はじめに

ストレッチの前に、伸ばしたい筋を数秒間ぐっと収縮させてから力を抜き、そのあと伸ばす。こうした方法は、PNF(固有受容性神経筋促通法)ストレッチと呼ばれる方法の一種で7)8)、競技やリハビリテーションの場で広く用いられていると、研究の著者らは述べています8)。収縮のあとにストレッチを行う手順は、ストレッチの前段階としてよく用いられるとも書かれています6)。

その仕組みの説明として、これまで「相反抑制」と「自原抑制(autogenic inhibition)」という神経生理学的な機序が提案されてきました8)。ここで取り上げる研究では、自原抑制は、腱から来る感覚の信号によって、その筋自身の活動が反射的に抑えられる現象として調べられており、ヒトでは腱紡錘(ゴルジ腱器官、Golgi tendon organ)の求心線維に由来する可能性が報告されています4)5)。一方、筋の中にある筋紡錘(muscle spindle)は、筋が引き伸ばされると発火する感覚受容器です1)。

では、PNFストレッチで可動域が広がる理由は、本当に腱紡錘による自原抑制で説明できるのか。この記事では、筋紡錘と腱紡錘がヒトでどのように調べられてきたかと、PNFストレッチ中の筋電図を調べた研究が何を示したかを、以下の8件の研究報告の範囲で整理します。

先に範囲をはっきりさせます。この記事は、ストレッチの実施方法や、どの方法を選ぶべきかを示すものではありません。扱うのは、筋紡錘の記録研究1件、筋紡錘が機能しない患者の研究2件、腱の電気刺激による抑制反射の研究2件、PNFストレッチ中の筋電図を調べた研究3件が報告した内容です。

結論から書きます。ヒトでも、腱の電気刺激によって筋の活動が反射的に抑えられる現象(自原抑制)は記録されています4)5)。しかし、PNFストレッチ中のハムストリングスの筋電図を調べた研究では、収縮を加えるストレッチで筋活動が一貫して低くなるという結果は得られず6)7)8)、自原抑制を直接分析した研究でも、それは認められませんでした8)。ある研究の著者らは、可動域が広がった理由として、伸ばされる感覚の受け止め方(伸張の知覚)が変わった可能性を挙げています7)。ただし、PNFストレッチの筋電図研究3件は、いずれも対象が10〜21名の小規模な研究で、8件全体のうち6件は原著全文を確認できていません。

筋紡錘と腱紡錘はヒトで何を伝えているか

筋紡錘は「伸ばされる動き」に反応する

1982年の研究では、健常者の神経に細い電極を刺入して1本の感覚神経線維の活動を記録する方法(微小神経電図法、microneurography)1)2)を用いて、前脛骨筋と長趾伸筋の筋紡錘の一次終末15個と二次終末5個の活動を記録しました1)。

足関節を動かしたとき、一次終末の発火は主に動きの速さに関係し、二次終末の一部は動きの速さと関節の角度の両方に関係しているようにみえました1)。受容器のある筋を引き伸ばす方向の運動では、自分で動かした場合も他動的に動かされた場合も、筋紡錘の反応は質・量ともに同様でした1)。反対に、筋が他動的に短くなる運動では、ほとんどの終末が発火を止めました1)。また、等尺性収縮中には、ほとんどの終末が活動していました1)。

同じ研究では、腱に振動を加える実験も行われています。上腕二頭筋や上腕三頭筋の遠位の腱に振動を加えると、被験者は、肘が実際には動いていないのに動いているように感じ、その方向は振動を加えた筋を引き伸ばす向きの運動と一致しました1)。微小神経電図法の記録では、一次終末は低い振幅の腱振動(0.2〜0.5 mm)ですべて活動し、二次終末はこの振動への感受性がずっと低いものでした1)。著者らは、これらの結果が、一次終末が運動感覚(kinesthesia)に寄与する可能性を補強すると述べています1)。

筋紡錘が働かない人では何が起きるか

筋紡錘の役割を別の角度から示したのが、遺伝性感覚自律神経ニューロパチーIII型(HSAN III、Riley-Day症候群とも呼ばれる)の患者を対象とした研究です。この病気では、深部腱反射の消失と、進行する失調性の歩行が知られていると著者らは述べています2)。

