SLAP損傷の手術は偽手術と差が出たか 118例の三群無作為化試験

はじめに
SLAP損傷(superior labrum anterior posterior lesion/上方関節唇の前後方向の損傷)は、Snyderらが上腕二頭筋長頭腱と上方関節唇が関節窩縁から一体として剥離した状態を表すために用いた語です1)。
先に、この記事で扱う範囲をはっきりさせます。SLAP損傷の分類や診断手順を解説する記事ではありません。ここで整理するのは、II型SLAP損傷の手術について、比較試験が何を報告しているかです。
結論から書きます。孤立性のII型SLAP損傷と関節鏡で確認された118例を、関節唇修復・上腕二頭筋腱固定・偽手術の3群へ無作為に割り付けた二重盲検試験では、6か月時点でも24か月時点でも、どの評価項目でも群間に有意差が出ませんでした1)。3群とも改善しています1)。
この試験に無治療群はありません。偽手術群も診断的関節鏡を受け、3群とも同じ標準化されたリハビリを受けています1)。したがってこの結果は「肩に何もしなくてよい」という意味にはなりません。肩の診断そのものについては、「肩関節周囲炎・腱板断裂の診断」で別に整理しています。
偽手術と比べた三群試験
どういう研究か
この研究は二重盲検・3群無作為化・偽手術対照試験で、2年間追跡されています1)。ノルウェー・オスロのLovisenberg Diaconal Hospitalで、2008年1月から2014年1月にかけて行われました1)。
組み入れは次の条件でした1)。
- 18〜60歳
- 3か月を超える肩痛があり、従来の非手術治療(理学療法、非ステロイド性抗炎症薬、ステロイド注射)に反応しなかった
- 病歴・臨床所見・MR関節造影がSLAP損傷を示唆していた
- O’Brienテスト・Crankテスト・painful apprehension testのうち、少なくとも1つが陽性(研究プロトコルに記載。本試験の報告本文には明記されていないため、出典5)のプロトコルから補っている)
主な除外基準は、肩の手術既往、関節唇嚢腫を伴うSLAP損傷、肩鎖関節または肩甲上腕関節の関節症の臨床・画像所見、腱板または上腕二頭筋長頭腱の断裂です1)。公表されている研究プロトコルには、これに加えて反復性肩関節脱臼またはSLAP損傷に対する手術既往、滑膜軟骨腫症、線維筋痛症、重大な身体疾患または精神疾患、ノルウェー語を理解できない場合、示された治療選択肢のいずれかを受け入れる意思がない場合も除外条件として挙げられています5)。445名を評価して118名が組み入れられました1)。平均年齢は40歳です1)。
なお原著は、64歳の患者1名が誤って組み入れられたと記しています1)。年齢の上限は60歳ですが、実際の対象にはこの逸脱が含まれます1)。
特徴的なのは割付の時点です。全例に関節鏡を行い、孤立性のII型SLAP損傷が確認された時点で無作為化されました1)。群の内訳は関節唇修復40名、上腕二頭筋腱固定39名、偽手術39名です1)。
偽手術群には標準的な診断的関節鏡を行い、加えて修復を模した5mmの皮膚切開を入れ、実際の手術に要する時間だけ手術室に留めています1)。3群とも、標準化されたうえで個別に調整されたリハビリを受けました。三角巾を3週間使い、12週から上腕二頭筋の段階的負荷を始め、リハビリは3〜6か月継続しています1)。
主要評価項目に差は出なかった
主要評価項目はRowe score(0〜100、高いほど良い)とWOSI(Western Ontario Shoulder Instability Index、0〜2100、低いほど良い)で、6か月と24か月に測定されました1)。
結果は、どの追跡時点でも、どの評価項目でも群間に有意差がありませんでした1)。24か月時点のRowe scoreの群間差はこうです1)。
- 腱固定 対 関節唇修復:1.0(95%信頼区間 −5.4〜7.4)、p=0.76
- 腱固定 対 偽手術:1.6(−5.0〜8.1)、p=0.64
- 関節唇修復 対 偽手術:0.6(−5.9〜7.0)、p=0.86
この群間差は、年齢・性別・ベースライン値・時間・肉体労働・身体活動・利き手側で調整した値です1)。
一方で、3群とも改善しています。未調整のRowe score(平均)は、ベースラインで腱固定60.3・偽手術63.2・関節唇修復62.7だったものが、24か月で腱固定86.8・偽手術85.3・関節唇修復85.8になりました1)。1年時点で「excellent または good」と回答したのは、偽手術31/37(84%)、関節唇修復29/35(83%)、腱固定34/38(89%)です1)。
追跡の欠測も報告されています。2年時点で4名が追跡不能となりました(偽手術群2名、他の2群が各1名)1)。
盲検と再手術
