はじめに

「片脚立ちで骨盤が下がるのがトレンデレンブルグ、体幹が傾くのがデュシェンヌ。……で合っていましたか」

学生や新人の方から、この確認をよく受けます。名前が似ていて、同じ場面で観察する所見なので、混ざりやすいところです。

結論から言えば、向きの取り方さえ間違えなければ、その理解でおおむね合っています。ただ、臨床で使うには、もう少し押さえておきたい点があります。

  • 骨盤の下降は、体幹を傾けることで代償されうると報告されている
  • 体幹が傾いていても、原因が外転筋の弱化とは限らない(疼痛でも生じうると報告されている)
  • 検査が陽性でも、外転筋の弱化を特定できるわけではない
  • そもそも陽性の基準そのものが定まっていない

この記事では、両者の違いを整理したうえで、歩行としてどう現れるか、そして検査をどこまで信じてよいかまで扱います。

用語の整理 — 何を報告した現象か

トレンデレンブルグ徴候

患側の脚で体重を支えているとき(=患側の立脚期)に、反対側=遊脚側の骨盤が下がる現象です。

StatPearls は次のように記しています(筆者訳)。

股関節とその外転機構に損傷があると、病変のある側とは反対側の骨盤が下垂する。立位でのこの反対側股関節の下垂が、陽性のトレンデレンブルグ徴候である。異常のある側の立脚期に反対側股関節の下垂が繰り返されることが、トレンデレンブルグ歩行を生む。

歩行では、遊脚側の股関節が下がるという形で見えます。Pirker らの総説はこう記しています(筆者訳)。

中殿筋の弱化により、遊脚側の股関節が一歩ごとに下がる(トレンデレンブルグ徴候と呼ばれる)。

「患側の立脚期」と「対側=遊脚側の骨盤が下がる」は同じ場面の表と裏です。どちらの脚で支えているのかを先に決めてから見ると、混乱しません。

なお、「対側=健側」とは限りません。StatPearls は、びまん性の筋疾患やミオパチーのように両側性の病態では骨盤の下垂が一歩ごとに左右交互に起こる、と記しています。片側性が確認できている場合にだけ「非患側」と書き、そうでなければ「対側」「遊脚側」と書くほうが安全です。

デュシェンヌ現象(デュシェンヌ徴候)

同じ場面で、体幹が患側=立脚側へ傾く現象です。

Pirker らの総説は、この代償をこう説明しています(筆者訳)。

患者はしばしば、遊脚側の股関節が下がるのを打ち消そうとして、立脚期にある側へ体幹を曲げる(ドイツ語圏の文献ではこれをデュシェンヌ徴候と呼ぶ)。

StatPearls も、体幹の傾く向きを同じ側としています(筆者訳)。

損傷した外転筋は骨盤を水平に保てないため、患者は良いほうの側へ倒れると同時に、バランスを保つために体幹を病変側へ傾ける。

体幹が傾くのは患側(支えている側)です。ここを取り違えると、左右が逆になります。

現在の区別

トレンデレンブルグ徴候デュシェンヌ現象
いつ見るか患側の立脚期(患側での片脚立位)同じく患側の立脚期
何が起きるか対側=遊脚側の骨盤が下がる体幹が患側=立脚側へ傾く
主に見えるもの骨盤の下がり体幹の傾き
見る場所左右の腸骨稜の高さ体幹の側屈方向
性質支えきれずに起きてしまうことそれを打ち消そうとする動き

両者は無関係ではありません。Rose-Dulcina らは「骨盤の下降はデュシェンヌ跛行パターンによって代償されうる」と述べています(筆者訳)。骨盤が下がる側の問題があっても、体幹の傾きという形で現れることがある、ということです。ただし体幹が傾いている理由は外転筋の弱化とは限りません(後述)。

「デュシェンヌ歩行」— 歩行として現れたもの

歩行として現れたものは、英語文献では Duchenne limp(デュシェンヌ跛行) と表記されます。本記事のタイトルは、これに当たる日本語表記として「デュシェンヌ歩行」を用いています。

Rose-Dulcina らは、2つの跛行パターンを次のように並べて定義しています(筆者訳)。

トレンデレンブルグ跛行パターンは「片脚立位中の対側の骨盤下降」と定義された。デュシェンヌ跛行パターンは、片脚支持期に、患側の立脚肢へ体幹が傾き、かつ遊脚肢側の骨盤が安定しているか挙上していることと定義された。

遊脚側の骨盤が「下がる」のか、「下がらない・むしろ上がる」のかが、この定義での分かれ目です。

同論文は、両者の関係もこう述べています(筆者訳)。

骨盤の下降はデュシェンヌ跛行パターンによって代償されうる。したがってデュシェンヌ跛行パターンは、疼痛と、重度のトレンデレンブルグ跛行における外転筋の弱化の、いずれによっても生じうる。

