関節軟骨の栄養はどこから届くか 滑液・軟骨下骨・荷重を調べた6研究

はじめに
関節軟骨には血管がありません1)。では、軟骨の中にいる細胞は、必要な物質をどこから受け取っているのでしょうか。また、関節を動かしたり体重をかけたりすることは、その受け渡しに関わっているのでしょうか。
この記事では、①軟骨の栄養の通り道(関節の中の液体=滑液の側と、軟骨の下の骨=軟骨下骨の側)、②荷重や動きが軟骨への物質の出入りを変えるか、③ヒトの膝で、荷重や動きの有無・運動量と軟骨の状態に違いがみられるかという3つの点を、以下の6件の研究報告の範囲で整理します。
先に範囲をはっきりさせます。この記事は、運動の種類や量、日常生活の過ごし方を勧めるものではありません。扱うのは、軟骨の試料を使った実験研究4件(ヒトの軟骨1件、ウマの関節1件、ウマとヒトの試料1件、試料の由来が抄録に書かれていないもの1件)と、ヒトの膝をMRIで調べた研究2件(脊髄損傷の方を受傷後の時点別に健常者と比べた研究1件、運動量の異なる健常者を比べた横断研究1件)です。6件とも原著全文を確認できておらず、抄録に書かれている範囲で記述しています。
結論から書きます。軟骨の栄養は主に滑液からの拡散で運ばれる、という考え方が研究の前提として示されています1)。一方で、ウマの関節では、軟骨の深い層へは軟骨下骨の側からの経路も寄与しうると報告されています2)。荷重については、ヒトの軟骨の実験で、歩行を模した周期的な荷重は小さな物質の出入りの速さを有意に変えず、大きな物質(血清アルブミン)の放出を30〜100%速めたと報告されています1)。また、滑らせる動きは、軸方向に押す荷重より物質の取り込みを大きくしたという実験結果があります4)。ヒトの膝では、脊髄損傷の方の膝の軟骨は、受傷6・12・24か月のいずれの時点でも健常者より薄く、12か月以降は調べた3つの面すべてで有意な差がありました5)。ただし、ヒトの体の中で栄養の運搬そのものを測った研究は、今回の6件には含まれていません。
軟骨には血管がない。栄養はどこから届くのか
前提として示されている「滑液からの拡散」
1990年の研究の抄録は、研究の前提として、関節軟骨には血管がなく、栄養は主に滑液からの拡散によって細胞へ運ばれると述べています1)。拡散とは、物質が濃いところから薄いところへ自然に広がっていく動きのことです。同じ抄録は、軟骨に周期的な荷重がかかると液体が軟骨に出入りし、それが栄養の運搬を助けるという考え方(「ポンプ作用」)が示されることもある、と紹介しています1)。この研究は、そのポンプ作用を実際に測ったものです(次の章で詳しく扱います)。
なお、ここで述べた「主に滑液からの拡散」は、この抄録が背景として書いている内容です1)。この研究がその前提自体を新たに測定したわけではありません。
ウマの関節では、軟骨下骨の側からも物質が届いた
2008年の研究は、軟骨の深い層にいる細胞へ、軟骨の下の骨の側から栄養が届く経路があるかを調べました2)。具体的には、軟骨の深い部分にあるタイドマーク(tidemark)と石灰化軟骨(calcified cartilage)が、分子量の小さな物質を通すかどうかと、軟骨下の微小な血液循環から石灰化軟骨への運搬、およびそこに静的な荷重がかかったときの影響です2)。
材料は成熟したウマの中手指節関節(前肢の指の付け根の関節)で、2つの方法が用いられました2)。1つは、軟骨と軟骨下骨を含む試料を、物質が通り抜ける量を測る装置(拡散セル)の膜として使う方法、もう1つは、関節をまるごと残して液を流し続けた状態(灌流した関節)で調べる方法です2)。目印となる物質(トレーサー)には、分子量約400 Daのフルオレセインとローダミンを用い、組織の切片を蛍光顕微鏡で定量しました2)。
結果は次のとおりです2)。
- 石灰化軟骨は、2種類のトレーサーをどちらも通した。軟骨の表面側からも、軟骨下骨の側からも通した2)
- 2種類のトレーサーの有効拡散係数はいずれもおよそ9×10−9 cm²/秒で、石灰化していない軟骨の5分の1だった2)
- 石灰化した層は一様ではなく、タイドマークの近くで2種類のトレーサーの取り込みが多かった2)
