凹凸の法則は本当に成り立つか 肩と前腕の研究7件から分かったこと

はじめに
関節の中で骨の表面どうしがどう動くか(関節包内運動)を考えるとき、「凹凸の法則」という考え方があります。この法則は「Kaltenbornの凹凸の法則(convex-concave rule)」とも呼ばれ、関節の治療手技と関節包内運動の分野でなじみのある概念とされています1)。では、実際の関節の動きを測ると、この法則のとおりに骨は動いているのでしょうか。
この記事では、次の7件の研究報告の範囲で、凹凸の法則について研究で分かったことと、分かっていないことを整理します。
- 肩甲上腕関節(いわゆる肩関節)に法則を当てはめることの妥当性を調べた系統的レビュー(Brandtら、2007年)1)
- 投球の準備動作に近い肢位で、肩の骨の動きを3次元で測った研究(Baeyensら、2000年)2)
- 前腕を回す動き(回内・回外)で、肘と手首の近くの関節の動きを生体で測った研究(Baeyensら、2006年)3)
- 屍体の肩関節を他動的に動かし、上腕骨頭の移動を測った研究(Harrymanら、1990年)4)
- 凍結肩で、関節を前方へ動かす手技と後方へ動かす手技を比べた無作為化臨床試験(Johnsonら、2007年)5)
- 凍結肩に対するモビライゼーション手技の無作為化比較試験を集めた系統的レビュー(Notenら、2016年)6)
- 理学療法士が、凹凸の法則などの理論をどの程度重視しているかを調べた研究(Kirbyら、2007年)7)
先に範囲をはっきりさせます。この記事は、関節を動かす手技のやり方を説明したり、特定の手技を勧めたりするものではありません。7件とも全文は確認できず、抄録に書かれている範囲でのみ記述しています。また、凹凸の法則そのものの定式(骨の形と、骨が滑る向きの関係)は、今回の7件の抄録には書かれていないため、この記事では法則の細かな説明はしません。関節包内運動の基本的な考え方は、過去記事「関節包内運動について〜副運動(関節の遊び&構成運動)〜」で扱っています。
結論から書きます。肩と前腕の関節の動きを測った研究では、法則の前提や、徒手療法での法則の当てはめ方とは異なる結果が報告されています2)3)。一方で、肩甲上腕関節についての系統的レビューは、根拠が弱く結果も一貫しないため、確かな結論は出せないとしています1)。つまり、今回の資料から言えるのは「法則がそのまま当てはまらない場面が報告されている」ところまでで、「法則が誤りである」と結論できる段階ではありません。
凹凸の法則は、研究の中でどう扱われてきたか
肩の関節を「球関節」とみなす考え方として
2)の研究(Baeyensら、2000年)は、凹凸の法則を、肩甲上腕関節を球関節(ボールとソケットのような関節)とみなして関節の中の動きを説明するもの、として扱い、自分たちの測定結果と対比しています2)。
3)の研究(Baeyensら、2006年)は、徒手療法で用いられている法則の当てはめ方の例として、「前腕を内側へ回す動き(回内)で、橈骨の頭(橈骨頭)が尺骨の上を後方へ滑る」という考え方を挙げています3)。
1)の系統的レビュー(Brandtら、2007年)は、この法則を肩甲上腕関節に当てはめて滑りの方向を決めるやり方を、「間接的な方法(indirect method)」と呼んでいます1)。骨の動きを直接測るのではなく、法則から間接的に方向を決める、という意味で用いられている言葉です。
理学療法士はどう受け止めているか(2007年)
7)の研究(Kirbyら、2007年)には、米国の理学療法士660人が参加しました7)。凹凸の法則、関節包パターン(capsular pattern)、肩甲上腕リズム(scapulohumeral rhythm)という3つの理論を、治療の判断でどの程度重視しているかを調べています7)。
- 過半数の理学療法士が、どの理論も治療の判断で「重要」または「とても重要」と答え、よく使っていると答えた7)
- 正常な動きに必要な肩甲上腕関節の並進運動(骨頭が平行に移動する動き)について、臨床家どうしの回答の一致度は非常に高かった7)
著者らは、これらの理論が妥当性を欠くことを示唆する根拠があるにもかかわらず、末梢の関節の生体力学を重視する度合いは、肩甲上腕関節の運動についての特定の理論を採り入れていることに大きく基づいていた、と結論しています7)。これは2007年の米国での調査の結果であり、現在の日本の理学療法士に同じことが当てはまるかは、この研究からは分かりません。
関節の動きを測った研究
投球の準備動作に近い肢位での肩(2000年)
2)は、医用画像から骨を3次元で再構成し、骨の動きを「有限らせん軸(finite helical axis)」のパラメータで表す新しい方法を示した研究です2)。抄録には、対象者の人数は書かれていません。
肩を90°外転・90°外旋した位置から、解剖学的な面に沿って、不安感テスト(apprehension test)の肢位へ動かしたときの結果は、次のとおりです2)。
- 上腕骨頭の中心は、関節窩の上を後方へ移動した2)
- 骨頭は、関節の接触点の位置にある有限らせん軸の周りに回転した2)
- 測ったすべての条件で、肩甲上腕関節は球関節としてふるまわなかった2)
著者らは、この法則に基づく徒手療法のモビライゼーション手技は修正されるべきだと述べています2)。ただし、これは投球の準備動作に近い、限られた肢位での測定です2)。ほかの動きや肢位にも同じことが言えるかは、この抄録からは分かりません。
前腕を回す動きでの橈骨頭(2006年)