ここは注意が必要です。デュシェンヌ徴候(sign)とデュシェンヌ跛行(limp)は、同じ「患側への体幹傾斜」を指しますが、資料によって想定している原因の範囲が違います。

参照した資料での位置づけ
Duchenne sign(Pirker ら)中殿筋弱化による骨盤下降を打ち消そうとする動きとして説明されている
Duchenne limp(Rose-Dulcina ら)人工股関節全置換術の患者を対象とした報告で、疼痛でも、重度のトレンデレンブルグ跛行における外転筋弱化でも生じうるとされている

少なくともこの報告の範囲では、体幹が患側へ傾いているという見た目だけで、原因が疼痛なのか外転筋の弱化なのかは決まりません。

何が弱ると起こるのか

StatPearls は、トレンデレンブルグ歩行を “an abnormal gait resulting from a defective hip abductor mechanism”(股関節外転機構の不全から生じる異常歩行)と定義しています(筆者訳)。

関わる筋と神経は次のとおりです。

  • 中殿筋・小殿筋(gluteus medius / minimus)
  • 上殿神経(superior gluteal nerve)が支配する

同資料の説明はこうです。片脚が地面を離れる遊脚期には、支持されていない側へ骨盤が下がろうとします。これを防ぐのが、支持している側の中殿筋・小殿筋の収縮です。したがって外転機構が壊れると、病変のある側で支えているとき(患側の立脚期)に、反対側=遊脚側の骨盤が下垂します。

原因 — 「てこ」のどこが壊れたか

同資料は股関節の外転機構を第1種のてことみなし、支点・レバー・力のどこが破綻しても陽性になりうる、という整理をしています。原文の分類はこうです(筆者訳)。

破綻する要素挙げられている病態
支点の破綻股関節の骨壊死、ペルテス病、発育性股関節形成不全、外傷後の慢性脱臼、股関節結核などの感染後の慢性脱臼
レバーの破綻大転子の裂離、大腿骨頸部の偽関節、内反股
力(外転筋の弱化)の破綻ポリオ、L5神経根症上殿神経の障害、中殿筋・小殿筋の腱炎、中殿筋・小殿筋の膿瘍、人工股関節全置換術後

「外転筋が弱い」だけが原因ではない、というのがこの分類の要点です。筋力は保たれていても、支点やレバーが壊れていれば同じ現象が起こります。術後とL5神経根症が「力」の列に並んでいる点も、股関節そのものの疾患だけを想定していると見落としやすいところです。

歩行としてどう現れるか

用語は片脚立位の話ですが、実際に目にするのは歩いている場面です。

トレンデレンブルグ歩行

股関節外転筋の低下を伴う股関節疾患の方では、歩行時の立脚期にトレンデレンブルグ徴候を来すことがあります。これがトレンデレンブルグ歩行と呼ばれます。

lurching gait(重度のときの呼び方)

StatPearls は次のように記しています(筆者訳)。

跛行が重度である場合、身体の重心の釣り合いをとるために、病変のある側への代償的な屈曲またはよろめきが起こる。この跛行が lurching gait と呼ばれる。

患側への体幹傾斜によって重心を移し、バランスを保つ代償です。向きはデュシェンヌ現象と同じ患側です。

同資料は、検査場面についても次のように記しています(筆者訳)。

外転機構が弱いと、骨盤は支持されていない側へ下がる。より重度の弱化では、患者は患側へ傾く。

同資料が体幹傾斜を挙げているのは「跛行が重度である場合」の文脈です。弱化が軽度なら骨盤の下がりが目立つ、といった段階づけまでは述べられていません。目の前で何が見えているかを、そのまま記述してください。

紛らわしい原語を整理しておく

原語ごとに、参照した資料での定義と文脈を確認しておきます。同じ所見を指す場合もあれば、指す範囲が違う場合もあります。

原語参照した資料での意味
Trendelenburg gait / sign患側の立脚期に、対側=遊脚側の骨盤が下がる
Duchenne sign同じ場面で体幹が患側=立脚側へ傾く。中殿筋弱化による骨盤下降を打ち消そうとする動きとして説明されている
Duchenne limp患側の立脚肢へ体幹が傾き、遊脚肢側の骨盤が安定または挙上する歩行パターン。人工股関節全置換術の患者を対象とした報告で、疼痛によっても、重度のトレンデレンブルグ跛行における外転筋弱化によっても生じうるとされている
lurching gait跛行が重度のときの、病変側への代償的な屈曲・よろめきに対する呼び名
waddling gait股関節帯・大腿近位筋の弱化(ミオパチー等)による、よちよちとした歩行全体の呼び名
antalgic gait患側の立脚期が短縮すること
coxalgic gait股関節痛により、患側の立脚期に上部体幹が患側へ偏位すること