著者らは、石灰化軟骨は小さな物質を通し、成熟したウマでは、軟骨下の循環が軟骨の深い層の栄養に有意に寄与しうると結論しています2)。対象はウマの関節であり、ヒトで同じことを確かめた研究ではありません2)。
ヒトの試料でも、軟骨と骨の境目を物質が越えた
2017年の研究は、ウマとヒトの試料を用いて、軟骨と骨の境目(骨軟骨境界)を物質が通るかを調べました3)。抄録の背景には、それまでにマウスの変形性関節症のモデルで、小さな分子(約370 Da)が石灰化軟骨と軟骨下骨板を通るという証拠が一部示されていたと書かれています3)。
この研究では、電荷をもたないCT用の造影剤(イオジキサノール、約1550 Da)を軟骨の表面に一定量置き、マイクロCTで繰り返し撮影して広がりを追いました3)。その結果、造影剤の分子は軟骨と骨の境目を越えて浸透していました3)。境目を越える拡散は、ヒトの試料でもウマの試料でも、軟骨下骨の厚さと多孔性(すき間の多さ)、および軟骨の厚さに影響されていました3)。
どの要因の影響が大きかったかは、試料によって異なりました3)。
- 健常なウマの試料では、軟骨下骨板の多孔性が、ほかの形態の指標よりも強く拡散に寄与していた3)
- 軽度の変形性関節症があるヒトの試料では、軟骨下骨板の厚さが、より強く拡散に寄与していた3)
この研究が調べたのは造影剤の通りやすさ(透過性)であり、抄録は軟骨と軟骨下骨の相互のやりとりを変形性関節症の成り立ちとの関係で位置づけています3)。軟骨の細胞の栄養がこの経路でどれだけまかなわれているかを測ったものではありません。また、使われたヒトの試料は、軽度の変形性関節症があるものでした3)。
荷重や動きは、軟骨への物質の出入りを変えるか
歩行を模した周期的な荷重:小さな物質では差がなかった
1990年の研究は、前の章で紹介した「ポンプ作用」を調べた実験です1)。ヒトの大腿骨頭(太ももの骨の、股関節側の端)の軟骨の小片を、放射性の目印をつけた物質を含む液に浸したうえで、歩行を模した周期的な荷重(2.8 MPa、1 Hz)を加えました1)。そして、物質が軟骨に吸収される速さ、または軟骨から放出される速さを、荷重を加えない試料と比べています1)。
結果は、物質の大きさによって分かれました1)。
- 小さな物質(尿素、ヨウ化ナトリウム)では、液体の移動は物質の運搬の速さに有意な影響を与えなかった1)
- 大きな物質(血清アルブミン)では、周期的な荷重を加えた試料で、放出の速さが30〜100%増えた1)
著者らは、グルコースや酸素など主要な栄養素の多くは小さな物質であるため、栄養はポンプ作用の影響を受けないはずだと述べています1)。ただし、この研究でグルコースや酸素そのものを測ったかどうかは、抄録には書かれていません。抄録に挙げられている測定対象は、尿素、ヨウ化ナトリウム、血清アルブミンです1)。
滑らせる動きは、押す荷重より取り込みを大きくした
2021年の研究は、関節の動きを2つの要素に分けて、軟骨への物質の取り込みを比べました4)。1つは関節面を滑らせる動き(sliding)、もう1つは軸方向に周期的に押す荷重(uniaxial compression)です4)。あわせて、荷重をかけない状態での受動的な拡散を、軟骨の表層を残した試料と取り除いた試料で比べています4)。試料は骨と軟骨を含む小片(骨軟骨プラグ)で、関節面を蛍光液にさらし、表面から軟骨下骨までの取り込みを蛍光顕微鏡で定量しました4)。試料がどの動物やヒトに由来するかは、抄録には書かれていません。
結果は次のとおりです4)。
- 取り込まれた量は、滑らせる動きのほうが軸方向の荷重より、0.5時間の時点で2.1倍(p=0.004)、2時間の時点で4.4倍(p=0.002)多かった4)
- 2時間の時点で、どちらの荷重条件でも、表層を残した試料の12時間の受動的な拡散と同じかそれを上回る量に達していた4)
- 平衡に達した時点の総取り込み量と1時間あたりの取り込み量は、表層を取り除いた試料のほうが、表層を残した試料より多かった4)
- 滑らせる動きの試料では取り込みの速さが落ちておらず、著者らは、滑らせる動きによる取り込みは組織が受動的に受け入れられる量を超えうるとしている4)