2011年の研究では、HSAN IIIの患者10名、健常者15名、HSAN IVの患者2名を対象に、腓骨頭の部分で総腓骨神経に微小電極を刺入し、筋紡錘の活動を記録しようと試みました2)。その結果、HSAN IIIの患者では、自発的に活動する筋紡錘が1つも記録されず、筋を他動的に伸ばしたときの反応も観察されませんでした2)。原著全文では、腱や筋腹を叩いても反応が無かったこと、各患者で神経の中を広範囲に探索したことも記載されています2)。一方、HSAN IVの患者の筋紡錘は正常にみえ、自発発火の平均頻度は健常者と同程度でした2)。また、HSAN IIIの患者でも、皮膚の太い機械受容器は正常に存在していました2)。著者らは、機能する筋紡錘が完全に欠けていることが腱反射の消失を説明し、失調性歩行は感覚性のものであると示唆しています2)。

2013年の研究は、この患者群で膝の位置感覚を測定しました3)。HSAN IIIの患者18名、年齢を合わせた対照者14名、小脳失調の患者5名に、他動的に動かされた一方の膝の角度に、もう一方の膝の角度を合わせてもらう課題(受動的な関節角度合わせ)を行っています3)。角度のずれ(絶対誤差)は、対照者で平均2.7°、小脳失調の患者で3.0°だったのに対し、HSAN IIIの患者では8.7°と大きく、その幅も2.8〜18.1°と広いものでした3)。原著全文によれば、HSAN IIIの患者は膝が回される方向は分かったものの、位置の判断が不良でした3)。この誤差は、HSAN IIIの患者では失調の程度と正の相関を示しましたが、小脳失調の患者では相関がありませんでした3)。

ただし、この研究は患者と対照者を比べた横断的な研究です3)。著者ら自身も、ほかの神経系の機能障害が関わっている可能性は否定できないとしており、画像検査で小脳の一部に白質の減少を示した報告にも触れています3)。

腱を刺激すると、その筋の活動が抑えられる

腱紡錘のほうはどうでしょうか。1996年の研究では、覚醒したヒトで筋の腱の上を電気で刺激すると、持続的な随意収縮中の筋電図に、筋の活動が完全に途切れる時間(電気的な静止期)が現れました4)。調べられた5つの筋(総指伸筋・短母指伸筋・長母指伸筋・小指外転筋・前脛骨筋)で、抑制は刺激から56〜97ミリ秒ほどで始まり、43〜47ミリ秒ほど続きました4)。

この抑制は、10 mA未満の弱い刺激で、筋が直接刺激された徴候(M波や筋の収縮)を伴わずに生じたため、筋紡錘(Ia線維)の刺激によるものではないと著者らは判断しています4)。また、刺激部位を腱のすぐ隣の皮膚へずらすと反応が急に小さくなること、皮下に刺した針電極で腱を刺激しても生じること、腱の近くの皮膚の神経を刺激しても再現されないことから、皮膚ではなく腱から生じた反応と考えられています4)。著者らは、ヒトに強力な自原抑制の反射がある証拠であり、腱紡錘(ゴルジ腱器官)の求心線維に由来する可能性と矛盾しないと結論しています4)。なお、抑制の後には、筋の活動が高まる成分も記録されています4)。

2009年の研究は、下肢でこの現象を調べました5)。アキレス腱を電気で刺激すると、すべての被験者で、腓腹筋の随意的な筋電図活動に強い抑制が生じました5)。抑制は刺激部位が筋と腱の移行部に近いほど大きく、足関節の角度を20°ずつ変えて調べると、筋が最も伸ばされた状態で最大になりました5)。脛骨神経を部分的にブロックすると、この抑制は完全に消えました5)。著者らは、これを腱の求心線維から生じ、他動的な筋の伸張で強まる自原抑制であり、おそらくI群の腱求心線維に由来するとしています5)。

ここで押さえておきたいのは、これら2件は、随意収縮中に腱を電気で刺激した実験だという点です4)5)。ストレッチ中に同じ抑制が働いているかどうかは、これらの研究だけでは分かりません。また、どちらも抄録に被験者数の記載はありません。

