はじめに

筋は、どの長さでも同じ力を出せるわけではありません。筋線維の実験では、発揮される張力は長さによって変わり、ある範囲で最大となって、それより長くても短くても低下することが報告されています1)。この性質は「張力-長さ関係(length-tension relationship)」と呼ばれます2)。筋が最も大きな力を出す長さは「至適長(optimum length)」と呼ばれ4)6)、関節運動として測るときは、トルクが最大になる関節角度(至適角度)として表されます3)。

では、その至適長は運動によって動くものなのか、そしてハムストリングスの肉離れ(muscle strain)と関係があるのか。この記事では、この問いについて公開されている研究報告が何を示しているかを整理します。

先に範囲をはっきりさせます。この記事は、特定の運動の実施方法や、肉離れの予防・治療の方針を示すものではありません。扱うのは、以下の6件の研究(カエルの単一筋線維の実験1件、ヒトの薄筋の術中測定1件、ハムストリングスの遠心性運動の研究3件、肉離れの既往がある選手の比較研究1件)が報告した内容の範囲です。

結論から書きます。ハムストリングスの至適角度は、遠心性運動(収縮している筋が引き伸ばされる運動6))の後に、より長い筋長の側へ移ったと、複数の研究が報告しています3)4)5)。また、肉離れの既往がある筋では、トルクのピークが短い筋長で現れていたという比較研究があります6)。ただし、ヒトを対象とした5件はいずれも対象が10〜28名と小規模で、至適長の移動が肉離れを防ぐことを直接確かめた研究は、今回確認した資料の中にはありません。

張力-長さ関係とは何か

単一筋線維で調べられた「力が最も出る長さ」

張力-長さ関係を単一筋線維で調べた研究のひとつが、1966年に報告された、カエルの横紋筋の単一筋線維を用いた研究です1)。調べる部分の筋線維の中でサルコメア(筋節)の長さがそろうように特別な注意を払ったうえで、等尺性(isometric)の強縮で発揮される張力を、サルコメアの長さごとに測定しました1)。

その結果、張力のピークは一点ではなく、サルコメア長2.05〜2.2 µmの間に平坦な部分(プラトー)として現れました1)。プラトーより長い側では、張力は長くなるにつれて低下し、その低下は1940年の先行研究の報告より急でした1)。プラトーより短い側でも張力は低下し、サルコメア長が約1.67 µmのところで、低下が急に急峻になりました1)。

著者らは、この張力-長さ関係の多くの特徴が、滑り説(sliding-filament theory)で単純に説明できるとしています1)。滑り説は、アクチンとミオシンのフィラメントの重なりの程度から、筋線維の力が長さによって変わることを説明する理論です2)。この研究では、プラトーとそれより長い範囲では、1本の細いフィラメントにかかる張力は、隣り合う太いフィラメント上で重なり合っている各クロスブリッジ(架橋)が等しく寄与した合計であると結論されています1)。なお、この結果はカエルの単一筋線維のものであり、そのままヒトの筋全体に当てはまるかは、この研究だけでは分かりません。

ヒトの筋全体でも同じ関係が見られるか

この問いに答えようとしたのが、2025年に報告された研究です2)。著者らは、滑り説にもとづく張力-長さ関係は動物では調べられてきたものの、ヒトの薄筋のような長い筋全体の振る舞いを説明できるかは分かっていなかったと述べています2)。

この研究では、遊離機能的筋移植術(free functioning muscle transfer)を受けた患者19名を対象に、手術中に4つの関節肢位で、薄筋の最大強縮力と筋腱単位の長さを測定しました2)。全員の生データをそのまま重ねた張力-長さ曲線には、明らかな形が見られませんでした2)。曲線の幅は患者ごとに大きく異なり、著者らはその幅から、各患者の筋線維長(直列に並ぶサルコメアの数)を推定しています2)。

各患者の直列サルコメア数で正規化すると、ヒトの筋全体の張力-長さ曲線は滑り説でよく予測され、単純なサルコメアの張力-長さモデルで、等尺性の力の分散の79.7%が説明されたと報告されています2)。つまりこの研究では、ヒトの長い筋でも、患者ごとの筋線維長・フィラメント長・腱のコンプライアンス・サルコメアの短縮を考慮すれば、張力-長さ関係は滑り説でモデル化できるという結果が得られています2)。ただし、対象は手術を受けた19名の薄筋であり、他の筋や、健常者が関節を動かすときの筋でも同じ精度で当てはまるかは、抄録からは分かりません。