盲検がどの程度成立したかも報告されています。最初の25名には盲検の質問をしていません1)。質問を受けた人のうち、修復されたと信じていたのは偽手術後19/26(73%)、腱固定後31/32(97%)、関節唇修復後31/35(89%)でした1)。著者らは、偽手術群で73%にとどまったことが結果を偏らせた可能性があると述べています1)。
再手術については、偽手術群の14名が6〜24か月の間に再手術を受けました(12名が関節唇修復、2名が腱固定)1)。腱固定群では6名、関節唇修復群では4名が再手術を受けています1)。ただし偽手術群から再手術に至った14名のうち、24か月時点でRowe scoreが80を超えていたのは8名、肩を良好または優と評価したのは7名でした1)。
著者らは、再手術率が偽手術群で高かったことについて、治療の失敗の差ではなく盲検が解除されたことに関係した可能性を否定できないとしています1)。
有害事象は、重篤な有害事象・感染・神経損傷はありませんでした1)。遷延性の術後拘縮(capsulitis)が10名に生じ、内訳は関節唇修復5名、腱固定4名、偽手術1名(術後3週の外傷による)です1)。
著者らが書いている限界
この試験の限界として、著者ら自身が挙げているものを並べます1)。
- 標本が小さい(ただしRowe scoreの信頼区間は、試験が検出しようと設計した10を含んでいない)
- 445名を評価して118名という厳格な基準のため選択バイアスの危険がある。内的妥当性は上がるが、結果は特定の集団に当てはめられるものではない
- 主要追跡時点を6か月にしたのは主に倫理上の理由である
- 診断的関節鏡を行わない監督下運動療法の効果について、この研究は情報を与えない。自然経過を見る群も、偽手術なしの理学療法群も置いていない
最後の点は重要です。この試験が比較したのは3つの手術室での処置であって、手術と保存療法ではありません1)。
著者らの結論は、「この集団のII型SLAP損傷に対して、関節唇修復も上腕二頭筋腱固定も支持しない」というものです1)。同時に、この領域に質の高い試験が少ないことを踏まえ、結果は慎重に解釈すべきとも書いています1)。
無症状の肩をMRIで撮ると
45〜60歳の53名を撮った横断研究
診断が難しい背景として、著者らは中年の無症状集団で上方関節唇損傷の有病率が高いことが報告されていると述べています1)。その報告を見てみます。
これは横断研究(エビデンスレベル3)です2)。対象は無症状の成人53名(45〜60歳)で、両肩に手術・外傷の既往がなく、肩痛のVASが0を超える人は除外され、身体所見に異常があった人も除外されています2)。無作為に決めた片側の肩に非造影MRI(1.5T)を撮り、研究の目的と対象者の年齢に盲検化された2名の筋骨格系専門の放射線科医が読影しました2)。
読影の結果
上方関節唇損傷と読影されたのは、放射線科医1が38件(72%)、放射線科医2が29件(55%)でした2)。読影者間の一致は中等度(κ = 0.410)です2)。
読影結果は、年齢(P=.87)、性別(P=.41)、撮ったのが利き手側かどうか(P=.99)、肉体労働(P=.08)、オーバーヘッドスポーツ経験(P=.62)で差がありませんでした2)。ただしこの集団で肉体労働をしていたのは11%(6名)、オーバーヘッドスポーツ経験があったのは9%(4名)で、投球選手の集団ではありません2)。
著者らは、45〜60歳ではMRIで高頻度に上方関節唇損傷と診断されるとし、治療判断には臨床的判断の裏づけが必要と結論しています2)。臨床的意義としては、過剰治療を避けるため、この年齢層でMRI診断された上方関節唇損傷は年齢相応の正常所見でありうると認識すべきと書いています2)。
これは無症状の人を撮った結果であり、症状がある人でのMRIの診断精度を測ったものではありません2)。
画像所見と痛みの関係を別の関節で扱った記事として、画像だけで痛みを説明できるか 膝OA197例があります。
復職と関連していた因子
先の三群試験の二次解析として、病休日数と復職を調べた報告があります3)。対象は同じ試験の118名のうち、就業していた114名です。組み入れ時に就業していなかった4名(学生3名、障害年金1名)は解析から除かれています3)。病休日数は全国登録から、手術前1年分と手術後2年分が取得されました3)。
報告されている数値です3)。
- 手術後2年間の総病休日数は平均148労働日(勤務日)(範囲0〜460日)。原著は working days と記している
- 病休日数の80%超を、患者の22%が占めた
- 肩関連と分類された病休が、総日数の80%を占めた
- 3群とも、手術の翌年の平均総病休日数は倍になった
- 偽手術と関節唇修復は腱固定より術後の病休日数が少なかったが、手術前年の病休日数で調整すると有意ではなかった
2年後の復職と関連していた因子として、ロジスティック回帰では組み入れ時に病休がないこと(オッズ比 8.0、95%信頼区間 2.4〜26.0)と中等度の不安または抑うつ症状(オッズ比 0.16、95%信頼区間 0.05〜0.5)が挙がりました3)。lasso回帰でも同様の結果が得られ、加えて肉体労働が挙がっています3)。このロジスティック回帰モデルの解析対象はn=109であり、先に述べた病休日数の記述統計(114名)より5名少ない数です。原著はこの5名がなぜ回帰モデルから外れたかを明記していません3)。