Pirker らの総説は、トレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ徴候を waddling gait の節のなかで説明しています。waddling gait は個々の徴候の名前ではなく、歩行パターン全体の呼び名である点に注意してください。

「中殿筋歩行」という語について

本記事の旧版では、中殿筋歩行という語を用いて、その定義と他の用語との包含関係を説明していました。しかし、本記事が参照した資料には、この語の定義も、他の用語との関係を定める記述もありません。裏づけを確認できなかったため、本記事では定義を示しません。

記録に残すときは、この語だけで済ませず、どちらの脚で支えているとき、骨盤と体幹に何が起きていたかを書いてください。用語の当てはめより、そちらのほうが確実に伝わります。

検査の手順と、その限界

トレンデレンブルグテストの手順

StatPearls は次のように記しています(筆者訳)。

患者は患側の脚で最大30秒間、片脚立位となる。検者は患者の後方、股関節の高さに立ち、

骨盤の両側の腸骨稜に手を置いて、片脚立位の間に骨盤が水平を保つかを観察する。

陽性の定義はこうです(筆者訳)。

陽性のトレンデレンブルグ徴候とは、非患側で骨盤が下がることである。

🔴 ここからが重要です

同資料は、検査の解釈に大きな議論があるとし、次のように述べています(筆者訳)。

陽性検査についての確立された標準は存在しない。

実際、同資料によれば、骨盤下降のどこからを陽性とするかを客観的に定義した報告はごく限られています。挙げられているのは2つだけで、骨盤傾斜角2度を超えることを陽性とした報告(Asayama ら)と、片脚立位中の非立脚側の骨盤下降が4度を超えるか、立脚期の最大骨盤下降が8度を超えることを陽性とした報告(Westhoff ら, 2005)です。

そして、偽陽性・偽陰性の要因が列挙されています(いずれも原文の列挙から抜粋。筆者訳)。

挙げられている要因
偽陽性肥満/内転拘縮/内反股・内反膝など下肢軸の内方化/腰方形筋が健全でないこと/疼痛/バランス不良/協力や理解の不足/肋骨骨盤インピンジメント/側弯
偽陰性骨盤より上の筋の使用/腸腰筋・大腿直筋の使用/股関節を支点としてバランスをとるための、体幹の大きな側方移動/骨壊死の初期段階

原文は、健常者でも外転筋が十分に働いていなければ骨盤下降は起こりうるとも述べています。

注目したいのは、偽陰性の要因に「股関節を支点としてバランスをとるための、体幹の大きな側方移動」が挙げられている点です。デュシェンヌ現象として体幹が傾いていれば、骨盤の下がりは目立ちにくくなります。体幹の代償が起きていると、トレンデレンブルグテストは陰性に見えうるということです(要因として挙げられているという意味であり、どれくらいの頻度でそうなるかは述べられていません)。

同資料は結論として、トレンデレンブルグ徴候だけでは股関節の病態を診断できず、あくまで診断を助けるための身体所見の一つであると述べています。医療者は問診と身体診察を一通り行い、必要な検査画像を加えたうえで最終診断に至るべきである、という位置づけです。

臨床でどう使うか(本記事独自の整理)

この節は、上記の資料をもとに私が臨床上の考え方として整理したものです。

参照した資料に、この手順を支持する記述はありません。確立された方法ではなく、

一つの組み立て方として読んでください。

① 骨盤と体幹を分けて見る

どちらの脚で支えているときに、対側=遊脚側の骨盤が下がっているのか、体幹が患側へ傾いているのか、両方なのかを分けます。支持脚を決めずに見ると、左右が逆になります。

② 陰性を「問題なし」と読まない

StatPearls は、股関節を支点としてバランスをとるための体幹の大きな側方移動偽陰性の要因として挙げています。つまり、陰性であることは、外転機構の問題がないことを意味しません。

③ 疼痛の有無を確認する

疼痛は偽陽性の要因として挙げられています。つまり、陽性であることが、そのまま外転筋の弱化を意味するとは限りません。

なお、疼痛に由来する歩行について、Pirker らの総説は2つを別の項目として扱っています。混同しやすいところです。

原語総説での定義
antalgic gait(鎮痛性歩行)患側の立脚期が短縮すること
coxalgic gait(股関節痛による歩行)患側の立脚期に上部体幹が患側へ偏位すること

体幹が患側へ傾くのは coxalgic gait のほうです。同総説は、こう記しています(筆者訳)。

股関節痛のある患者では、患側の立脚期に上部体幹が典型的に患側へ偏位する。……中殿筋の弱化によるデュシェンヌ徴候とは対照的に、反対側の半骨盤は下がらず、患側の立脚期を通じて水平のままである