PNFストレッチの筋電図研究は何を示したか

主動筋の収縮を加える方法で、筋電図が高い人が多かった

1980年の研究の著者らは、短い静的な収縮の後には伸張反射が増強されうることを背景に、収縮をストレッチの前に用いる方法の根拠を筋電図で検討し直しました6)。女子体操選手21名が、ハムストリングスを伸ばす3つの方法、すなわち静的ストレッチ、contract-relax(伸ばす筋を収縮させてから伸ばす方法7))、contract-relaxに主動筋(股関節屈筋)の収縮を加える方法(以下CRAC)を行い、股関節の角度とハムストリングスの筋電図を個人ごとに比較しました6)。

その結果、12名では、CRACのときのハムストリングスの筋電図が、ほかの方法より有意に大きいものでした(P<0.05)6)。静的ストレッチで筋の活動が高かったのは1名だけで、8名では方法による有意な差がありませんでした6)。著者らは、方法の相対的な有効性は個人によって異なると述べています6)。それでも、股関節屈曲の角度の増加はCRACが最も大きいものでした6)。さらに、痛みの少なさと「よく伸びた」という感覚の順位は、筋電図の低さとは関連していましたが、可動域とは関連していませんでした6)。

可動域は広がったが、筋電図は変わらなかった

1996年の研究は、男性10名を対象に、静的ストレッチとcontract-relaxストレッチを、無作為化クロスオーバーの2つのプロトコルで比較しました7)。膝を他動的に伸ばしていく間に、伸ばされたハムストリングスの機械的な反応として膝の屈曲トルク(受動トルク)を測り、ハムストリングスの表面筋電図とあわせて連続して記録しています7)。contract-relaxの条件では、最終位置の10°手前で、ハムストリングスの6秒間の等尺性収縮が加えられました7)。

角度を一定に保つプロトコルでは、受動トルクも筋電図も、2つの方法の間に差はありませんでした7)。最終位置で保持している間、受動トルクはどちらの方法でも18〜21%低下しましたが(p<.001)、筋電図は変わりませんでした7)。痛みが出始めるところまで伸ばすプロトコルでは、到達した最大の関節角度とそのときの受動トルクは、contract-relaxのほうが静的ストレッチより有意に大きく(p<.01)、筋電図には差がありませんでした7)。

著者らは、角度を一定にした条件では、筋の粘弾性の反応と筋電図は事前の等尺性収縮の影響を受けなかったとし、PNFストレッチは伸張の知覚(stretch perception)を変えたと結論しています7)。つまりこの研究では、contract-relaxでより大きな角度まで伸ばせたとき、そのときの受動トルクも大きく、筋電図には差がありませんでした7)。筋電図が下がったことで大きな角度に達した、という結果にはなっていません。

相反抑制も自原抑制も確認されなかった

2009年の研究は、まさにこの問いを直接扱いました8)。17〜44歳の18名がcontract-relaxとCRACを行い、内側ハムストリングスの筋電図を、表面電極と筋内に刺入するワイヤ電極で記録して、相反抑制・自原抑制・継時誘導(successive induction)の有無を分析しています8)。

結果、相反抑制は認められませんでした。拮抗筋を収縮させている間のハムストリングスの筋電図は、抑えられるどころかむしろ高く、著者らは共収縮を反映している可能性を挙げています8)。継時誘導の存在は確認されました8)。そして自原抑制も認められず、収縮の後に予想された筋電図の低下は見られず、むしろベースラインより高い値でした8)。

著者らは、PNFストレッチの機序についての従来の神経生理学的な説明は不十分と思われると結論し、神経学的な障害のない人では、CRACやcontract-relaxの有効性について別の説明を検討すべきだとしています8)。なお、抄録によれば、自原抑制の分析は表面電極のみで行われており、著者らの結論は神経学的な障害のない集団についてのものです8)。

