アキレス腱付着部症の遠心性トレーニング|部位別に報告された成績の差をどう読むか

アキレス腱の痛みに対して遠心性トレーニングを指導したものの、思うように改善しない——。そうした場面で参考になる報告があります。
この記事で扱うのは、「なぜ効かないのか」ではありません。痛みの部位によって成績に差があったという報告を、どこまで確かなものとして読むかです。原因が特定された話ではないため、以下では各研究が実際に示した範囲と、示していない範囲を分けて書きます。
同じ研究の中で、部位別の成績が89%と32%と報告された
Fahlströmらは、慢性のアキレス腱痛に対する12週間の遠心性トレーニングの成績を、部位ごとに分けて報告しています。
- 中央部(2〜6cmの高さ):78例101腱のうち90腱(89%)で治療は満足のいくもので、受傷前の活動レベルへ復帰した
- 付着部:30例31腱のうち満足のいく結果は10腱(32%)にとどまった
痛みの程度(VAS)についても報告があります。いずれも「満足のいく結果が得られた症例における」変化であり、対象全体の平均ではありません。
- 中央部で満足のいく結果が得られた症例:66.8±19.4 から 10.2±13.7 へ低下
- 付着部で満足のいく結果が得られた10腱:68.3±7.0 から 13.3±13.2 へ低下
ここから言えることと、言えないことを分けます。
言えることは、同一の研究、同一の運動で、部位別の満足度が89%と32%と報告されたことです。付着部では3分の1程度にとどまりました。
言えないことは、その差の原因です。この研究は部位ごとの成績を並べたものであり、部位の違いが差を生んだことを検証したものではありません。また付着部でも10腱では満足のいく結果が得られており、「付着部には効かない」という読み方は正確ではありません。
背屈時のひずみについて分かっていること
Chimentiらの報告は、踵骨インピンジメント(踵骨が腱に突き当たること)が付着部症の病態に関与するという理論に言及しています。以下はその研究が実際に計測した内容です。
Chimentiらは、付着部症のある群とない群 計20例を対象に、立位および部分スクワットという背屈を伴う課題の最中に、超音波で腱のひずみを計測しました(症例対照研究)。報告されている内容は次のとおりです。
- 横方向の圧縮ひずみについて、群と腱の部位(表層/深層)の間に交互作用が認められた(踵下ろし p=0.004、部分スクワット p=0.008)
- 立位では、表層のほうが深層より引張ひずみが大きかった(p=0.002)。部分スクワットでは差はなかった(p=0.603)
- 付着部症の群は、対照群より圧縮ひずみも引張ひずみも小さかった
注意が必要な点が2つあります。
ひとつは、付着部症の群でひずみが「大きかった」のではなく、「小さかった」という結果である点です。著者らはこれを、病変部の力学的性質が変化していることを示すものと述べています。
もうひとつは、この研究が測定したのは「ひずみ(組織の変形量)」であり、腱にかかる力そのものではないという点です。著者らは、圧縮ひずみの分布の仕方が踵骨インピンジメントが付着部症の病態に関与するという理論と整合すると述べるにとどめています。
つまり、「背屈が痛みを起こしている」と因果を断定できる段階ではありません。
背屈へ荷重しない方法——Jonssonらの報告
Jonssonら(2008年)は、背屈へ荷重しない遠心性トレーニングを検討しました。従来型が足関節を背屈方向へ荷重するのに対し、背屈へ荷重しない範囲で行うという点が変更点です。
なお、この報告は前節のChimentiら(2017年)より前に発表されています。前節の計測結果を踏まえて設計されたものではありません。
報告された内容は次のとおりです。
- 対象:慢性の付着部症 27例(男性12・女性15、平均年齢53歳)、34腱。痛みの平均期間26か月
- 方法:15回×3セットを1日2回、週7日、12週間
- 結果(平均4か月後):18例(67%、34腱中23腱)が満足し、元の活動へ復帰。VASは 69.9±18.9 から 21±20.6 へ低下(p<0.001)
- 一方で9例(11腱)は満足していません。この群でもVASは 77.5±8.6 から 58.1±14.8 へ低下しましたが(p<0.01)、活動復帰には至っていません
具体的な実施手順(開始肢位、膝の角度、下ろす速度、可動範囲の決め方など)は抄録に記載がありません。実施にあたっては原著論文を確認する必要があります。
著者ら自身が、これを短期のパイロット研究であり「有望な結果を示した」と表現しています。対照群はありません。したがって、この方法が従来型より優れていることを比較して示した研究ではありません。
3つの報告から確認できる範囲
ここまでの3つの報告から確認できるのは、次の範囲です。
- 遠心性トレーニングの成績は、部位別に差が報告されている(89% と 32%)。ただし差の原因は検証されていない
- 背屈を伴う課題で、腱の表層と深層でひずみの分布が異なることが計測されている。ただし測定されたのはひずみであり、力ではない。因果も確定していない
- 背屈へ荷重しないという選択肢について、27例中18例が満足したという報告がある。ただし対照群がなく、9例は満足していない
これらはいずれも「こうすべきだ」を示した研究ではありません。部位別の成績が報告され、ひずみの分布に違いが計測され、背屈へ荷重しない方法で一定の割合が満足したという報告がある——現時点で確認できるのはここまでです。
患者さんへどう伝えるか
結果と、根拠の強さを同じ説明の中に置く形が考えられます。
「かかとの骨に腱がくっつく部分の痛みについて、ある研究では、腱の真ん中の痛みに比べて運動療法の成績が低かったと報告されています。別の研究では、足首を反らせる方向へ体重をかけない形で行ったところ、27人中18人が満足して元の活動に戻れたとされています。ただし比較対照を置かない予備的な研究で、9人は満足していません。ここまでが研究で報告されている範囲で、効果が保証されているわけではありません。どうするかは、診てもらっている医療者と相談して決めてください。」
「どこまで確かなのか」を同時に伝えることで、合わなかったときにも修正しやすくなります。
まとめ
- Fahlströmらの報告では、同じ遠心性トレーニングで中央部89%(90/101腱)、付着部32%(10/31腱)と部位別の成績差があった。差の原因は検証されていない
- VASの低下はいずれも「満足のいく結果が得られた症例」における値であり、対象全体の平均ではない
- Chimentiらの計測では、背屈を伴う課題で表層と深層のひずみの分布が異なった。ただし付着部症の群は対照群よりひずみが小さく、著者らはインピンジメント理論と整合すると述べるにとどめている
- Jonssonらは背屈へ荷重しない方法で27例中18例(67%)が満足したと報告。対照群のないパイロット研究で、9例は満足していない。具体的な実施手順は抄録に記載がない
- いずれも「こうすべきだ」を示した研究ではない。報告されている範囲を超えて一般化できない
本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は医療機関にご相談ください。
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参考文献
- Fahlström M, Jonsson P, Lorentzon R, Alfredson H. Chronic Achilles tendon pain treated with eccentric calf-muscle training. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2003;11(5):327-33. PMID: 12942235
- Jonsson P, Alfredson H, Sunding K, Fahlström M, Cook J. New regimen for eccentric calf-muscle training in patients with chronic insertional Achilles tendinopathy: results of a pilot study. Br J Sports Med. 2008;42(9):746-9. PMID: 18184750
- Chimenti RL, Bucklin M, Kelly M, Ketz J, Flemister AS, Richards MS, Buckley MR. Insertional achilles tendinopathy associated with altered transverse compressive and axial tensile strain during ankle dorsiflexion. J Orthop Res. 2017;35(4):910-915. PMID: 27306527
Goyasu | 理学療法士
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