の条件と効果の持続

2025年のメタ解析の著者らは、動的ストレッチの条件(振幅、強度、回数、時間、速度)が論文ごとに大きく異なり、一部は報告されていなかったため、条件で分けた解析をしていません1)。考察では、個別の研究の例として、1セットでは足関節の背屈可動域が増えず、4セットと7セットで増えたという報告が紹介されています1)。著者らは、動的ストレッチの最適な条件は今後の研究が必要だとしています1)。

柔軟性が変わる仕組み

著者らは考察で、ストレッチ直後に可動域が増える理由として、痛みの閾値やストレッチへの耐性の変化、筋の受動的なかたさ(スティフネス)の低下が挙げられてきたと述べています1)。そのうえで、動的ストレッチ後のスティフネスの変化については、低下・変化なし・上昇の相反する報告があり、一貫した結果は得られていないとしています1)。この点は、このメタ解析は、スティフネスを解析の対象にしていません1)。

運動パフォーマンスの専用のメタ解析

2025年のメタ解析の著者らは、自分たちの解析が柔軟性だけを扱い、動的ストレッチとバリスティックストレッチが筋のパフォーマンスに与える直後の効果は解析していないことを、限界として挙げています1)。運動のパフォーマンスについては、この記事で紹介した2)と3)が部分的に扱っていますが、2)は動的ストレッチの小グループ解析、3)は準備方法の横断比較であり、動的ストレッチ単独を詳しく解析した結果は、3)の抄録には示されていません。

まとめ

  • 動的ストレッチは、動かす関節の範囲にわたって主動作筋を収縮させながら行う動き、バリスティックストレッチは、高速で反動をつけた動きと定義されている1)
  • 健常者のメタ解析(17論文)で、動的・バリスティックストレッチの直後に、柔軟性が小さく増えていた(効果量 0.372)。2つの方法の差は有意ではなかった1)
  • 報告の偏りが示唆され、効果の大きい2論文を除くと効果量は 0.251 に小さくなった。中年以上を対象とした論文は3件だった1)
  • 動的ストレッチだけを取り出した解析では、最大筋力と速度のパフォーマンスの変化は有意ではなく、成人のジャンプで小さな上昇がみられた2)
  • 競技前の準備方法のネットワーク・メタ解析は、効果が結果の種類ごとに異なると結論している。動的ストレッチそのものの効果量は抄録に示されていない3)

この記事で扱ったのは、上記3件の研究報告の範囲です。1)は健常者の直後の柔軟性を、2)は静的ストレッチの後の力の低下を主題として、そのなかの動的ストレッチの部分を、3)は高いレベルの競技者を対象とした準備方法の比較を扱っています。そのため、けがやむくみのある方、高齢の方、運動習慣のない方などに当てはまるかどうかは、今回確認した資料からは分かりません。また、3)は抄録のみの確認のため、抄録には示されない解析や条件がある可能性があります。

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。

ストレッチの効果を筋紡錘と腱紡錘の働きから調べた研究については「PNFストレッチの効果は自原抑制で説明できるか 筋紡錘と腱紡錘の研究」で、ハムストリングスの筋の長さと力の関係を調べた研究については「ハムストリングスの至適長は遠心性運動で変わるか 張力-長さ関係の研究」で、それぞれ別に整理しています。

関連note(無料・一般の方と専門職の両方向け):PNFストレッチで可動域が広がるのは「自原抑制」のおかげなのか|筋電図を調べた研究で言えること、言えないこと

出典

  1. Matsuo S, Takeuchi K, Nakamura M, Fukaya T, Oba K, Nakao G, Mizuno T. Acute Effects of Dynamic and Ballistic Stretching on Flexibility: A Systematic Review and Meta-analysis. J Sports Sci Med. 2025;24(2):463-474. PMID: 40469856
  2. Warneke K, Lohmann LH. Revisiting the stretch-induced force deficit: A systematic review with multilevel meta-analysis of acute effects. J Sport Health Sci. 2024;13(6):805-819. PMID: 38735533
  3. Chen X, Hu H. Effects of pre-competition conditioning strategies on acute sport performance in high-level athletes: a systematic review and network meta-analysis. Front Physiol. 2026;17:1930250. PMID: 42889499

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Goyasu | 理学療法士

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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