はじめに

人工肩関節置換術(リバース型、reverse total shoulder arthroplasty、以下 rTSA)を受けた後、リハビリをどう進めればよいのか気になる人は多いはずです。通院して理学療法士による正式なリハビリを継続すべきなのか、それとも術者の指導や詳細なマニュアルに沿った自宅療法で足りるのか。rTSAはここ数年で急速に普及が進んでいる一方、術後の最適なリハビリ戦略はいまだ明確になっていないと報告されています1)

先に、この記事の範囲をはっきりさせます。特定の運動メニューを紹介する記事ではありません。ここで整理するのは、rTSA後のリハビリについて「運動をいつ始めるか(早期か遅延か)」「誰の指導で行うか(通院理学療法か自宅療法か)」を比較した無作為化比較試験(RCT)と系統的レビュー・メタアナリシスが、公開された報告として何を示しているかです。

原因・背景

rTSAの普及と論点

222肩を対象にした多施設無作為化比較試験(以下 SHORT試験)の著者らは、「rTSAは人気の面で爆発的な増加を経験しているが、最適なリハビリ戦略は不明のままである」と述べています1)。この記事では、その論点を大きく2つに分けて整理します。ひとつは運動を開始する時期(早期か遅延か)、もうひとつはリハビリを誰が指導するか(通院での理学療法士主導か、自宅での自己主導か)です。

何が比較されているか

今回取り上げるのは、次の4件の研究です。いずれもrTSA後のリハビリを対象にした比較研究であり、治療効果そのもの(rTSAを受けるべきかどうか)を検討したものではありません。

  • SHORT試験1):通院理学療法 vs 自宅療法(術者主導)を比較した多施設RCT
  • 系統的レビュー2):早期運動(14日以内)vs 遅延プロトコル(28日以降)を比較
  • メタアナリシス3):早期運動 vs 遅延運動を、骨折以外の適応に限定して比較
  • 単施設RCT4):監視下通所理学療法 vs 非監視下自宅療法を比較

見極め方・注意点

運動開始を早めた場合の効果(系統的レビュー)

rTSA後の運動開始時期について、2015年1月から2026年3月までに発表されたRCTと比較コホート研究を対象にした系統的レビューがあります2)。運動開始が術後14日以内の群を「早期」、28日以降の群を「遅延」と定義し、3名の評価者がスクリーニング・データ抽出・バイアス評価(CLEAR-NPT・MINORS)とエビデンスの確実性評価(GRADE)を行いました2)7研究(RCT2件、比較コホート5件)、計1,606肩(早期978肩・遅延628肩)が対象です2)

結果として、早期群は術後6週時点の屈曲角度が増加しました2)。しかし術後6〜12か月時点では、可動域および患者報告アウトカム(ASESまたはConstantスコア)は両群で機能的に同等でした2)。脱臼の発生率は早期1.4%・遅延1.4%で差がなく、全合併症は早期15.1%・遅延23.9%でした2)。エビデンスの確実性は、早期群の機能的benefitと合併症について「低〜中」、まれな肩峰骨折・肩甲棘骨折については「非常に低い」と評価されています2)

著者らの結論は、合併症のない一次rTSA後であれば、術後14日以内に他動または自動運動を開始することで早期の可動域がやや早まり、合併症リスクは増えないというものです2)。ただしエビデンスの確実性が限られるため、より質の高い大規模RCTが標準的な方針を定めるまでは、リハビリ時期は個別化すべきとしています2)。著者らは特に、骨減少症(osteopenia)がある患者、肩峰や肩甲棘に痛みがある患者、複雑な再建術を受けた患者、骨折例、再置換例では、より慎重な進行を検討するよう述べています2)。この記述は抄録に基づくもので、原著全文は確認できていません。

合併症リスクをどう見るか(メタアナリシス)