著者らは、滑らせる動きは周期的な軸方向の荷重よりも大きな、物質の運搬を進める要因であり、細胞の栄養などに関わる意味をもつと結論しています4)。この研究は試料を用いた実験であり、生きた関節の中で同じことが起きているかを確かめたものではありません。
止まったまま押し続ける荷重では、取り込みが減った物質があった
前の章で紹介した2008年のウマの研究では、灌流した関節に静的な荷重(動かさずに押し続ける荷重)をかけたときの影響も調べています2)。その結果、ローダミンBの運搬は変わりませんでしたが、フルオレセインの濃度は軟骨の表層と深層の両方で有意に低下しました2)。著者らは、静的な荷重は、関節の中で、小さく負の電荷をもつ物質の取り込みを減らすと結論しています2)。
1990年の研究(周期的な荷重・ヒトの軟骨)1)、2008年の研究(静的な荷重・ウマの関節)2)、2021年の研究(滑らせる動きと軸方向の荷重)4)は、試料、荷重のかけ方、目印にした物質がそれぞれ異なります。3件の結果を、同じ条件で比べた結果として並べることはできません。
ヒトの膝で、荷重・動きと軟骨の状態に違いはみられたか
脊髄損傷の後、受傷からの期間が長い時点ほど、膝の軟骨は健常者との差が大きかった
2002年の研究は、ヒトの膝の軟骨を生体のままMRIで調べた研究で、脊髄損傷の後に膝の軟骨が進行的に薄くなるという仮説を検証しました5)。抄録の背景には、動物では荷重の除去や固定の後に軟骨の形・成分・力学的性質が変わるが、その結果は一貫しておらず、ヒトでも起こるかは明らかでなかったと書かれています5)。
対象は、外傷による完全な脊髄損傷の方で、受傷から6か月(9名)、12か月(11名)、24か月(6名)の時点で膝の軟骨をMRIで撮影し、平均・最大の厚さと面積を算出して、若年の健常者9名と比べました5)。平均の厚さの差は次のとおりです5)。
- 受傷6か月:膝蓋骨で10%、脛骨の内側で16%薄く、有意差があった(P<0.05)。脛骨の外側は10%薄かったが、有意差はなかった5)
- 受傷12か月・24か月:膝蓋骨で21%・23%、脛骨の内側で24%・25%、脛骨の外側で16%・19%薄く、3つの面すべてで有意差があった(P<0.05〜0.01)5)
著者らは、正常な荷重と動きがない状態で、ヒトの軟骨が進行的に薄くなる(萎縮する)ことを初めて示したと結論し、脊髄損傷の方や手術の後に固定される方の管理に重要な意味をもちうると述べています5)。
この研究で測られたのは、MRIでみた軟骨の厚さと面積です5)。軟骨の栄養や物質の運搬は測られておらず、薄くなった理由が栄養の不足によるものかどうかは、この研究からは分かりません。また、各時点の人数は6〜11名で、比較の相手は若年の健常者です5)。時点ごとに人数が異なり、同じ方を繰り返し測った数値かどうかは、抄録からは分かりません。
運動量の違う人たちで、膝の軟骨のMRIの値が異なっていた(横断研究)
2004年の研究は、年齢をそろえた健常者を運動量で3群に分け、膝の軟骨をdGEMRICというMRIの方法で比べた横断研究です6)。dGEMRICは、水になじみやすい造影剤(Gd-DTPA2−)が軟骨に浸透した後のT1という値から、軟骨に含まれるグリコサミノグリカン(glycosaminoglycan)の量を推定する方法で、この研究では造影剤を静脈に注射した2時間後に撮影しました6)。
3群と、大腿骨の内側・外側の軟骨の平均のT1は次のとおりです6)。
- 運動をしていない人12名:382±33 ms6)
- 週平均2回の運動をしている人16名:424±22 ms6)
- 男性のエリートランナー9名:476±36 ms6)
T1は3群の間で有意に異なっていました(1群と2群の比較でP=0.0004、2群と3群の比較でP=0.0002)6)。また、運動量にかかわらず、大腿骨の外側の軟骨のT1が内側より長いという結果でした(P=0.00005、37名)6)。
著者らは、この横断研究は、ヒトの膝の軟骨がグリコサミノグリカンを増やすことで運動に適応することを示すとしています6)。同時に、エリートランナーの高いT1は、細胞外の水分の割合が大きいこと(分布容積が大きいこと)である程度説明されうるとも述べています6)。