まとめ

  • 微小神経電図法の記録では、筋紡錘の終末は、受容器のある筋が引き伸ばされる運動で活動し、他動的に短くなる運動ではほとんどが発火を止めた。一次終末は主に動きの速さに関係していた1)
  • HSAN IIIの患者10名では、総腓骨神経から機能する筋紡錘が記録されなかった2)。同じ病気の18名では、膝の位置合わせの誤差が対照者より大きく、失調の程度と相関した(横断的な比較研究)3)
  • 随意収縮中に腱を電気で刺激すると、その筋の活動が反射的に抑えられた。著者らは腱紡錘の求心線維に由来する可能性を示している。下肢では、筋が伸ばされた状態で抑制が最大だった4)5)
  • PNFストレッチ中のハムストリングスの筋電図を調べた3件では、収縮を加えるストレッチで筋電図が一貫して低くなるという結果は得られなかった6)7)8)。自原抑制を直接分析した研究では、収縮後の筋電図はベースラインより高かった8)
  • contract-relaxで到達角度が大きくなった研究では、筋電図に差はなく、著者らは伸張の知覚が変わったと結論している7)

この記事で扱ったのは、上記8件の研究報告の範囲です。PNFストレッチ中の筋電図を調べた3件は、対象が10〜21名と小規模で、測定した筋もハムストリングスに限られています。腱の電気刺激の実験と、ストレッチ中の測定とは条件が異なり、両者を直接つないだ研究は今回確認した資料には含まれていません。また、2011年と2013年の研究を除く6件は原著全文を確認できていないため、抄録には示されない解析や条件がある可能性があります。どのストレッチ方法を、どの程度行えばよいかは、今回確認した資料からは分かりません。

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。

この記事で触れた相反抑制を、立位と歩行で計測した研究については「相反抑制は立位と歩行で違うのか」で、ハムストリングスが発揮できる力と筋の長さの関係については「ハムストリングスの至適長は遠心性運動で変わるか」で、それぞれ別に整理しています。

出典

  1. Roll JP, Vedel JP. Kinaesthetic role of muscle afferents in man, studied by tendon vibration and microneurography. Exp Brain Res. 1982;47(2):177-190. PMID: 6214420
  2. Macefield VG, Norcliffe-Kaufmann L, Gutiérrez J, Axelrod FB, Kaufmann H. Can loss of muscle spindle afferents explain the ataxic gait in Riley-Day syndrome? Brain. 2011;134(Pt 11):3198-3208. PMID: 22075519
  3. Macefield VG, Norcliffe-Kaufmann LJ, Axelrod FB, Kaufmann H. Relationship between proprioception at the knee joint and gait ataxia in HSAN III. Mov Disord. 2013;28(6):823-827. PMID: 23681701
  4. Burne JA, Lippold OC. Reflex inhibition following electrical stimulation over muscle tendons in man. Brain. 1996;119(Pt 4):1107-1114. PMID: 8813275
  5. Khan SI, Burne JA. Afferents contributing to autogenic inhibition of gastrocnemius following electrical stimulation of its tendon. Brain Res. 2009;1282:28-37. PMID: 19414002
  6. Moore MA, Hutton RS. Electromyographic investigation of muscle stretching techniques. Med Sci Sports Exerc. 1980;12(5):322-329. PMID: 7453508
  7. Magnusson SP, Simonsen EB, Aagaard P, Dyhre-Poulsen P, McHugh MP, Kjaer M. Mechanical and physical responses to stretching with and without preisometric contraction in human skeletal muscle. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77(4):373-378. PMID: 8607762
  8. Mitchell UH, Myrer JW, Hopkins JT, Hunter I, Feland JB, Hilton SC. Neurophysiological reflex mechanisms’ lack of contribution to the success of PNF stretches. J Sport Rehabil. 2009;18(3):343-357. PMID: 19827499

📚 この記事に関連する書籍

記事のテーマと、そこから広がる隣接領域について、関連する書籍を挙げています。記事の執筆に用いた資料ではありません。

※Amazonアソシエイトプログラムおよび楽天アフィリエイトに参加しています。リンクから購入された場合、当サイトに紹介料が入ります。

Goyasu | 理学療法士

この記事は、理学療法士が運営するサイトで、AIを活用して作成しています。公開前に、出典との対応と表現について独立した自動監査を行っています。

ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
スポンサーリンク(A8.net)お名前.comで独自ドメインを確認する →