3)は、女性3例を対象に、肘を伸ばした状態で、前腕を外側へ回しきった位置(完全回外)、中間の位置、内側へ回しきった位置(完全回内)のCTを撮り、骨を3次元で再構成した研究です3)。肘の近くの関節(近位橈尺関節)と手首の近くの関節(遠位橈尺関節)の接触の位置の移り変わりを、生体で調べています3)。
- 橈骨頭の中心は、回外では尺骨に対して後方、中間の位置では中央、回内では前方にあり、1.96(SD 0.24)mm移動した3)
- 遠位橈尺関節では、回転の中心は尺骨の関節面の曲率の中心付近に、ほぼ固定されていた3)
著者らは、回内での橈骨頭の動きは前方への回転と前方への滑りからなり、徒手療法で用いられている法則の当てはめ方(回内で橈骨頭が尺骨の上を後方へ滑る)とは対照的だ、と述べています3)。そして、この結果は徒手療法に大きな意味をもつとしています3)。ただし、対象は3例のみで、肘を伸ばした状態の、3つの肢位だけを比べたものです3)。
屍体の肩を他動的に動かしたときの骨頭(1990年)
4)は、新鮮な屍体から取り出した7つの肩甲上腕関節を他動的に動かし、骨の位置を測るセンサーと、力とねじる力を測る装置を用いて、上腕骨頭の移動を調べた研究です4)。
- 肩を前に挙げる動き(屈曲)では前方へ、後ろへ引く動き(伸展)では後方へ、再現性のある有意な並進(骨頭の平行な移動)が起きた。腕を体の前で反対側へ運ぶ動き(水平内転)でも並進がみられた4)
- 屈曲で起きる並進は、反対向きに30〜40Nの力を加えても防げなかった4)
- 関節包の後ろの部分を手術で縫い縮めると、屈曲と水平内転での前方への並進が大きくなり、動きのより早い段階で起きた。屈曲では、上方への有意な並進も生じた4)
なお、この研究の抄録は、凹凸の法則には触れていません4)。この記事でこの研究を取り上げるのは、法則とは別に、関節包の状態によって上腕骨頭の移動が変わることを、屍体で示した研究だからです。屍体での他動運動であり、筋肉が働いている生きた肩の動きとは条件が違います。
系統的レビューと臨床試験
肩甲上腕関節についての系統的レビュー(2007年)
1)は、肩を動かしたときに、上腕骨頭が関節窩の上でどの方向へ滑るか(副運動の方向)について、根拠を集めて要約した系統的レビューです1)。著者らは抄録の冒頭で、肩甲上腕関節についての当時の新しい研究が、この法則と、それに基づく実践の指針に疑問を投げかけているようだと述べています1)。
- 581件の文献を選別し、30研究のデータを5つの根拠の表にまとめた1)
- 含まれた臨床試験の質は、PEDroスケール(臨床試験の質を評価する尺度)で平均51.27%だった1)
- 研究間の異質性(ばらつき)のため、数値をまとめるメタ解析は行えなかった1)
- 根拠は「弱く、限られている」と評価された1)
著者らは、方法の質の低さ、根拠の弱さ、研究間のばらつき、そして上腕骨頭が移動する方向についての結果が一貫しないことから、このレビューから確かな結論は出せないとしています1)。そのうえで、上腕骨頭の滑りの方向を決めるときには、受動的な系だけでなく、能動的な系と制御の系も考慮する必要があるかもしれない、と述べています1)。そして、法則を肩甲上腕関節に当てはめる間接的な方法は、見直しが必要かもしれないとしています1)。
この結論は「法則が誤りだと分かった」というものではなく、「今ある根拠からは確かな結論が出せない」という内容です。1)は2007年のレビューであり、それ以降の研究は含まれていません。
関節を前方へ動かすか、後方へ動かすか(2007年)
5)は、凍結肩(adhesive capsulitis)が主な診断で、外旋(腕を外側へ回す動き)に制限のある連続20例を対象にした無作為化臨床試験です5)。著者らは背景として、外旋の改善に、関節を前方へ動かす手技と後方へ動かす手技のどちらが役立つかについて、意見が分かれていたと述べています5)。
全員が6回の治療(超音波療法、関節モビライゼーション、上肢のエルゴメータ運動)を受け、2群の違いはモビライゼーションの方向だけでした5)。結果は次のとおりです5)。
- 治療の開始前には、外旋の可動域に群間差はなかった5)
- 3回目の治療までに、群間に有意な差が生じた(P=.001)5)
- 外旋の可動域の改善は、前方の群で平均3.0°(SD 10.8°、P=.40)、後方の群で平均31.3°(SD 7.4°、P<.001)だった5)
- 痛みは、両群とも有意に減少した5)
著者らは、外旋の可動域の改善には、後方へ動かす手技のほうが有効だったと結論しています5)。これは、この試験の20例の中で2つの方向を比べた結果です。この記事は、これをほかの患者や条件で後方へ動かす手技を行うことの推奨として紹介するものではありません。また、この試験は凹凸の法則が正しいかどうかを確かめたものではありません。この試験の抄録は、凹凸の法則には直接触れていません5)。また、20例という少ない人数の試験で、治療は6回と短期間です5)。
6)の系統的レビュー(Notenら、2016年)は、一次性の凍結肩の成人に対するモビライゼーション手技の無作為化比較試験を、2014年11月より前の文献から集めたものです(12試験・810例)6)。並進のモビライゼーション(骨を平行に動かす手技)を扱った試験は1件で、外旋の回復には後方への滑りのほうが好ましい、とまとめられています6)。この1件がどの試験かは、抄録には書かれていません6)。1件の試験だけに基づく記述であり、この記事はこれを治療の推奨として紹介するものではありません。
まとめ
- 凹凸の法則は、関節の治療手技と関節包内運動の分野でなじみのある概念とされ、2007年の米国の調査では、過半数の理学療法士が治療の判断で重要だと答えていた1)7)