骨折以外の適応でrTSAを受けた患者に限定して早期運動と遅延運動を比較した系統的レビューとメタアナリシスもあります3)6研究、計1,763例が対象で、対象となった研究の方法論的な質は「fair(普通)」から「excellent(優れる)」まで幅がありました3)この系統的レビューの採用基準は、早期を「運動をただちに開始〜術後2〜3週以内」、遅延を「術後およそ3〜6週で開始」と定義しています3)。これは、先に述べた系統的レビュー(早期14日以内・遅延28日以降)2)とは異なる定義です。著者ら自身、採用した各研究における「早期」の実際の定義には、即時から術後2〜3週までのばらつきがあり、この不均一性が比較の精度を下げうる限界であると述べています3)

メタアナリシスの結果、早期運動群は遅延群と比べて屈曲(平均差4.36度)、外転(平均差4.95度)、疼痛VASスコア(平均差−0.40)で統計的に有意な改善を示しました3)。一方、Constantスコア、ASESスコア、外旋角度、脱臼率、再手術率には有意差がありませんでした3)。術後骨折(肩峰骨折・肩甲棘骨折・インプラント周囲骨折を含む)については、1,558例(早期群1,038例・遅延群520例)を対象にした解析で、発生率は早期群3.3%・遅延群8.8%となり、早期群のほうがオッズ比0.31(95%信頼区間0.10〜0.95、P=.04)と統計的に有意に低いという結果でした3)。中等度の異質性(I²=66%)があり、変量効果モデルで解析されています3)

著者らは、早期運動による改善は統計的に有意であるものの、臨床的に意味があるとされる最小差(MCID)を下回る、わずかなものと結論しています3)。同時に、早期運動は術後骨折のリスク低下と関連し、他の合併症を増やさなかったことから、早期リハビリの安全性を支持する結果としつつ、臨床的な効果の大きさは限定的であると位置づけています3)。この研究のエビデンスレベルはIIIです3)

通院療法と自宅療法の比較

通院と自宅を比べた試験

「運動を早めるか遅らせるか」とは別の論点として、「誰の指導でリハビリを行うか」を比較した研究があります。SHORT試験は、7施設・9名の肩肘外科フェローシップ修了かつ症例数の多い術者のもとで、216例・222肩を無作為に、通院で理学療法士が指導するPT群(117肩)と、術者が外来受診時に指導する自宅療法のHT群(105肩)に割り付けた多施設RCTです1)。評価は術前、術後2週・6週・12週、6か月、1年、2年の時点で行われ、能動的・他動的可動域、患者報告アウトカム、合併症、費用が収集されました1)。追跡率は主要評価時点の1年で93%(174/187)、2年で88%(161/183)でした1)

結果として、肩甲面挙上・90度外転位での外旋・0度位での外旋・内旋のいずれの可動域についても、1年時点・2年時点ともに両群間に統計的有意差はありませんでした1)。疼痛の程度、SANE(Single Assessment Numeric Evaluation)、ASESスコア、PROMIS29によるQOLといった患者報告アウトカムにも差はなく、合併症・再手術率にも差はありませんでした1)。群を移った患者(クロスオーバー)を含めたintention-to-treat解析でも、クロスオーバー時点で打ち切ったper-protocol解析でも、この結果は変わりませんでした1)

一方で明確な差が出たのは費用です。HT群は1年間のケアサイクルコストが有意に低く、費用対効果分析(増分費用効果比)でも経済的な価値の優位性が示されました。1年間の費用はPT群が平均17,837.48ドル(標準偏差2,687.34)、HT群が平均11,284.97ドル(標準偏差1,578.08)で、この差は統計的に有意でした(P<.01)1)。著者らは、「平均すると、術者主導の自宅療法はrTSA後の通院理学療法と比べて、同等の臨床的効果をより低い費用で提供する」と結論しています1)