ここでいう不安・抑うつは、原著の表脚注に自己申告の症状であり、担当医が認めたものではないと明記されています3)。診断名ではありません。またこれは二次解析で観察された関連であり、復職を決める原因が特定されたわけではありません3)。
著者らは限界として、標本が小さいこと、仕事の要求度の詳細な評価がないこと、非手術の対照群がないことを挙げています3)。
修復と腱切離・腱固定の比較
関節唇修復と上腕二頭筋腱切離・腱固定を比べたシステマティックレビュー・メタアナリシスもあります4)。組み入れは8研究(RCT 2件、後ろ向き研究6件)、7か国(ノルウェー・中国・米国・豪州・韓国・フランス・イタリア)で2008〜2017年に行われたもので、325名(修復162名/腱切離・腱固定163名)、追跡12〜41.1か月です4)。各研究群の平均年齢は31〜64.7歳の範囲に分布しており、個々の参加者の年齢範囲そのものではありません。組み入れられた研究の内訳表には、年齢範囲が示されているものだけでも18歳から81歳までの参加者が含まれています4)。
対象は「孤立性のII型SLAP損傷」に限らない点に注意が要ります。このメタアナリシスの組み入れ基準は
「腱板断裂を伴う場合と伴わない場合の両方を含む、II型SLAP損傷」であり4)、
組み入れられた8研究のうち、Kimらの研究は広範囲〜大規模腱板断裂を合併した症例を、
Franceschiらの研究は腱板修復を併施した50歳超の症例を対象としています4)。
先に挙げた偽手術対照RCT1)が対象とした「孤立性のII型SLAP損傷」(腱板断裂の臨床・画像所見がある例は除外)とは、
対象集団の性格が異なります。
統合結果です4)。
- ASESスコア(3研究・83名):平均差 −6.32(95%信頼区間 −10.08〜−2.55)、P=0.001、I²=52%、変量効果モデル
- 満足度(4研究・修復77名/腱固定83名):オッズ比 0.31(0.12〜0.81)、P=0.02、I²=11%、固定効果モデル
- UCLAスコア(3研究・96名):平均差 −2.42(−5.16〜0.31)、P=0.08、I²=89% → 有意差なし
- SST(2研究・74名):平均差 −0.81(−1.86〜0.23)、P=0.13、I²=66% → 有意差なし
- 合併症(4研究・150名):オッズ比 3.63(0.50〜26.32)、P=0.20、I²=0% → 有意差なし
著者らの結論は、両者とも有益であり、腱切離・腱固定はASESスコアと満足度でより良い臨床成績を示し、合併症は同等というものです4)。ただし異質性と交絡を考えると、この結論が適用できるかは今後の研究で確かめる必要があると書いています4)。組み入れ論文が少なく出版バイアスを無視できないことも明記されています4)。
読むときに注意が要る点があります。ASESスコアの統合に使われた3研究は、いずれも後ろ向き研究です4)。また、このメタアナリシスが関節唇修復と比べているのは腱切離・腱固定を合わせた集団であり、腱固定だけを取り出した比較ではありません4)。一方、先に挙げた二重盲検の無作為化試験は、腱固定単独と関節唇修復の間に有意差を認めていません1)。比較している術式の組み合わせ自体が異なります。メタアナリシスが比べているのは「腱切離・腱固定をまとめた集団」対「修復」であり、中心RCTが比べているのは「腱固定単独」対「修復」です。この2研究の差異を「同一の術式を比べた試験間の食い違い」として解釈することはできません1)4)。
確認できる範囲と限界
- 中心となる試験1)は、445名を評価して118名を組み入れた厳格な基準の研究です。著者ら自身が「結果は特定の集団に当てはめられるものではない」と書いています1)
- この試験は手術と保存療法を比べていません。3群とも関節鏡を受け、3群とも同じリハビリを受けています1)
- 無症状者のMRI研究2)は45〜60歳・53名の横断研究で、肉体労働は11%、オーバーヘッドスポーツ経験は9%です。若年の投球選手には当てはめられません2)
- 病休の報告3)は二次解析であり、著者らは非手術の対照群がないことを限界に挙げています3)
- メタアナリシス4)はRCT 2件と後ろ向き研究6件を統合したもので、著者らは出版バイアスを無視できないと書いています4)。組み入れ基準は腱板断裂を伴う場合と伴わない場合の両方を含み、孤立性のII型SLAP損傷を対象とした中心RCT1)とは対象集団の性格が異なります4)
- 資料1の対象には、年齢上限60歳に対して64歳が1名、誤って組み入れられていたことが原著に記されています1)