- 投球の準備動作に近い肢位の肩では、上腕骨頭が関節窩の上を後方へ移動し、肩甲上腕関節は球関節としてふるまわなかった2)
- 前腕の回内では、橈骨頭が前方へ移動しており、著者らは、法則の当てはめ方(後方へ滑る)とは対照的だとした。ただし対象は3例3)
- 屍体の肩では、屈曲で前方への並進が起き、関節包の後ろの部分を縫い縮めるとそれが大きくなった。この抄録は法則には触れていない4)
- 肩甲上腕関節についての系統的レビューは、根拠が弱く結果も一貫しないため、確かな結論は出せないとした1)
- 凍結肩の20例の試験では、後方へ動かす群で外旋の改善が大きかった。系統的レビューも、外旋の回復には後方への滑りが好ましいとまとめているが、根拠は1件の試験による。いずれも研究の中での比較の結果であり、治療の推奨や、凹凸の法則の正否を示すものではない5)6)
この記事で扱ったのは、上記7件の研究報告の範囲です。肩と前腕以外の関節(膝・股関節・足関節など)に当てはまるかどうかは、今回確認した資料からは分かりません。また、7件とも抄録のみの確認であり、抄録には示されない方法や結果がある可能性があります。いずれの資料も2016年以前のものです。
本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。
肩関節周囲炎の夜の痛みについては「肩関節周囲炎の夜間痛対策|夜に肩が痛くて眠れない時の寝方と動かし方」で、肩関節周囲炎と腱板断裂の診断については「肩関節周囲炎・腱板断裂の診断」で、それぞれ別に扱っています。
関連note(有料・理学療法士など専門職向け):肩の徒手検査の「数字」を読む|11研究の感度・特異度・尤度比を、対象と基準検査つきで整理した早見表
出典
- Brandt C, Sole G, Krause MW, Nel M. An evidence-based review on the validity of the Kaltenborn rule as applied to the glenohumeral joint. Man Ther. 2007;12(1):3-11. PMID: 16777466
- Baeyens JP, Van Roy P, Clarys JP. Intra-articular kinematics of the normal glenohumeral joint in the late preparatory phase of throwing: Kaltenborn’s rule revisited. Ergonomics. 2000;43(10):1726-37. PMID: 11083151
- Baeyens JP, Van Glabbeek F, Goossens M, Gielen J, Van Roy P, Clarys JP. In vivo 3D arthrokinematics of the proximal and distal radioulnar joints during active pronation and supination. Clin Biomech (Bristol). 2006;21 Suppl 1:S9-12. PMID: 16321461
- Harryman DT, Sidles JA, Clark JM, McQuade KJ, Gibb TD, Matsen FA. Translation of the humeral head on the glenoid with passive glenohumeral motion. J Bone Joint Surg Am. 1990;72(9):1334-43. PMID: 2229109
- Johnson AJ, Godges JJ, Zimmerman GJ, Ounanian LL. The effect of anterior versus posterior glide joint mobilization on external rotation range of motion in patients with shoulder adhesive capsulitis. J Orthop Sports Phys Ther. 2007;37(3):88-99. PMID: 17416123
- Noten S, Meeus M, Stassijns G, Van Glabbeek F, Verborgt O, Struyf F. Efficacy of Different Types of Mobilization Techniques in Patients With Primary Adhesive Capsulitis of the Shoulder: A Systematic Review. Arch Phys Med Rehabil. 2016;97(5):815-25. PMID: 26284892
- Kirby K, Showalter C, Cook C. Assessment of the importance of glenohumeral peripheral mechanics by practicing physiotherapists. Physiother Res Int. 2007;12(3):136-46. PMID: 17624894
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Goyasu | 理学療法士
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