小規模RCTではどうか

同様の問いを、より小規模な単施設で検証した無作為化比較試験もあります4)。60〜85歳でrTSAを受けた患者を、監視下の通所理学療法(SPT群)と非監視下の自宅療法(UHT群)に無作為に割り付けたものです4)。原著全文によると、85例が適格性を評価され、69例が無作為化されましたが、追跡の過程で10例が同意撤回・追跡不能・群間クロスオーバーのいずれかとなり、最終的な解析対象はSPT群30例・UHT群29例の計59例でした4)。UHT群は退院前に渡された詳細な理学療法マニュアルに沿って自己主導で運動を行いました4)。同側肩の感染歴、自己免疫疾患・神経筋疾患の既往、退院後に施設でのリハビリが必要な患者は除外されています4)。主要評価項目は術後1年時点のASESスコアで、盲検化された独立評価者が、SST(Simple Shoulder Test)、Constantスコア、VAS、患者満足度、可動域(3か月・1年時点)を副次的に評価しました4)

この結果について、一次資料の中に食い違いがあります。PubMedに収載された抄録は「SPT群(平均77.6点)とUHT群(平均81.1点)」の順で記載していますが、原著全文のResults本文および結果表は反対に「UHT群77.6点、SPT群81.1点」としており、同じ論文の中で群の対応が一致していません4)。本記事では、症例数・標準偏差まで確認できる原著全文の結果表の値を採用します。術後1年のASESスコアは、UHT群77.6点(23例、標準偏差20.5)、SPT群81.1点(26例、標準偏差15.5)で、統計的有意差はありませんでした(P=.501)4)。可動域についても、3か月時点・1年時点のいずれも有意差はなく、Constantスコア、VAS、患者満足度も両群で同程度でした4)。両群とも再手術例はありませんでした4)

ただし、この研究には重要な限界があります。可動域の対面評価を受けた人数は、3か月時点で41例まで減っています4)。1年時点の人数については、一次資料の中で表記に食い違いがあります。抄録は「1年時点25例」としていますが、原著全文のROMの節と結果表(Table III)は「1年時点の可動域評価はUHT群9例・SPT群14例の計23例」としており、同じ論文内で数値が一致しません4)。いずれにしても、最終解析対象59例から大きく減少しています4)。著者ら自身が、この追跡率の低下により一部の比較が検出力不足になった可能性があると述べています4)。そのうえで著者らは、「自己主導の自宅療法は、正式な監視下理学療法に代わりうる選択肢を示唆する」とし、費用や併存疾患などの理由で正式な理学療法へのアクセスに障壁がある患者にとって意味のある知見だとしつつ、より大規模でより高い追跡率を伴う研究による確認が今後必要としています4)。なお、この研究の原著全文には、SPT群・UHT群それぞれの週ごとの運動内容(可動域訓練の開始時期、プーリーやタオルを使った運動、外旋筋力訓練の開始週など)が具体的に記載されています4)。本記事は研究デザインとアウトカムの比較に範囲を絞っており、個々の運動内容の紹介はこの記事の対象外です。

4件を並べて読む

規模の異なる2件のRCT1) 4)は、いずれも「通院での正式な理学療法」と「自宅での運動」の間に、可動域や患者報告アウトカムの統計的有意差を見出していません。222肩のSHORT試験1)は費用面でも自宅療法(術者主導)の優位性を示しましたが、59例の単施設RCT4)は追跡率の低下という限界を自ら明記しています。運動開始時期については、定義の異なる2つの系統的レビューがあります。系統的レビュー2)(早期14日以内・遅延28日以降)は、早期運動が可動域や合併症全般を悪化させないことを支持しつつ、6〜12か月時点ではROM・PROsが両群で機能的に同等としています2)。メタアナリシス3)(早期は即時〜2〜3週、遅延は約3〜6週。ただしこの定義は研究間でばらついています3))は、疼痛・可動域の改善が統計的に有意ではあるもののMCIDを下回るとしつつ3)術後骨折については早期群3.3%・遅延群8.8%、オッズ比0.31(95%信頼区間0.10〜0.95、P=.04)と、早期群のほうが統計的に有意に少ないと報告しています3)この骨折の結果は、メタアナリシス自身の早期・遅延の定義(即時〜2〜3週 対 約3〜6週)に基づくものであり、系統的レビュー2)の14日/28日という区切りをそのまま当てはめたものではありません。まとめると、主要な機能・患者報告アウトカムの多くでは通院と自宅、早期と遅延の間に大きな差はつかなかった一方、術後骨折という合併症では、メタアナリシス独自の早期・遅延の定義において早期運動群のほうが少なかった、というのがこの4件を通した読み方です。