ハムストリングスの至適長は遠心性運動で変わるか

1回の遠心性運動の後に至適角度が移った研究

2001年の研究では、10名(男性8名・女性2名)が、専用の器具を用いたハムストリングスの遠心性運動(12セット×6回)を行いました3)。等速性筋力計(isokinetic dynamometer)で膝の最大随意屈曲・伸展を行い、膝の角度ごとのトルクから、ハムストリングスの角度-トルク曲線を作成しています3)。測定は、運動前の1週間、運動直後、そして運動後8日目まで毎日行われました3)。

結果、運動直後に、トルクが最大となる至適角度が、より長い筋長の側へ平均7.7°(標準偏差2.1°)移動しました(P<0.01)3)。著者らはこれを、一部の筋線維の中で直列の伸びやすさ(コンプライアンス)が増したことを示すものと解釈しています3)。その後、脚の周径の増加と筋痛がみられ、筋の損傷が示唆されました3)。そして至適角度の移動は、ほかの損傷の指標が正常に戻った後も続いていました3)。8日後に2回目の遠心性運動を行った6名では、1回目より筋損傷の徴候が少なかったと報告されています3)。

著者らは、この研究を、遠心性運動による損傷に対する防御的な変化として、ヒトの筋で至適角度の持続的な移動を示した最初の研究と位置づけています3)。ただし対象は10名で、対照群を置いた比較は抄録に記載がありません3)。

プロサッカー選手の無作為化比較試験

2010年の研究は、スペインのプロサッカーチーム(2部リーグ)の選手28名を、遠心性運動を行う介入群と対照群に無作為に割り付けた無作為化比較試験です4)。4週間のプレシーズン中、両群とも通常のサッカートレーニングを行いました4)。期間中に対照群の2名が大腿直筋を受傷し、2名が他クラブへ移籍したため除外され、介入群13名・対照群11名で解析されています4)。

4週間後、膝屈筋の至適長は、対照群で2.3°、介入群で4.0°、いずれも有意に長い側へ移り(P<0.05)、介入群の変化は対照群より有意に大きいものでした4)。膝伸筋の至適長は、介入群でのみ6.5°有意に増加しました4)。一方、ピークトルクと、大腿四頭筋とハムストリングスのトルク比は、どちらの群でも有意な変化はありませんでした4)。なお、介入群が行った遠心性運動の具体的な内容は、抄録には記載がありません4)。

股関節の角度を変えて行った比較

2016年の研究の著者らは、ハムストリングスが股関節と膝関節をまたぐ二関節筋であり、股関節を曲げた姿勢で膝を伸ばすと、筋腱単位に大きな伸張ストレスがかかると説明しています5)。そのうえで、一般的な予防目的の遠心性運動(ノルディックハムストリングなど)は股関節屈曲をほとんど含まないと指摘し5)、同じ遠心性運動を、筋が短い条件と長い条件で行った場合の違いを調べました5)。

この研究では、運動習慣がレクリエーション程度の22名を、11名ずつ2群(各群女性6名・男性5名)に無作為に割り付けました5)。両群とも3週間で8回、等速性筋力計で膝をゆっくり(毎秒30°)伸ばしながら最大の力で抵抗する遠心性運動を、1回あたり3〜5セット×8回行いました5)。違いは姿勢だけで、短い筋長群は股関節0°(あおむけ)、長い筋長群は股関節80°屈曲(座位)で行っています5)。超音波で大腿二頭筋長頭の筋束長(fascicle length)と羽状角を、等速性筋力計で至適角度とピークトルクを評価しました5)。なお、筋力の測定は両群とも股関節80°屈曲の座位で行われており、これは長い筋長群が運動を行った姿勢と同じです5)。

介入後の測定では、筋束長は短い筋長群で4.9%(p<0.01)、長い筋長群で9.3%(p<0.001)増加しました5)。求心性(concentric)収縮での至適角度は、長い筋長群で17.3°、より長い筋長の側へ移り(p<0.01)、短い筋長群では8.8°の移動傾向にとどまりました(p=0.09)5)。遠心性収縮での至適角度は、長い筋長群で10.7°の移動傾向(p=0.06)、短い筋長群では変化がありませんでした(p=0.19)5)。遠心性のピークトルクは両群で増加し(短い筋長群12.9%、長い筋長群17.9%)、求心性のピークトルクはどちらの群も変化しませんでした5)。また、筋束長の増加量と、求心性の至適角度の移動量には相関がありました(r=−0.57、p<0.01)5)。

ここで注意が必要なのは、どの指標でも、群と時間の交互作用は認められなかった点です5)。つまり、長い筋長群の変化のほうが大きく見えても、統計的には「長い筋長で行ったほうが変化が大きい」とは示されていません5)。著者ら自身も、長い筋長での遠心性運動がより大きな適応をもたらすかを確かめるには、さらなる研究が必要だとしています5)。本文では、実施期間が8回のみであること、対照群が無いこと、筋束長の一部を推定で補っていること、大腿二頭筋長頭しか調べていないことが限界として挙げられ、筋束長の増加量の群間差を検出するには各群28名が必要だったという試算も示されています5)。