- 復職の解析3)は就業していた114名を対象としており、118名全体の結果ではありません。さらに復職の予測因子を示したロジスティック回帰の解析対象はn=109で、原著は114名との差5名の理由を明記していません3)
- 復職の予測因子は関連であって因果ではなく、不安・抑うつは自己申告の症状です3)
- SLAP損傷の分類そのものや診断手順は、ここで挙げた資料に基づいて解説していません
本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。肩の症状について判断が必要な場合は、医療機関にご相談ください。
まとめ
- 孤立性のII型SLAP損傷118例を関節唇修復・上腕二頭筋腱固定・偽手術に割り付けた二重盲検試験では、6か月・24か月のいずれでも、どの評価項目でも群間に有意差がなかった1)
- ただし3群とも改善している。未調整のRowe scoreの平均は、3群ともベースライン60.3〜63.2から24か月で85.3〜86.8になった1)
- この試験に無治療群も保存療法単独群もない。著者らは、診断的関節鏡を行わない監督下運動療法の効果について情報を与えないと明記している1)
- 無症状の45〜60歳53名の横断研究では、上方関節唇損傷と読影されたのが72%と55%(読影者2名)、一致は中等度(κ = 0.410)だった2)
- 就業していた114名の二次解析(復職予測モデルはn=109)では、2年後の復職と関連した因子として組み入れ時に病休がないことと中等度の不安・抑うつ症状(自己申告)が挙がった。関連であって因果ではない3)
- 修復と腱切離・腱固定を合わせた集団を比べたメタアナリシスは腱切離・腱固定が優る項目を報告したが、ASESの統合は後ろ向き研究3件のみであり、腱固定単独と修復を比べた中心RCTはどの評価項目でも差を認めていない1)4)
出典
- Schrøder CP, Skare Ø, Reikerås O, Mowinckel P, Brox JI. Sham surgery versus labral repair or biceps tenodesis for type II SLAP lesions of the shoulder: a three-armed randomised clinical trial. Br J Sports Med. 2017;51(24):1759-1766. PMID: 28495804
- Schwartzberg R, Reuss BL, Burkhart BG, Butterfield M, Wu JY, McLean KW. High Prevalence of Superior Labral Tears Diagnosed by MRI in Middle-Aged Patients With Asymptomatic Shoulders. Orthop J Sports Med. 2016;4(1):2325967115623212. PMID: 26779556
- Brox JI, Skare Ø, Mowinckel P, Brox JS, Reikerås O, Schrøder CP. Sick leave and return to work after surgery for type II SLAP lesions of the shoulder: a secondary analysis of a randomised sham-controlled study. BMJ Open. 2020;10(4):e035259. PMID: 32241790
- Ren YM, Duan YH, Sun YB, Yang T, Hou WY, Tian MQ. Is arthroscopic repair superior to biceps tenotomy and tenodesis for type II SLAP lesions? A meta-analysis of RCTs and observational studies. J Orthop Surg Res. 2019;14(1):48. PMID: 30760293
- Skare O, Schrøder CP, Reikerås O, Mowinckel P, Brox JI. Efficacy of labral repair, biceps tenodesis, and diagnostic arthroscopy for SLAP lesions of the shoulder: a randomised controlled trial. BMC Musculoskelet Disord. 2010;11:228. PMID: 20929552(出典1)の研究プロトコル)
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Goyasu | 理学療法士
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