まとめ

  • 222肩を対象にした多施設RCT(SHORT試験)では、通院理学療法群と自宅療法群(術者主導)の間に、1年・2年時点の可動域・患者報告アウトカム・合併症・再手術率で統計的有意差はなく、自宅療法群のほうが1年間の費用が有意に低かった1)
  • 単施設RCT(69例を無作為化、最終解析59例)でも、監視下通所理学療法と非監視下自宅療法の間にASESスコア等で有意差はなかったが、対面追跡(3か月41例、1年は抄録25例・全文23例と食い違いあり)が大きく低下しており、著者ら自身が検出力不足の可能性を認めている4)
  • 1,606肩を対象にした系統的レビューでは、術後14日以内に運動を開始した群は6週時点の屈曲角度が増加したが、6〜12か月時点ではROM・PROsが機能的に同等で、合併症も増えなかった2)
  • 1,763例のメタアナリシス(早期=即時〜術後2〜3週、遅延=約3〜6週。定義は研究間でばらつきあり)でも、早期運動は疼痛・可動域でわずかに(MCID未満の範囲で)有意な改善を示し、術後骨折の発生率は早期群3.3%・遅延群8.8%(オッズ比0.31、95%信頼区間0.10〜0.95、P=.04)と早期群で有意に低かった3)
  • 単施設RCTの原著全文には、SPT群・UHT群それぞれの週ごとの運動内容が具体的に記載されているが4)、本記事は研究デザインとアウトカムの比較(「いつ」「誰の指導で」行うか)に範囲を絞り、個々の運動内容は扱っていない

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。リハビリの進め方は術式・合併症の有無・個々の状態によって異なります。症状や経過に不安がある場合は自己判断で運動を進めず、担当の医療機関にご相談ください。

出典

  1. Garrigues GE, Cook CE, Kennedy J, Reinke EK, Gillespie RJ, Hatzidakis AM, et al. 2025 Neer Award Part 1: The SHORT trial: multicenter, randomized, controlled trial of surgeon-directed home therapy vs. outpatient rehabilitation by physical therapists for reverse total shoulder arthroplasty. J Shoulder Elbow Surg. 2026;35(4):1129-1143. PMID: 41177296
  2. Alkhouri S, Lau A, Kuni T, Digiacomo D, Ahdout J, Bobeck J, Mousad AD. Early versus conventional postoperative rehabilitation after reverse total shoulder arthroplasty: a systematic review of functional outcomes and complications. Disabil Rehabil. 2026 Jun 10:1-14. doi:10.1080/09638288.2026.2683002. Epub ahead of print. PMID: 42267914
  3. Thamrongskulsiri N, Itthipanichpong T, Kongmalai T, Kongmalai P. Early mobilisation versus delayed protocols after reverse total shoulder arthroplasty for nonfracture indications: A systematic review and meta-analysis. J Exp Orthop. 2025;12(4):e70449. PMID: 41069793
  4. Rees AB, Graham GD, Burger JM, Saltzman BM, Schiffern S, Connor P, Hamid N. Is formal physical therapy necessary after reverse total shoulder arthroplasty? A single-blinded, randomized controlled trial. JSES Int. 2025;9(4):1232-1236. PMID: 40959011

「肩関節周囲炎・腱板断裂の診断」では、肩関節の診断そのものについて整理しています。腱板断裂に伴いやすい上腕二頭筋長頭腱の病変については、上腕二頭筋長頭腱の病変は触診と超音波で見抜けるか 246肩で測った診断精度で別に整理しています。

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Goyasu | 理学療法士

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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