ただし、これを「骨盤が下がっていなければ疼痛が原因」という鑑別則として使わないでください。デュシェンヌ跛行パターン自体が「遊脚肢側の骨盤が安定しているか挙上している」と定義されており、疼痛でも、重度のトレンデレンブルグ跛行における外転筋弱化でも生じうると述べられています。骨盤が下がっているかどうかだけでは、原因を切り分けられません。

疼痛の有無、外転筋力、患側の立脚時間、骨盤と体幹の動き、経過や病歴を合わせて初めて、原因の見当がつきます。

④ 徴候名で止めず、何が起きているかを書く

トレンデレンブルグ徴候は「支えきれずに骨盤が下がった」という所見であり、デュシェンヌ現象は「それを打ち消そうとした」代償です。性質が違うので、まとめて「代償」と呼ばないほうが正確です。徴候名を記録して終わるのではなく、どちらの現れ方をしているか、どの程度かまで書いておくと、次に見る人が判断できます。

まとめ

  • 患側の立脚期に、対側=遊脚側の骨盤が下がるのがトレンデレンブルグ徴候。同じ場面で体幹が患側=立脚側へ傾くのがデュシェンヌ現象。骨盤の下降は体幹の傾きによって代償されうると報告されている
  • 関わるのは中殿筋・小殿筋、支配は上殿神経
  • 原因は支点・レバー・力のどこが破綻しても起こる。「力」の列にL5神経根症・人工股関節全置換術後が並ぶ
  • 跛行が重度の場合に患側への代償的な屈曲・よろめきが起こる(lurching gait)。waddling gait は歩行パターン全体の呼び名で、個々の徴候名ではない
  • 検査は患側での最大30秒の片脚立位で腸骨稜の高さを見る。陽性は非患側(対側)の骨盤が下がること
  • 陽性検査の確立された標準は存在しない(客観的に定義した報告は2件のみ)。偽陽性の要因に肥満・疼痛・バランス不良など、偽陰性の要因に体幹の大きな側方移動が挙げられている
  • 本徴候だけでは股関節の病態を診断できない。診断を助けるための身体所見の一つ
  • デュシェンヌ跛行は、疼痛でも、重度のトレンデレンブルグ跛行における外転筋の弱化でも生じうると報告されている。見え方が同じでも原因は一つではない

徴候の名前を覚えることと、目の前の人に何が起きているかを説明できることは別です。検査が何を見ていて、何を見落とすのかまで含めて持っておくと、陰性だったときの判断が変わります。

本記事の位置づけ

本記事は、参照した資料の記述と、そこから私が整理した見方をまとめたものです。

受診の要否や時期、緊急度を判断するための情報は含んでいません。本記事は一般的な情報提供であり、個別の医学的助言に代わるものではありません。

参考情報

出典の内訳

記述の種類ごとに、根拠の強さが異なります。

  • 上記5資料の記載に基づく記述:外転機構の定義と破綻の分類、関与する筋と神経、トレンデレンブルグ徴候・デュシェンヌ徴候の向きと相、デュシェンヌ跛行の定義と原因、lurching gait と waddling gait の位置づけ、検査手順、陽性の定義、陽性基準の客観的定義、偽陽性・偽陰性の要因、単独では診断できない旨、antalgic gait と coxalgic gait の区別。引用部分は「筆者訳」と明記しています。
  • 参照資料に裏づけを確認できなかったため、確定した事実として扱っていない記述:「中殿筋歩行」という語と、他の用語との包含関係。本文中でもその旨を明記しています。旧版に記載していた「1869年のデュシェンヌの報告」という歴史記述は、裏づけを確認できなかったため本文から削除しました。
  • 筆者の整理:「臨床でどう使うか」の節。参照した資料に、この手順を支持する記述はありません。本文中でもその旨を明示しています。

あわせて読みたい

参考書籍

本記事の内容をさらに深めたい方へ。既存記事から引き続き紹介しています。

※本ページはAmazonアソシエイトプログラムに参加しています。書籍の内容や効果を保証するものではありません。

この記事は、理学療法士が運営するサイトで、AIを活用して作成しています。公開前に、出典との対応と表現について独立した自動監査を行っています。

ABOUT ME
Goyasu
後藤靖昇(Goyasu)。理学療法士・整形外科専門。2017年より臨床に従事し、膝関節・腰椎・肩関節を中心とした運動器リハビリテーションを専門とする。【資格】日本疼痛リハビリテーション協会マスター/NASM-PES(米国認定パフォーマンス向上スペシャリスト)/理学療法士協会認定管理者研修上級/心理カウンセリング1級・コーチング1級/剣道三段。【役職】愛知県理学療法学会理事(令和7・8年度)。エビデンスに基づく臨床思考と、患者個別の文脈を重視した介入を実践している。
スポンサーリンク(A8.net)お名前.comで独自ドメインを確認する →