この研究は、ある一時点で異なる人たちを比べた横断研究です6)。同じ人が運動を始めて軟骨が変わったかを追ったものではありません。また、この方法は造影剤が軟骨へ浸透することを利用していますが、測定の目的はグリコサミノグリカンの量の推定であり6)、軟骨の栄養の運搬を評価したものではありません。
まとめ
- 関節軟骨には血管がなく、栄養は主に滑液からの拡散で運ばれるという考え方が、1990年の研究の前提として示されている1)
- 成熟したウマの関節では、石灰化軟骨が小さな物質を通し、著者らは軟骨下の循環が深い層の栄養に寄与しうると結論した2)。ウマとヒトの試料で、造影剤が軟骨と骨の境目を越えて浸透した3)
- ヒトの軟骨の実験で、歩行を模した周期的な荷重は、小さな物質の運搬の速さに有意な影響を与えず、血清アルブミンの放出を30〜100%速めた1)
- 試料を用いた実験で、滑らせる動きは軸方向の荷重より取り込みが多かった(0.5時間の時点で2.1倍、2時間の時点で4.4倍)4)。ウマの関節で、静的な荷重はフルオレセインの取り込みを減らした2)
- 脊髄損傷の方の膝の軟骨は、受傷6・12・24か月の時点で健常者より薄く、著者らは進行的な菲薄化と結論した(各時点6〜11名)5)。運動量の多い群ほど、グリコサミノグリカンの量を推定するMRIの値が高かった(横断研究)6)
この記事で扱ったのは、上記6件の研究報告の範囲です。物質の運搬を調べた4件は、軟骨の試料や灌流した関節を用いた実験で1)2)3)4)、そのうち1件はウマの関節、1件はウマとヒトの試料を用いたものでした2)3)。ヒトの膝を調べた2件は、軟骨の厚さやグリコサミノグリカンの量を推定する値を測ったもので5)6)、栄養の運搬そのものは測っていません。6件とも原著全文を確認できていないため、抄録には示されない解析や条件がある可能性があります。どのような動きや運動をどのくらい行えば軟骨の栄養に役立つかは、今回確認した資料からは分かりません。
本記事は、公開されている研究報告の内容を整理したものであり、診断や治療方針を示すものではありません。症状がある場合は自己判断で運動を進めず、医療機関にご相談ください。
安静や固定の間に筋がどれだけ落ちるかを調べた研究については「安静・固定で筋はどれだけ落ちるか 6つの研究の数値」で、膝の中に液体がたまったときの太ももの筋力の変化については「実験的な膝の関節液貯留で大腿四頭筋の筋力が低下」で、それぞれ別に整理しています。
出典
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- Culliton KN, Speirs AD. Sliding contact accelerates solute transport into the cartilage surface compared to axial loading. Osteoarthritis Cartilage. 2021;29(9):1362-1369. PMID: 34082132
- Vanwanseele B, Eckstein F, Knecht H, Stüssi E, Spaepen A. Knee cartilage of spinal cord-injured patients displays progressive thinning in the absence of normal joint loading and movement. Arthritis Rheum. 2002;46(8):2073-2078. PMID: 12209511
- Tiderius CJ, Svensson J, Leander P, Ola T, Dahlberg L. dGEMRIC (delayed gadolinium-enhanced MRI of cartilage) indicates adaptive capacity of human knee cartilage. Magn Reson Med. 2004;51(2):286-290. PMID: 14755653
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Goyasu | 理学療法士
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