肉離れの既往がある筋の至適長

2004年の研究は、片側のハムストリングスに肉離れの既往がある選手9名を対象に、受傷した側の筋の至適角度を、反対側の筋、および受傷歴の無い選手18名の筋と比較しました6)。測定には等速性筋力計が用いられています6)。

結果、肉離れの既往がある筋では、トルクのピークが有意に短い筋長で現れていました6)。一方、ピークトルクそのものや、大腿四頭筋とハムストリングスのトルク比には有意差がありませんでした6)。つまりこの研究では、筋力の大きさでは差が見えず、力が最大になる角度に差が見られたことになります6)。

著者らは、至適長が短い筋は遠心性運動による損傷を受けやすく、それが再受傷の多さを説明するかもしれないと考察しています6)。ただし同時に、短い至適長が受傷前からの状態なのか、治癒の過程で生じた結果なのかは区別できないとも述べています6)。この研究は、すでに受傷した筋とそうでない筋を比べたものであり、至適長の短さが肉離れの原因であることや、将来の受傷を予測できることを確かめたものではありません6)。

まとめ

  • カエルの単一筋線維では、張力はサルコメア長2.05〜2.2 µmの平坦部で最大となり、それより長くても短くても低下した。著者らはこの関係の多くを滑り説で説明できるとした1)
  • 手術中に測定したヒトの薄筋19例では、各患者の直列サルコメア数で正規化すると、筋全体の張力-長さ曲線が滑り説でよく予測された(力の分散の79.7%を説明)2)
  • ハムストリングスの至適角度は、遠心性運動の後に長い筋長の側へ移ったと報告されている(1回の運動後に7.7°3)、4週間の介入で4.0°4)、3週間の介入で求心性の至適角度が17.3°〈長い筋長群〉5))
  • 股関節を曲げた姿勢(筋が長い条件)と伸ばした姿勢で行った比較では、長い条件の変化が大きく見えたが、群間の差は統計的に示されていない5)
  • 肉離れの既往がある筋では、トルクのピークが短い筋長で現れたが、それが受傷の原因か結果かは分かっていない6)
  • ヒトを対象とした今回の5件は、いずれも10〜28名の小規模な研究であり、至適長の移動が肉離れを防ぐかを直接確かめた研究は、今回確認した資料には含まれていない

この記事で扱ったのは、上記6件の研究報告の範囲です。どの運動を、どの程度の量で行えばよいか、肉離れの予防や再発予防にどの程度役立つかは、今回確認した資料からは分かりません。また、1件(2016年の研究)を除き、原著全文は確認できていないため、抄録には示されない解析や除外基準がある可能性があります。

本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。

ハムストリングスのように2つの関節をまたぐ筋の性質については「ニ関節筋」理学療法関連用語で、遠心性トレーニングの研究を部位別に読む視点については「アキレス腱付着部症の遠心性トレーニング」で、それぞれ別に整理しています。

出典

  1. Gordon AM, Huxley AF, Julian FJ. The variation in isometric tension with sarcomere length in vertebrate muscle fibres. J Physiol. 1966;184(1):170-192. PMID: 5921536
  2. Wang Z, Persad LS, Binder-Markey BI, Hoffman EM, Litchy WJ, Shin AY, Kaufman KR, Lieber RL. In vivo human gracilis muscle active force-length relationship is explained by the sliding filament theory. J Physiol. 2025;603(10):3049-3059. PMID: 40349312
  3. Brockett CL, Morgan DL, Proske U. Human hamstring muscles adapt to eccentric exercise by changing optimum length. Med Sci Sports Exerc. 2001;33(5):783-790. PMID: 11323549
  4. Brughelli M, Mendiguchia J, Nosaka K, Idoate F, Arcos AL, Cronin J. Effects of eccentric exercise on optimum length of the knee flexors and extensors during the preseason in professional soccer players. Phys Ther Sport. 2010;11(2):50-55. PMID: 20381001
  5. Guex K, Degache F, Morisod C, Sailly M, Millet GP. Hamstring Architectural and Functional Adaptations Following Long vs. Short Muscle Length Eccentric Training. Front Physiol. 2016;7:340. PMID: 27536252
  6. Brockett CL, Morgan DL, Proske U. Predicting hamstring strain injury in elite athletes. Med Sci Sports Exerc. 2004;36(3):379-387. PMID: 15076778

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Goyasu | 理学療法士

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Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
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